29.告白
「良いんじゃないか? 凛花がそこまで言うなら勝算があるからだろ?」
『光様!!』
「凛花? 何故一番に私に言わなかった?」
「……。すいません」
「いや、それは兄上一番に私に言って来たので、凛花殿に責は御座いません、殿下」
「私は凛花に聞いている」
その声は「ラ」のフラットだった。
「申し訳御座いませんでした!!」
私はちょっとばかり、色々と任されるようになったり、皆と仲良くなったことで浮かれていた。
勝手に「真珠事業」を提案したり、お金もないくせに中将様に立替てもらってまで……。
「本当に大変申し訳御座いませんでした。出過ぎた真似を」
「凛花。何か勘違いしているようだね? 私が怒ったのは、君が「白珠」事業を提案したことではない。何故そのような重要なこと、いや他の些細なことでも全てだ。先ずは私に一番に何でも言うのが筋だろう?」
そうだ、名目上は中将様付きの「政務秘書官」ではあるが、結局のところ中将様も支宣様も両方の上官は、光様なのだ。
「報告が遅れてしまい……誠に申し訳なく……如何なる処分も受ける覚悟で御座います」
そう言って私は手を前で組み礼を取った。
「凛花、私は貴女を臣下だとは思ってないよ?」
そうだよね。私みたいにド平民が皇弟殿下の臣下であるわけが、なれるわけがないよね……。
泣いては駄目、ここで泣いたら、折角今まで良くして頂いた恩に対して……。
肩が小刻みに震えてくるのを、ギュッと力を入れて食いしばった。
「宣」
「はっ」
支宣様が退出された。
打ち首? かしら。どうせならひと思いに……。
私は両手を組んで両膝を床について頭を垂れる。
「いずれ時が来たらちゃんと言うつもりだったのになぁ、何でこうなるかなぁ。凛花、立ちなさい」
そう言って光様は私を抱き上げた。そして髪が頬触れ、顔が至近距離にと思っていたら、目頭に溢れる水滴をその白き指でそっと拭った。と思った瞬間。
柔らかな感触が唇にそっと一瞬触れた。
「凛花は臣下じゃない、俺の大事な人だ。こう言えば少しは分かってくれたか? これでも結構本気なんだぞ?」
「え?」
そう言って私を床にゆっくり立たした。
「凛花、これを」
……これって、宝剣!!
鳳凰の意匠が刻まれた銀製の短剣。
それは皇后のみ持つことが許される剣。
何かの時の為に自害する為の剣。
え? ええええええええええええ?
思わず光君を見上げた。
「その時まで預かっておけ」
ですよね? 預かっておくんですよね? びっくりしたぁもう!
これで自害しろって意味かと思った……
でも、こんな大事な剣を私が預かって置いても良いのかしらねぇ?
まぁ、何かとお忙しい御方ですし「政務秘書官」として大事に執務室でお預かりしとかないといけませんわね。
「承知しました」
そう言って、お預かりした大事な剣を執務室の戸棚にしまう為、一旦席をはずした。
「宣、そこに控えておるのだろ。入れ」
「はっ。誠に申し訳御座いませんでした」
再度、支宣は深々と頭を下げた。
「もう良いわ。そんなことより凛花に才ある者数名と、護衛を数名早急に用意しろ。人選はお前に任せる」
「それは、どの省からでも宜しいのでしょうか?」
「構わん。身分や産まれも問わぬが、あれに命をかけれる覚悟のある者のみを集めよ」
「新たに試験をしても宜しいでしょうか?」
「好きにしろ」
「御意」
支宣は、短く礼をし急ぎ足で部屋を出た。
光君は、自分の唇をそっと指でなぞった。
そして、そのまま額に手をやり、暫く蹲った。
そして、鋭い眼光で窓の外の木に止まる鳥を見つめた。
「赦せ。全てが余の我儘だ──。 それでも」




