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15.就職祝い

 ──「光君様、ご用意が整いました」

 支宣様が用意してくれた、衣と袴に着替え終わった。残念なことにここには、侍女にあたる女性が居なかった為、この支宣様に手伝って貰うしかなかった。


 流石に上着は自分で羽織り、袴も自分ではいた。幼少期より華道や茶道を習っていたのもあり、着物を自分で着る機会が多かった私には、二部式着物袴と言うのは、別段着るのに苦はなかった


『ほう』


 部屋で待っていた男達も息ピッタリのようだ。


「安岐様の童の衣丈でちょうど良かったようだね」

「思った通りでございましたな」

「姉様の童時代を思い出すようでございまするな」


 え? は?

 今、何つった? 童時代?


 ──そうこれは……。

 恐れ多くも子供時代に、后様がお召しになっていた衣装を模して作られた物だった。

 普段の作業用、外出用、少し華美な正装用と数種類用意されていた。


 わ、童用のサイズってことですよねぇ……

 皇后陛下がお召しになっていた物をモデルに作ったと聞いて、本来なら勿体なく、有り難く思う品ではあるとは思うが……童時代。

 この言葉に妙にひっかかるのは私だけだろうか……


「ありがとうございます。光様」


「うん。作業着は要らないかもだねぇ。その代わりに、外出用と正装用をもう少し増やそうか?」


 は?

 外出用はまだしも、正装用なんて、一着もあればじゅうぶんでしょうよ!

 外出用もそんなに必要ないでしょ。

 それにこんなヒラヒラしていたら、作業しにくいし!


 は? え?

 何故か男性陣三人が、うんうん。と頷いていた。


 男女の人数差、多数決では、女一人しかいないここで、私に勝てるわけもく、勝手に三人でああでもない。こうでもない。と色やデザインを決められていた。


 ──「もう少し目立たないというか、深い緑とかはいかがかと?」


 ボソッと小声で呟いてみたが、三人にギロッと睨まれた。

 光様に至っては、シッシッとでも言いたげに手をヒラヒラしながら、菓子包みの中の飴を手渡された。


 子供か! 私は!


 ──雅な殿方が三人集い、ピンクや水色、朱色に橙色、錦糸や金、銀の糸を手にとり、真剣な眼差しで言い合いをしている姿は、ちょっと異様な雰囲気だ。


 何度も言うが、この国の平均身長は現代日本より高めだ。

 ここに居る美男子三人衆も例にもれず、揃いも揃い高身長である。

 光様が186センチ程で他二人もほぼ同じぐらいの大男だ。


 そんな美丈夫が、きゃいきゃいと、騒ぎながら、見本の絹生地をペラペラめくりながら話しはじめて、すでに1時間以上になる。


 プリンの話は何処行った?

 皇子殿下の食細対策で、早急の用務ではなかったのか?

 だから、この「大公所」の建設が昼夜問わずの突貫工事でできあがったのでは?


 ──何だかんだで、泰平なのは良いことだ。




 ──「凛花、此方へ」


 ん?


 珍しく、真剣な眼差しで、でも口調は厳しく無くいつもの「シ」の音で光様が私を呼んだ。

 珍しく感じたのは、他二人も同じだったようだ。


「後ろ向いて?」


 ん? 何かゴミでもついた? それなら、この御仁にお願いするわけには。

 と思ったが、早くしろよ。と言わぬが如く、無言の圧に素直に従う。


 え? 手が髪に? 軽く触れたような?


「就任祝いだ」


 そう言っていつもより少しだけ「シ」が擦れた乾いた音だった。でもそれはどこか心地良いピアニシモの調べが後頭部より少し上から奏でられた。


 ──『殿下!!』



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