12.皇室の料理番
──「凛花さん、私専属の菓子係になりませんか?」
は?
何言ってんの? この人?
言ってる意味分かっているのだろうか?
「殿下!!」
私より先に隣に座っている、中将様が声を上げた。
「やっぱり駄目ですよねぇ……まだここの仕事も慣れて無いでしょうし、その上、私の菓子作りまで頼んでしまっては……」
そう言ってとても悲しそうな表情をし、キラキラした瞳で私をのぞき込んでいる。
何考えてるんだ? この御方は。そんな顔をしても駄目なものは駄目に決まっているでしょ!
「殿下の食される物は全て内宮の「料理番所」でお作りしているのでは?」
「……そうなんだけど、この焼き菓子食べてみて?」
そう言って今日も手土産として持って来てくださった菓子の袋を私と中将様の前にどっさり出す。10時のおやつも全く召し上がっておられぬような量だった。
『…………。』
私達はどちらとも無く沈黙する。寧ろ沈黙しか選べなかったからだ。
「料理番所」と言えば、皇帝陛下はじめとする皇族の食事のみを作る部署だ。もちろん陛下や、皇后陛下が催す茶会や、会食の際も「料理番所」が取り仕切る。
そんな、トップ オブ トップの料理人の集団ですよ?
そんな方々が作る料理が、不味いだなんて……
そんなこと口が裂けても……
あ、文字に書いたかも…………
あ、でも「不味いです」とは書いてなかったよね? うん。
私は咄嗟に目の前の紙を遠目に読み返した。
セーフ! 私って偉い! 「不味い」ではなく「ちょっと、薄味ではなかろうか?」と
ちゃんと、やんわり言っているじゃないの。
「ねぇ? 凛花さん。正直に言ってごらんなさい? これ美味しいと思う? 貴女?」
こ、怖い……
最近この御方の攻め方が少し分かってきたような。
名前を呼ぶ時に「さん」と付けられている時は大抵、目が笑ってないのである。
表情は常ににこやかであるが。でもそこには体温を全く感じさせない、いや、寧ろ氷点下と言ってよい程の微笑である。正に氷の微笑とは、このことだ。
これ、正直に言うのが正解なのか? 否なのか?
トイプー教えてくれよ。 どっちが打ち首ですか?
短い間でしたが、皆様にお会い出来て私は光栄でした。あのまま日本に居たら、こんな高貴な御方達と会うことさえなかったでしょう。
まぁ、あのまま日本にいたら、ここには連れて来られてませんけどね……
お母さん、お父さん、そして短い間だったけど、私を本当の娘のように接してくれた、貞舜母様、李俊父様、先行く不幸をお許し下さい──
「恐れながら、わたくしの好みの味では御座いません」
言った! 言ってしまった。
さようなら。私の18年の人生ーーーーーーーー
「でしょう?」
光潤殿下は、ニッコリ優雅に焼き菓子を一つ手にとり、目の前に座っている中将様の口にポンっと入れたのだ。
「実はねぇ、皇子様が最近またあまり食事を摂られてないご様子で。そこでこの書状を読み、これだ! と思って。凛花に手を貸して貰えないか? と思って」
『え?』
あまりにもの大きな話に、私達は同時に声を上げていた。
最近息ピッタリだね? トイプーちゃん?
皇子様と言えば、当然だが今上帝の息子であり、いずれは「東宮」になり、その先はお継ぎになる御方。光様の甥っ子にあたり、中将様にとっても甥となるわけで。
でも、皇族の食する物は「料理番」以外にはお作りできないのに?
「とりあえず、私に作る形で一度作ってみて、何らかの形で皇子に食して貰える機会を。とは思っているのだが。その何らかを惟光と凛花にも考えて欲しいのだ」
ええええええええええええええええ!
それは無理じゃないの?
そう言って光様は立ち上がり「じゃぁ良い案をよろしく」とだけ言い残し、颯爽と部屋を出て行かれたのであった。
そんな、無茶苦茶な……
その後、夜更けまで右大臣中尉殿と、ああでもない。こうでもない。と、何らかを
話合ったのは言うまでもない。




