4.不覚
少しだけ大人な回になります。
苦手な方は飛ばしてください。
──「なぁ、プリンまだか?」
「まだ冷えておりませんよ?」
「そう言えば先日頂いた、苺を入れた大福を作ってみたのですが、召し上がります?」
「何故先にそれを言わない!!」
光様が少しむくれた。
「先程出来たばかりですもの」
「まだ誰も口にしてないと?」
「……味見に一つわたくしが」
凛花は少し小さくなって片目を瞑る。
「まぁそれなら良いわ。いただくとするか」
「茶の用意をしますね」
「ああ~~茶は俺が用意するから、その大福を早う」
「分かりました」
そそくさと立ち上がり御手自ら茶葉を急須にいれるのは、次期の天子様となる御方。
でも、この二人にはそれが日常だった。
「お待たせ致しました」
「美味い!!」
「でしょう?」
凛花はまだ育ち前の小ぶりな胸をこれでもかと言うぐらい前に突き出した。
「凛花さんや、止めなさい」
可哀想な子を見るような優しい目で長身の美丈夫は、娘を見た。
「……」
「大丈夫だって、俺は大女は好みではない」
「……慰めになりませんが?」
光君を少し恨めしそうに睨んだ。
「今のままの凛花が良いのだ」
「……」
「なぁ、そろそろよくないか? 正式に決まった訳だし」
「駄目です」
「なんでだ?」
「当たり前でしょう!!」
「俺が良いと言って、誰かが否を唱えると?」
少し語気荒めに言う。
「そう言うことでは御座いません。わたくしは夫が軽んじられるを甘んじて受けるつもりは御座いません!!」
「……」
凛花の強い眼差しにシュンと頭を垂れる。
「そう言うところだけは断固として堅いのぉ、相いも変わらず……」
「今はこれで、我慢なさってください」
椅子に座っている光君に、凛花は彼の両頬を自分の両手の平で軽く挟み、そのままの状態で上方から、まるで周りから隠すように覆い、彼の紫に輝く瞳をそっと閉じさせ、その瞼に軽く口づけし、その後ゆっくり耳たぶに口づけ、段々と下へ向かい、首筋に少し強めに押し当てた。。
──ゾクッ
思わず声を出しそうになる。
堪らず彼女の手を振りほどき、今度は自分の前に引き寄せ膝の上に迎える。
此処が隣の政務室でなかったことに安堵し、手を伸ばし鍵を掛けた。
──ガチャリ。
「で、」
何か言おうとする女の口を自らの唇で塞いだ。
彼女の上衣に手を掛け、前を開く。
そっと露わになる白い肌に唇を重ね、彼女の両手首を握る。
「お前が悪いんだぞ。止めろって言うなよ? もう」
そんな目で見られたら……止めて欲しいなんてもう……
そのまま男は細く小さな女を抱き上げ、奥にある寝台へとゆっくり向かい、自分の上衣を脱いだ。
半分露わになっている女の上衣に再び手を掛け脱がそうとしたとき、彼女の手が自分の手首を掴んだ。
「やっぱり駄目でしょう?」
嘘だろ? ここで止めろと?
「本気で言ってる?」
「勿論で御座います」
真剣な顔をして即答した女に、彼は苦笑いしながら言う。
「お前が一番この国で大罪人かもな」
そう言って彼女の額に自分の額をコツンとぶつけた。
「けじめは大事で御座いますから」
悪びれもなく正論を説く目の前の女に、どうしょうもない腹立ちと憎らしさと、可愛さで再度強く抱きしめた。
「お疲れでは? 少しお眠りになられては?」
「……勿体ない!!」
「そう言う問題では……」
あ!
凛花はふと思いたった。
「そのままで少しだけお待ち下さいますか?」
上衣を脱ぎ上半身が露わになった男に、こともあろうか女はそのまま暫し待てと言う。
何をはじめる気だ? この女?
まさかとは思うが何か変な趣味の持ち主ではあるまいな?
少しだけ男は不安になる。
まぁどんな趣向が趣味だろうと、自分が一生添い遂げると誓った女。
その趣向にも受けてたとうではないか! と、男は覚悟を決めようと思っていた。
「お待たせしました」
「何だそれ??」
「ささ、まずは背を向けてくださいな?」
そう言って凛花は男の身体に少し触れ促す。
「う、うん?」
圧に押され、言われるがままに動いてしまった。
彼女は小瓶の液体を自分の手に塗る。香油か?
「実は、先日三木堂より届いた「白珠油」で御座います。白珠の油と椿油を混ぜ、安らかになる効果がある薫衣草の精油を混ぜた香油を使い、殿下のお身体をほぐしますね」
そう言って彼女は男の背に素手で油を塗っていく。
「お、おい……」
「じっとしていて下さいな?」
これがじっとしていられるか……
湯桶で温められた香油を、心底惚れた女が素手で背中に塗っている。
上へ下へとその手は怪しく舐めた。
そのまま腰の辺りまで手が届く。
腰骨の横に手がさしかかった時、ゾクリと何かが反応した。
女の手が徐々に強く背中を押しほぐす。
ここ最近の仕事の疲れが同時にほぐされていく。
「ちょ、り、凛花」
あろうことか彼女は自分の下衣の帯を解き、尻部分には布を被せたものの、惚れた女の前で下着一枚で寝台に寝かされている。
「そ、そのようなところを……」
身体に香油を塗られることは何度も過去にはあった。
湯浴み後に。ただそれは年老いた紀恵か、女官頭であった。
だが、今は自分が惚れた女である。
十九の健全男子に意識するなと言う方が無理である。
下半身は自然と反応している。
女が太股に香油を塗り、素手で上へ下へと手で擦る。
──ビクン
理性が飛びそうで、止めさせたいと思うが、止めて欲しくない気持ちが正直な気持ちだった。
太股の付け根辺りに女の手が滑かに入り込む。声が出そうになり、懸命に堪えるが身体は正直に反応していた。求めるが如く腰を反射的にずらす。
あまりに気持ち良く、昇天しそうになり抵抗する思考を放棄してしまう。
そしてこの時、男にとって非常に残念だったのは、ここ数日間の大量の仕事により疲労困憊だったことだ。
あまりの心地よさと、仄かに香る香油の匂い。信頼する女の少し温かい柔らかな手の効果で身体がほぐれ、不覚にも意識を手放してしまうと言う大失敗をおかしてしまう。
凛花が香り付けに選んだのは安眠効果の定番、ラベンダーの精油だったのだ。
──ガチャリ。
女は男が寝息をたてて寝たことを確認し、そっと部屋を後にした。
「少しでも眠て頂けたら良いのですが」
男の気持ちとは裏腹に、彼女は男の身体を心配していた。
──トントントン。
「失礼します」
凛花は急ぎドア前に近づき、口元に自分の人差し指を立てた。
「何事か御座いましたか?」
支宣は少し心配になりたずねる。
凛花は隣の部屋を指さし
「寝ておいでです」
そう言って目配せした。
「なるほど、随分根を詰めておられましたからねぇ」
支宣は、ここ数日間の主の狂気とも思える仕事振りを思い出して、やっと束の間の睡眠がとれたことに安堵し、その束の間を主に与えてくれた、目の前の女性に心から感謝していた。
久しぶりに二人きりになった凛花と支宣は、艶やかな話や雰囲気は一切なく、そこは似たもの同士。互いに様々な仕事を効率良く進めていた。




