16.愛しのプリン
──二人の顔が硬直していた。え? 就職祝いに髪飾り、これは髪飾り? かしら? を戴くのってそんなに駄目なことなの?
確かに精巧な創りではあるけど。鳳凰? 鳥を模した銀細工にアメジスト? 紫水晶の宝玉が誂えられた光様らしい雅だけどとても上品な逸品だった。
何か、安らかな気持ち? 安堵感がこの髪飾りを見ていたらするな。と思っていたら、あれか!
光様の尊顔を見て気づいた。
瞳の色と同じ!
光様は髪色、瞳の色から「紫の君」とも呼ばれていた。私達が「光様」や「光君様」と呼んでいただけで、本来、御名を御呼び出来るような御方ではなかったのだ。
あ! 高価過ぎるのか? 庶民の私には!
日本のアクセサリーでも、銀製品は安くはないが、金に比べて値段は低い。(ノーブランド品)アメジストもそんなに高価な部類の宝石ではない。
ただ、この時代に、白金や、ダイヤモンドが存在するかは、今の私には分からない。
今度聞いてみよう。
二人の驚きようが尋常ではなかったので聞いてみた。
「私にはちょっと豪華過ぎるかなあ?」
『いや。そこじゃない!!』
まるで何言ってるんだ? 馬鹿娘! とでも言いたげな表情の二人だった。
では? 何がその表情? あ! 皇弟から! 物を頂戴することが駄目なのか?
ん? でも、それなら此処にある筆やら、文鎮やら硯箱、なんなら手鏡等も。
「使わなくなったから、新しくしたから」などと言い、戴いた物だが?
「じゃあ、何処ですか?」
不可解なままは気持ち悪いので、聞いてみた。
──「支宣、寒い所は好きか?」
「ひぃ」
「ソ」のシャープの音に支宣様は、後ろに後ずさりした。
「あちらの片付けがまだ残っていたなあ? 支宣、さあさ?」
中将様が、半ば無理矢理に屍状態の男を引きずって行った。
「ここでいいか?」
「あ、それは、此方にお願いします」
「こっちは?」
「右手の奥に、一人で持てますか?」
「ああ、問題ない」
──わなわなわな……
皇弟君を、荷物運び、いや顎で使ってるし……。
この国で一番強いのは、皇帝陛下を除いたら、寧ろあの女なのかも知れない……
このとき兄弟は「絶対に逆らうまい」と、強く誓ったのであった。
そして、この娘に小さなキズですら負わせては自分達の命が無いことを、兄弟で確認し合った。
──しかしあの意匠と、あの色の珠は……
今後必ず自分達に降りかかるであろう厄介事に胃が痛くなる感じに、どっと疲れが出た仲良し兄弟だった。
「まぁ光君がお健やかに、心豊かに過ごせるのであれば良いか」
「兄上の光君贔屓は治りませんね」
「お前もかなりな」
「要らぬ粉を振り払うのが我が家の使命だ」
「誠にその為の今までの苦~」
兄弟の和やかな会話が続く中、支宣が何か言おうとしたが、咄嗟にその言葉を飲み込んだ。
と、同時に普段温和で、人懐っこいトイプードルの眼光が鋭く狼のように一瞬光った。
「宣!」
──「そろそろ休憩にしませんか?」
私は朝から試作に作っていた「試作品第一号」のことを思いだした。
今回は鍋で蒸して作るトロトロプリンにしてみた。皇子殿下の御歳を考えたら、固めのプリンより、柔らかトロトロプリンのほうが食べやすいと思ったからだ。
プリンアラモードにするにはちょっと向いてない気もするが、そこはまた卵とミルクの割合を調節すれば良い。
しかし、この砂糖の量。見るからに厳重に管理されていただろうの佇まい。
テーブルの上に置かれた唐津の壺には、サラサラの砂糖が壺一杯に入っていた。
この世界の砂糖って貴重品よねぇ……。
何か申し訳ない気持ちでいっぱいになりつつ、目を輝かせながらスタンバイ万全な仔犬君と、まだ少し眠そうな様子の光様の前に黄色くプルプルする物体を運ぶ。
「お待たせしました。此方がプリンになります」
「おおーー! これがプリンなる物ですか! 凛花さん」
「黄色ですね」
この対照的な反応! でも少し口角が緩んでいたのを私は見逃さなかった。
「では、光様から、どうぞ? お召し上り下さい」
──『ジー』
って音が聞こえそうなぐらい、私達は凝視した。
どうよ? どうなのよ? プリン嫌いな人とかいないでしょ?
私は、仰け反りかえるぐらい胸を張ってみた。
「惟光や。頂いてみなさい」
え? それだけ??
不安になり、今度は仔犬を凝視する・
「でかした! 凛花殿!」
「美味しいですね。これは、これがプリンと言う物なんですね。凛花? おかわりを下さいな?」
え? もう食べたんかい!
それから、二人は無言で「試作一号」を貪るように食いまくったのだった。
私の分残しておいてくれるかなぁ?
とりあえずは、試作は成功かしら?
試食会が一段落して、後片付けをしようと立ち上がったら
「あ、片付けはしなくて良いよ。ちゃんと連れてきたから」
そう言って光様はにっこり微笑んだ。
「なかなか良い所じゃねぇか。流石は天下の台所だな」
ん? 何処かで聞いたことがある声がした。
「凛花ちゃん。元気にしてた?」




