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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
最終章 継承編

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19.はじまりの刻(2)

 ──「面を上げよ」


 その声に驚き臣下全員が頭を垂れ膝をついたままざわついた。

 為時様が光潤様に近づき声をあげる。

「今上!」


「ちょっ今上様!」

「今上!! 御止め下さい!」

 慌てて惟光様と支宣様が光潤様の前に立とうしたのを、彼が制した。


「退けろ邪魔だ」


 その低くい声により惟光様がすっと膝を下ろした。それに習い支宣様も隣に控える。



「全員面を上げろ!」


 それでも尚、彼らは頭を垂れたまま顔をあげることはしない。

 為時様が臣下の目の前に仁王立ちしていた。


 私は御帳台の中より惟光様に声を掛ける。

「御上の御言葉でございますよ」


 惟光様が光潤様の後ろに立ち、臣下に声を発した。


「皆の者拝謁を許可する」


 そこで初めて皆が顔をあげた。

 誰一人声を発することはなく、異様な空気が漂う。


 仕事納めや正月の挨拶に光潤様が臣下の前に立たれることはあるが、あくまでも高位の官職、各省の長官までにしか御尊顔をお見せになることはない。

 それも代々の帝は、代理で太政大臣宰相様が行っていたぐらいである。


 論功行賞含め、数々の式典には各省の長官しか普段から出席権がないので、即位の礼報告の儀の今日がはじめての入室になる者が多かった。


 そんな中、光潤様はあろうことか臣下全員に(大内裏に入れる位職以上にはなるが)その御尊顔を一切隠すことなく、しかも皆と同じ高さに降りられたのだ。


 為時様が慌てて彼自身の扇子で御上を隠そうとしたが、それも光潤様自らが制された。


「帝とは神でもなければ、神の化身などでもない。其方らが護るべきは余ではない。其方らが命を掛け、生涯護るは春国である。よって各人が春国臣下として恥ず事無きよう、今後一層精進せよ!」


 春国建国、五百年余り。

 この日はじめて、神と崇められた天子様の人間宣言であった。


 光潤皇帝の御代。

 新時代のはじまりの刻であった。


 自身を神ではないと言った光潤様は、その在位中に御自身を国内の者の前で「朕」とすることは一度もしなかった。


 だが臣下達は、その人間とは程遠い様相の神とも言える御姿を目にし、涙を流す者が多くいた。


 冬だと言うのに温かい柔らかな陽が大きな硝子から差し込み、彼の背には後光が差しているかの如く、金色の光に包まれ、まさしく神の降臨そのものの御姿であった。


「惟光、酒持って来い!」


 え? 今?


「え?」

 惟光様も思わず素となり声をあげていた。


 その声により、御料理番殿を先頭に乾杯用に用意されていた酒樽が次々と運ばれてきた。

 山と積み重ねられた枡が同時に運ばれてきた。


 なんとその場で殿下が酒樽の前に立ったと思うと、小槌を目の前にいた臣下に手渡したのだ。


「え??」

「は?」

「今上!」


 当然、惟光様以下全員驚いて声をあげたが、一番驚いたのはその小槌を渡された者だろう。


 彼は震えながら、両膝をついている。腰が抜けたのか硬直していた。

 だが帝より授けられた小槌を床に付けることを彼は死守していた。


「惟光、支宣、為時、裕進前へ」

 光潤様が声を掛けた。

 その言葉に従い、皆が樽の前に集まる。

 その中で震える姿の者に光潤様が微笑んだ。

 まさに神の微笑であった。

「支宣」

 彼の介助をするよう支宣様に命じ、支宣様が彼に肩を貸し立たす。


「皇后。此方へ」

 え? 私も??

 母様に付き添われ光潤様の傍に行く。

「私も?」

 小さな声で彼にたずねた。

「当然だろ?」

 いつもの当たり前だろ? 何を今更言うのか? と言う顔を少しした後、優しく微笑む。


 一本の小槌を光潤様と二人で持ち、酒樽の前に立つ。


「惟光!」


 殿下が惟光様に刻の宣言を命じた。

 それを受けた惟光様が背筋を伸ばし中央に出る。


「春国の繁栄と皇帝のますますのご健勝をお祈りし唱和!」


「春国万歳!」

「春国万歳」

 再び室内の空気が共鳴した瞬間だった。



 この後、全員に枡酒が配られ惟光様の号令により乾杯を行う。

 私は一口だけ口を付けた。


 空になった枡を光潤様が高台に置き、微笑みながら私に言う。


「帰るぞ凛花」


 え? 祝賀会は? 


「宣、後は任せた」


 そう言って自分の飲んだ枡を支宣様に軽く投げ、彼はすっと立ち上がり、御帳台の前につかつかと歩いてきた。


 え? 本当に帰るの??

 今日の主役ですが?


