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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
第一章 初恋編 (本編)

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11.決意

 ──控えの間に私達は通された。二人並んで入場の時を静かに待つ。

 そっと斜め上に目線を移す。


 神様は不公平だ。


 天は二物を与えずと言うが、それは間違えである。と、これを唱えた人に私は言ってやりたい。

 天は時に、全てを与えし者を生み出す。


 そして残酷なまでの現実をその他の者に与える。


 今、私が眺めている光景は涙が出るほど美しかった──

 嫉妬する程の美しい御方の背を見て、前を向く。



「入りなさい」


 その声と共に、神に選ばれし御方は静かに礼をとる。

 憎らしいぐらいの美しい所作だ。


 それに習い、私は今できる自分の精一杯の敬意を込めて深く頭を下げた。


「御前へ。()()()殿下」


「皇太后様、その呼びはお控えください」


 皇太后陛下の御声により殿下が前に進む。


「本日はお招きありがとう御座います。そこに控えておる者が、凛花で御座います」


 殿下がそう口上すると、皇太后様が開いていた扇子をパチンと閉じた。


「凛花とやら。此方へ」


 そう言われたが、直ぐに立ち上がってはいけないと教わっていた。

 皇太后陛下の側に控える者が、此方にやって来て私を案内するまでその場に止どまり、まだ頭を上げてはいけないと。


 ! 


「凛花。行こう」


 あろうことか、皇太后様の御前に参じていた殿下が立ち上がり、しかもお尻を向けて私を迎えに来たのだった。


「皇太后様、些か悪戯が過ぎはしませぬか? 本日は()()()おやつをご一緒に? との誘いであったのでは? 我々は()()()()()忙しいのです」


 ギョッ!! 何を言い出すのかと思えば!!


 ちょっと待ってよ!! 何でいきなり喧嘩腰なのよ! 

 焦って私は思わず殿下を凝視した。


 しかしその目は真っ直ぐ皇太后様を見ていた。



「ホホホッ。()()()殿()()これは私が悪かったわね。まぁそんな目くじらを立てなさんな? お座りなさい。そして凛花とやらも此方へ」

 そう言って皇太后陛下は近くにいた女官に目配せした。私達は女官殿に従い席についた。


 それでもいつもの穏やかな殿下とは少し違って、ピリピリとした空気が漂っていた。


「殿下? そのように張っていたら、凛花()()が怖がっておりますよ? 何、他意はないわよ。この娘が「おむすび」とやらを広めた者と聞いて、ちょっと会って見たくなっただけなのよ」


「ならば、もう帰って良いですか? 皇太后陛下?」


 ちょーーーーーーーーーーっと!! 何考えてるのよ!!


 私は慌てて、皇太后陛下に話かけた。本来身分の低い者から、許しが出ていないのに話かけるのは御法度だ。でも今は()()()()()を言っている場合ではない。


「失礼ながら申し上げます。この度はお招き頂き大変光栄で御座います。()()()()()礼儀も知らぬ田舎者では御座いますが、拝命した職を誠心誠意努めさせて頂く所存で御座います。何卒宜しくお願い申し上げます」


「ふん。殿下。其方(そなた)の過護は要らぬらしいぞ。凛花、ここは女同士二人で茶を頂きましょう。無粋な男は置いておいて、さぁさ。此方に、美味しい焼き菓子があるのよ」


 そう言って皇太后陛下と私はなんと、光様を放置して二人でティタイムをすることになってしまった。



 ひえぇえええええええええ。どないしましょ。



「あの馬鹿が……折角わざわざ悪役になってまで、遠ざけたのに……」


 親の心子知らずではないが、彼女の負担を軽減する為にわざと悪態をついて、せめて凛花だけでも早く帰らせてやろうと一芝居打ったのに、全く気づいてない彼女にイライラが募っていた。


「他のことは聡いのに何故俺のことになると……こうも勘違いするかなあ?」





 ◇




「凛花、次は肩を少し揉んでくれぬか? 最近首が痛くてのう」

「あら? それは大変で御座いますね。後程、良く効く軟膏をお届け致しましょうか?」

「ほう、それは有難い」


「あと肩痛や、腰痛がある時は、蒟蒻(こんにゃく)芋を沸騰した鍋で茹でて、手拭いなどで包み、それを患部にあてると良いですよ?」


「ほう? それはどんな効用が?」

「温めると、ほぐれてくるからでございます」

「なるほどなぁ。冷えで身体を強ばらせておるのか」

「左用で御座います」


「凛花殿()、もう良いぞ。随分と楽になったわ」


 そんな()()を何故か()()は、絢爛豪華な部屋でしていた。

 誠に滑稽な風景だろう。



「そろそろアレを呼んでやるかの?」

 そう言って皇太后陛下は、側に控えていた女官殿に耳打ちした。



 暫くして光様が部屋に入って来た。

 先程までのピリピリした雰囲気は一変して、いつもの穏やかな表情の殿下だった。


 先程のは、いったい何だったんだろうか……


「如何でしたか? ()()()は?」


「ああ、とても楽しい刻だったよ。ときに凛花は琴の名手と聞いたが、一曲聞かせてはくれまいか?」


 ──来たーーーーーーー!!


 練習しといて良かった……


「独学で拙い手ですが、御耳汚しにならなければ良いのですが、僭越ながら」


 そう言って私は一旦席を立った。



「聡い娘だな。何処から()()()来た?」

「文に書いた通りで御座います」




 ◇ 





 ──琴の音色が聞こえてきた。


「ほう。聞きしに勝る中々の腕前じゃな?」


「二日前にはじめて琴に触れたそうです」


 光君の言葉に一瞬ギョッとした顔を見せたが、直ぐに平常になり再度たずねた。

 扇子を互いに口元に当てて、聞き耳をたてないと聞き取れないぐらいの小声での会話が続いた。


「本気なのですね」


「奪いに行こうとさえ思わせるぐらいに」


「お覚悟を?」

「もう少し……もう少し時間を下さい。舞台が整うまで」


「そこまで彼女を……」

 少し心配そうな顔を浮かべた。



「ところで、もう「花」は授けたのですか?」

「……いえ、まだ……」


「そっちの方は意外と奥手だったのですね。ホホホッ」


「……様揶揄わないで下さい」


()は如何しら? 鈴蘭を添えて」


「皇太后様!」

 驚きのあまり声をあげてしまった……


「そうすれば()()の手からも護ることが出来るでしょう」

 そう言った目の前の女は目を伏せた。


「大きくなりましたねぇ……あんなに小さかった貴方が恋をする歳になったのですね。歳をとるはずです」


「止めてください。そのような……」

 この茶番とも言える無意味な会話に阿呆らしくなり、告げる。



「そろそろお返し願えませんか? あれを」


「はいはい。若い二人の邪魔をするのは無粋ですね。今日はわざわざ起こし頂いて有難う御座いました。」


「お元気で。皇太后陛下」


 二人は静かに会釈をして別れの挨拶をした。




 もう忘れたつもりだった。腹の奥(たぎ)るものに嫌悪を抱いたが、今は蕾の花を愛でることで心を落ち着かせていた。女帝。今後の為に避けては通れない存在。

 美しき君は、一瞬氷のような微笑みを浮かべた後、遠くにいる小さき者を見つけ声を掛けた。



「帰るぞ。凛花」

 その声は優しくとても穏やかであった。
















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