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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
最終章 継承編

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18.はじまりの刻(1)

 ──「刻限で御座います」

 廊下の外から紀恵の声がした。


「寒っ!! 真冬に水浴びとか酔狂も良いとこだわ……冬の即位はないなこれ……」

 あの阿呆兄弟のせいで昨夜はあまり眠れなかったが、お陰で恐ろしいぐらい目が覚めたわ。



「失礼します」

 紀恵と侍女頭が漆の盆に載せて装束を二人かかりで運んできた。


「本日はおめでとうございます」

「早速ご準備をさせて頂きます」


「ああ」

 水で清め終わったところに紀恵らが入ってきた。


「坊ちゃん。此方へ」

 紀恵に濡れた髪を乾かして貰いながら毛布に包まる。

 暖炉や蝋燭で部屋は温めてくれていたが、寒すぎだろ! 

 せめて湯にしろよ!



「では此方に」


 慣れた手つきで二人の女性が手際よく束帯を着付ける。

 即位の礼と言えば本来は、禁色の橙だ。

 代々受け継ぐと言う意味と、国名を冠する春を祝う意味だ。


 代々受け継ぐ──

 本来の姿を忘れ金満に(まみ)れ、政より遊興に(ふけ)り、多くの罪のない女達を籠の中に囲い。

 何が代々受け継ぐだ。

 馬鹿馬鹿しい。

 妖怪共の栄華など、くだらぬ世迷言に過ぎぬわ。



「立派で御座いますよ。坊ちゃん」

「有難う。紀恵」


「行って参る」

「行ってらっしゃいませ。今上様」




 廊下で控えている惟光が(ふすま)を開けた。


「おめでとうございます」

「阿呆、酒臭いわ」

「……」

「行くぞ」

「はっ」



 夜明けと共に神殿にて神官より(みことのり)の奏上を受ける。

 神へ、新たに帝となることの赦しを受けるために神殿へと向かう。


 神殿の前で惟光に宝剣を預ける。



 ──その時だった。



「上皇!!」


 惟光が大きな声を上げた。


 俺は驚き、その声に振り返る。


「光潤()、後を頼みますよ」


 痩せ細り艶もなくなった一見老人のような男は、深々と頭を下げる。


「お、お止め下さい! 父上!」


 無意識のうちに目の前の男を、産まれてはじめて父と呼んでいた。


「光。今まですまなかった。父としてお前には何一つしてやることは出来なかった。本当にすまなかった」

 そう言ってはじめて父と名乗った男が何度も謝る。


「光。これを」


 そう言って彼が一本の扇子を差し出した。

 それは彼が肌身離さず常に装束に挿してあった見覚えのある扇子だったが、触れたことは一度もなかった。


 随分と傷が付き、中の紙もかなり色褪せていた。

 今にも壊れそうな様子の扇子をゆっくり開く。


「これ……」


 そこには文字が(したた)められていた。


「命名 光綬」 

「愛する息子へ ── 父 陽閏(ようしゅん)



