1.改変の刻
今回より第五章の突入になります。
支宣より急ぎ届けられた「書状」を凛花達は受け取り、後宮の門前で皆で再度打ち合わせする。
支宣と惟光他男達は門ギリギリのところで控える。
「では行ってきます!」
凛花が力強い口調で言った。
「結、御方様を守るんだぞ!」
結の兄の裕進の姿もあった。
私は周りにそっと目を向ける。影への合図だった。
門の戸を叩いた。
──ドンドンドンドン。 ドンドンドンドン。 ドンドンドンドン。
後宮前の扉には「取次所」と言い、外からの商人等が入る門がある。当然そこにも役人が居て、通されたとて、中には多くの宦官の役人が控えている。
その隣に大きめの通用門がある。空かずの扉。何かの神事や、大きな行事がある時以外はこの門が開くことは決してない。
火事などの緊急時を考えて念のために作られたらしい。
「商人用の小扉」ではなく、私は正面の大門を叩いた。
直ぐ様、役人が来て私達を取り押さえようとする。
母様がよく通る声で言う。
「その手を離しなさい。勅使である!! 無礼者!!」
私は母様らに囲まれながらも、声を張る。
「今上帝の勅使である。門を開けなさい!!」
今上帝のご生母、皇太后様の御花紋の刺繍が入った衣の袖を翻す。
「今上の勅使??」
私達を捉えようとした男達がたじろいだ。
母上と、結が前に出て男達が出した長棒を跳ね除けた。
「どきなさい!」
母の低い声に男二人が尻餅をついていた。
結と母の仲間の者に護られながら門の中へ入る。
第一関門突破である。
「今上帝の勅使である。典侍に目通りを!!」
後宮の事実上のトップ(帝を除いて)を呼ぶ。
これだけ騒ぎを入口で起こしたのだから、宦官も奥に走って行ったのも確認したし出てくるでしょう。
私達は静かに、はじまりの刻を待った。
「まぁまぁ。何ようじゃ? 何ともまぁ」
派手な衣装を身に纏い、真っ赤な紅を引いた女が出てきた。
「今上帝の勅使である」
「同時に此方は、香瞬皇后陛下よりの書状です」
私は二通の書状を結に渡した。
結が片膝を付き受け取り、目の前の女に問う。
ここでは女にまだ書状は渡さない。
結なら、もしもの時にも書状を取られるようなことは無いと、予め決めていた手筈だ。
「典侍様でいらっしゃいますか?」
結が女にたずねる。
「如何にも」
女は礼をすることもなく、気だるそうにしている。
今上帝の勅使ですよ? 何なの? その態度! と少し腹を立てたが、それが今上帝の今の評価なのだろう。まぁ良い。私の仕事はここまで。
詔勅最高レベルの公式命令書を届ける為に、主を呼び出すまでが私達の役目だった。
「どけどけぃ。勅旨を今から執行する!」
わらわらと惟光様率いる武官達が入って来た。
古色蒼然、後宮始まって以来初めて男性軍人が後宮の正門から堂々と中に入った瞬間だった。
「何事ですか!!」
後宮奥から沢山の女性達が出てきた。
「太政大臣宰相が為時なる。今上帝よりの勅を申し渡す」
結が、惟光様の父である国政の最高権力者(帝以外)にその頂点の方の命令書を差し出した。
「一つ、希望する者は後宮を離れ、内、外宮仕えを願うことを赦す~~一つ、~~~~~」
為時様が、書状に書いてある内容をつらつらと読んだ。
「本日、この刻より御意志により粛々と~~~~」
実家に戻る者や、引越しする者の配慮を考え、今日から一ヶ月以内、園遊会前までに事実上、半数を後宮から追い出す旨を伝えた。
『嘘でしょ?』
『御方様~~』
『一ヶ月? クビってこと??』
色々な声が飛んでいたが、私達に知ったことではない。
ただ、彼女達の全てが膿に感染し堕落していたわけではない。
その者達の救済はしっかり考えないといけない。
◇
「はぁ、終わったーーーー!!」
後のことはとりあえず、惟光様らに任せて、私達は「政務秘書官」に戻ってきた。
最近は人数も増えてきたので、少し増築し台所の奥に座敷を数部屋作った。
結をはじめとする侍女他、私の秘書のような仕事のサポートする者達が数名入ったからだ。
何故か全員女の子ばかりだったが。
それはそれで私は嬉しかった。同年代の女子との関わりは毎日が楽しかった。
そこで今は皆と脚を畳に広げて休憩中だった。
母様に見られたら怒られそうだ……
結は、こういう時は母様にも光様にも、そして兄にも絶対に言わない、分かる子なのだ。
「お腹すいた……」
結の下に付いた侍女が小さな声で言った。
結がすかさず肘突く。
畳に脚広げて座ってる奴もどっちもどっちなような気がするが、まあ後輩の指導は先輩に任せるのが私の心情だ。
でも、今日はみんな頑張ってくれたしね。
「ちょっと遅くなったけど、昼餉にしましょうか?って 母様居ないよねぇ……」
母様はアノ後処理でまだ色々と動いている。
「結、出前頼もう」
「やったー!!」
先程の子が大きな声をあげた。
すかさず拳骨がお見舞いされたのは言うまでもない。
最初に兄の影に隠れてここに現れた日の結を思い出した。ほんの昨日のような出来事。
今ではしっかり先輩になっている。
侍女の一人が、結に言われ「料理処」へ弁当の注文に行った。
最近は宮内の従業員食堂である「食事処」はテイクアウトも出来るようになったのだ。
結局名前は「食事処」のままだった。
「うん。何かまた考えよう!」
私は呟いた。
良い国になれば良いなぁ……
私は、畳の上で寝そべりながら、ゴロゴロしているまだ歳若い子達の姿を見ながら思っていた、その時だった。
「何をしてるのですか!! 御前で!!」
「結!」
結に拳骨がお見舞いされた。
ごめんよ、私が悪い……
鬼の形相の侍女頭殿を、私がなだめる。
「凛花様がお優し過ぎるのです!! 凛花様の侍女たる者、ひいては殿下に恥となるのですよ!!」
忘れてた……ここにも光様推しの人がいたことに。




