17.再会
──「母様~~~」
「凛花ー会いたかったわ~」
「私もです~~」
「り、凛花さんや……一応、父もおるでな……」
「ちょっと痩せたのではないですか? 無理はしていませんか?」
「母様こそ、お疲れ気味では? 少しお顔が細っそりされたのでは?」
「あら? 本当に?!」
──二日前ぶりではないのか。と惟光は思ったが、女子の異様な光景に口を挟む程、彼に勇気は持ち合わせて居なかった。
先日、実家に残して来てあった荷物の残りを取りに、凛花が暮らしていた夫婦が営む料理屋に送って行ったのはつい二日前の昼を過ぎた頃だったわけで。
里帰り? と言っても、何度も言うようだが、夫婦が営む料理屋までは修練場の門を出て100メートルもないのだ。
「で、どうして母様がここに?」
──「わしもおるでな?」
後ろで、大男が両手を大きく広げブンブン振っていたが、目の前の女子達には見えてない? のか、見えていても放置なのか? 全くスルーされていることは、ここにいた男達皆でかたまり、そのなんともいえぬ大男の姿を皆で慰めるほかなかった。
再会の儀式がやっと終わり、麗人が一言発した。
「そろそろ宜しいかな? 貞舜殿」
その声に皆がハッ! となり一瞬で先程までガヤガヤしていた部屋内の空気が静かになった。
「これは、御前とは気づかず、大変無礼を……誠に申し訳御座いませんでした」
「いや。ここでは堅苦しい挨拶はせずとも良い。貞舜。それに貞舜を召集したのは、私ではないからねぇ。ところで、ばば様の書状は無事届いたようだね? 李俊?」
光の君は、優雅な笑顔で先程まで、沈んでいた大男に問いかけた。
「は。昨夕此方に。主からの呼び出しとあれば、老体に鞭うち恥ずかしながら馳せ参じ」
「はははっ。老体と言う程の歳でもまだなかろう?」
「すでに退職した隠居の身で御座いますゆえ……」
「だが、まだ御命は続いておるのでは?」
「はい。この身が動く限りは主の為に、いえ、泰平の為に精進させて頂きます」
そう言って大男が、光様に臣下の礼をとった。
え? 父様って?
私の表情を悟ったのか? 光様がゆっくり目を閉じて、そしてゆっくり目を開けて微笑んだ。
「李俊は、ばば様の元御庭番だ。宮内での仕事は継ぎの者に任せ退役したが、今は市井での監視を主としているのだ。貞舜も同じである。ばば様の身の回りの世話も行ってはいたが、本当の仕事は……貞舜は立派な間者だ」
え? 間者ってつまりスパイってことよねぇ? 御庭番も。ばば様って香瞬皇后のことよね。では二人は香瞬様の下で働いていたから、夫婦に? よく身分を隠す為に仮の夫婦を演じているって話は何処かで聞いたことがあるが。
「あ、私達はちゃんと好きあって一緒になったのよ?」
そう言って、母様は大男の手を取った。
「うんうん。そうだよ。そうだよ」
大男がとても嬉しそうに目をキラキラさせている姿が、なんだか初々しい。
「で、だ。本題にはいろうか!」
そう言って光様が皆をテーブルに集めた。
『なるほど。それは良き案ですねぇ』
一通り光様の話を皆で聞いて、両親と中将様、支宣様が頷いた。
その内容はと言うと、現在ある「料理番」への指南役と言う形で先の皇后陛下の勅命と言うことで両親が就くき、宮殿内、将来的には市井、国全体の「料理の改革」を。と言うものだった。
「皇帝の料理番所」には代々伝わる所謂「レシピ」がある。あの出汁と塩だけの不味い、いや薄味の、良い言い方をすれば「雅な味付け」である。
ただ、それはもう何十年も前に構築された「レシピ」であり、現代の若者や、民には合わなくなってきており、ここら辺りで改変する必要を光様も考えていたらしい。皇子が少食なのも、それも原因の一つかも? と。
実際、両親が営んでいる料理屋「一休」には醤油も存在し、味も濃い目だった。メニューも「カツレツ」や「しょうが焼き」「照り焼き」などの濃い目のメニューが人気だった。
武官達が好んで来ていたのは「宮廷の食事処」で出される料理が不味いからが、概ねの原因だ。
メニューを考えているのは「皇帝の料理番所」の者達な為、皆公には文句は言わないが、両親の営む料理屋が連日大人気で長蛇の列になることから、言わずもがな。
宮廷料理を担当する「料理番所」は、雅を味より優先するためか、醤油などの色が黒く、褐色な料理を嫌う。所謂男子飯だ。茶色の。
確かに見た目は美しいかもだが……。毎日美人ばかりはねぇ。と、言うことだろう。
ただ、長年継承してきた「由緒あるレシピ」をいきなり変えろ! と言っても中々難しく「御料理番」様は「陛下の食事を作る者」としての威厳とプライドがある。
そこで登場して貰ったのが、「絶対的影の権力者」の香瞬元皇后陛下だ。
現在は奥の院に移られ、皇后の位は降りられたが、かつての実際の権力者「女帝」の威光は今だ健在であった。政に実際口出すことは今はないが、「香瞬様のお口添え」は今でも威光を発するのだ。
まぁ香瞬様に書状を書かせることができる人が、この国にはお二人しか存在してないだろうけど。
──そんなこんなで、早速皆は「新しい料理処」の為に各自動きだした。