 痩せて小さくなった男は肩を震わせ、人目を憚らず涙を浮かべながら無言で頭を深く下げた。


「もう過去のことです。頭をお上げ下さい。()様」


 涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔をゆっくり見せる。

 だがその目は答えを一心に求めていた。


 俺は無言で頷いた。


「そ、そうか……そうか。おめでとう。おめでとう光。おめでとう」

 男は何度もおめでとう。と言いながらその高貴な身分には似つかわない所業、衣の袖で涙を擦り拭いた。


「無事産まれたら抱いてやって下さい父上」


 何度も首を縦に振る彼から受け取った扇子を挿し、神殿の敷居を跨いだ。





 神官の御告文(おつげふみ)がはじまり、礼拝の姿勢のままその刻を待つ。奉告が終了した。


「ここに、この刻を持って光潤帝、其方を春国第二十八代皇帝に命ずる」


 神の御辞(おことば)の代弁として神官が発した。

 任命書に名前を記名し、神へ宣誓する。

 生涯をかけて国を護る御役目をこの刻を持って神に約束したのだった。



 神殿を出たら既に彼の姿はなかった。


 ここまでが即位の礼奉告の儀となり、この後、大内裏にて神より新皇帝に認められた事を臣下に報告する、即位の礼報告の儀が行われる。


「今上。参りましょうか」

 惟光から宝剣を受け取り、皆が待つ大内裏へと向かう。


 殿中の通りには臣下が連ね並んでいた。



「光潤陛下。おめでとうございます」

「ああ、行こうか。皇后凛花よ」



 神殿で宣誓を終えた彼の後を付いて内裏へ向かう。

 通りの脇に控える正装着の臣下が一斉に跪く。

 中には(むせ)び泣く者の姿もあった。


 彼が歩く背には、鳳凰が本当に優雅に舞っているようだった。

 束帯には本来襟紋しか入らない。


 だが彼は自身がデザインした鳳凰を背に入れた。

 禁色である橙ではなく、竜胆色の濃紫の絹重ねを選んだ。

 そして金鉱石と青石を埋め込んだ冠を被り、颯爽と歩く。


 臣下が待つ大内裏へ。


 中に入りきれない下級官位の者達や、宮仕えの職員は殿中の廊下に控える。

 侍従衆も皆、その刻を待つ。


 大きな部屋である大内裏が狭く感じる程の人の数にも関わらず、誰一人声を発する者はなく頭を垂れたまま緊張と静寂に包まれていた。



 厳かな雰囲気の中、衣擦れの音だけが聞こえて来る。

 神官所の神官が数名列なして入室して来たのだった。

 光潤様と私に一礼し、(やぐら)の前に揃い立ち、中央の神具に一礼し玉串を奉納し終える。


 そこで光潤様が立ち上り私に一礼し、ゆっくり櫓に向う。

 そこは高台になっていて、高御座(たかみやぐら)に似ていた。


 漆黒の漆塗りに螺鈿や蒔絵が施された、代々伝わるとても豪華な造りだった。


 最初、光潤様は此方に入る仕来(しきた)りを嫌ったが、為時様から泣きつかれ仕方なく最後に折れたのだ。


 光潤様が昇られたのを確認し、母様が私の手を取り御帳台(みちょうだい)に私も昇る。

 光潤様の玉座に比べ低めの造りになっていたが、母様が気遣い最後まで付き添ってくれた。



 神官様達によって、玉璽(ぎょくじ)が御台に運ばれた。

 神官様の一人が中央に出て、御告文を読み上げる。



 その後、静かに玉璽が光潤様の前に用意された。

 光潤様が宣誓書に玉璽を押印される。

 この時代、神の化身とも言われる帝が直接宣誓を臣下に御言葉としては読み上げることはしない。


 これを受けに惟光様が御前へ参上する。



「春国第二十八代皇帝即位」


 即位の礼の終わりを告げた。

 同時に鐘の音が鳴り響く。

 二十八回鳴らされる。


 その後、惟光様によって宣誓書が代読され、惟光様より支宣様に預けられ式典は終了となった。


「おめでとうございます。光潤陛下」

 私は御帳台の御帳を少し開き、彼に祝いの言葉を述べた。


「おめでとう。凛花皇后」

 光潤様が私に返礼を述べたところで、私達は順に高台を後にする。


「体調は大丈夫か? 宮に戻るか?」

 光潤様は私に近寄り、耳打ちする。


「いえ。問題ありません」

 私はにっこり微笑む。


 この後、祝いの宴がはじまる予定だ。

 光潤様の計らいで、私は早めに退出する予定になっている。






 ◇





「おめでとうございます。今上様」


 為時様が泣きながら近づいて来た。


「為時、汚い……」


 御帳をほんの少し上げた光潤様が扇子でご自身の尊顔を隠しながらも、怪訝な表情を浮かべる。


「陛下……」

 私は光潤様を少し諌める。

 惟光様、支宣様、裕進様の順で挨拶に見えられた。皆その目は赤く、涙の痕が付いていた。


「おいおい、頼むぞ? この世の終わりみたいに泣くな。今日が、はじまりの刻であるぞ?」


 小さな声で、惟光様らに言い御帳を閉じた。

「はっ」

「申し訳ございませんでした」

「御意」

 皆が一斉に臣下の礼を取ったのを見て、部屋にいた全員が再び膝を付いた。


「春国新皇帝、万歳!」

「春国万歳!」

「新皇帝、万歳!」

「新皇帝、皇后様万歳!」

 どこからともなく声が上がり出す。


 ──ワァアァアーーーー


 その声は次第に大きくなり、部屋中に鳴り渡る。



 ──空気が震え共鳴した瞬間だった。



 何と光潤様が御帳を開けられ高台を降りられたのだ。


 為時様が急ぎ制したが、それでも尚、光潤様は臣下が膝を付いた前を気にせず、颯爽とどんどん歩いて行かれた。


 その異様な光景に、皆が頭を垂れたまま、ざわつく。



「今上!」

 惟光様が急ぎ後を追った──


















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