「酒の付き合いまでしてやる必要はなかろ?」

 そう言って彼が笑った。

 私は彼に手を添えられ御帳台を降りる。


 流石に為時様も惟光様も驚きの表情を見せてはいたものの、既にその御姿は皆に背を向けて出口へと向かおうとしていた為、彼らも追っては来なかった。


 なんともまぁ、やはり光潤様であった。



「体調は大丈夫か?」

 相変わらずの心配性の旦那様に私は微笑み答える。


「問題ありませんよ。貴方の子ですしね? そんなに軟ではありませんわ?」


「触って良いか?」

 そう言って彼が腹に手をあてる。


「かと言って、今までのように跳ねっ返りは駄目だぞ? 用心をしろよ?」

「跳ねっ返りって……」


「ねぇ、やっぱり男の子が良い?」

 私は気になっていたことを彼に聞いた。やはり跡継ぎとして男子が必要なのは仕方がない。

 でも絶対男の子ができる保証は……


「ん? 無事に産まれてさえくれたら、何方でも同じであろう? 俺達の子に男も女も関係なかろ?」

 私の目を真っ直ぐ逸らすことなく答えた彼の顔は、その後柔らかな表情に変わる。


「前にも言ったろ? もしもの時の話は? そのようなくだらぬことは考えなくて良い。お前は、今は自分の身体のことだけを考えておれば良い。良いな?」


「私のことだけで宜しいのですか?」

 少し私は意地悪な顔をして聞く。


「今だけ少し我が子に貸してやるわ。でも少しは俺のことも構ってくれよ? 奥さん?」


「では、貴方とこの子と半分こしましょうね?」

「ハハハッ。好敵手に負けぬようにせねばな?」

 そう言って再度彼が腹に自分の耳を付けた。


「あ、でももしもの時はお前の命を取るぞ。良いな? 否は認めぬ」


 この時代、まだまだ出産は命掛けとも言える大仕事だった。

 現に、惟光様の母様は惟光様の命と引き換えに天に召されている。


「分かりました……」


「子はまた作れば良い。ただお前の代わりはこの世には居ないことをよく覚えておくように」

「はい……」







 ◇





 時の経つのは早く、既に安定期を過ぎ、お腹も目立ち出した頃、民をはじめとする皆に皇后懐妊の発表がされた。



「今上。また上皇様よりお祝いの品が届きましたが……」


「あいつは阿呆か? 何で赤子に金や金鉱石の首輪や冠が必要なのだ?」


 安定期に入ったことを発表したその直後から、こうして度々お爺様よりの祝いの品が届くようになった。それはどれも最高級の品ばかりではあったが……


 光潤様の仰る通り、産まれたばかりの赤ちゃんに、金のネックレスや、ダイヤモンドゴテゴテのネックレスは必要ないだろう……


 庶民の子なら何か困った時に売れば良いかもだが……

 一応、親王か内親王である。生涯金に困るような暮らしにはならないと思うのだが……


「それより今上。此方の目録が……」

 少し困った顔をしながら支宣様が近づいてくる。


「あいつは阿呆か?」

 その目録とは。

 国内最大にも近い金山を孫に譲ると言う目録だった。


 国内一の金山は現在、上皇より引き継いだ場所が光潤様の個人資産となっていたが、当然先の帝である彼にはそれ以外の資産はまだ数多くお持ちであった。


「内親王だとどうする気だ?」


 そう、東宮なら後の帝となるので問題はない。ただ女の子なら将来的には降家することになる。流石にそれだと国の保険とも言える金山を持って臣下に下ることは……


「宣、保留する旨伝えろ」


「今上、香徳院様よりお祝いの品が届きました」

 香瞬皇太后は、昨年末で出家され今は香徳院と名乗られていた。


「……なぁ、おむつってこんなに必要か? 双子ではないよなあ……」

 光潤様が近くにいる医官殿を見る。


 医官殿が首を横に振る。

 医官殿は遠方の西の国に医学留学されていた経験もあり、管に銅製の円錐を付けた、所謂、聴診器を使用していて、神道や祈祷と言った神に祈ることを医療行為であると言うことを真っ向から否定されている方だ。


 この時代、高貴な者が病にかかると、頭に魔除けとして鉢巻をし、神に一日中神官が祈りを捧げるという驚くようなことが普通に行われていたのだ。


 また帝や皇后の身体に傷を付けるなんて、死罪とされいた。


 怪我したら縫えないのか?

 て、心配になった。そんな私は彼の誕生日にピアスを贈ったのだが……


 綺麗な鳳凰が今も耳にされている。


 そんな中、もしもの時は帝王切開になる可能性を私は彼には話していた。


 驚くことに一切の反対はなく、兎に角手段は選ばない。子と私が無事であるならば。と、医官殿にも話している。


 その後も色々な人達より毎日のように祝いの品が続々と届いていた。












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