9.クリスマス
私は文和堂の店主と話しをしていた。
「包はなくても構いません。大量に用意して欲しいのです。期間がなくて申し訳ないのですが」
「わかりました。できる限り頑張ってみます。二十五日で良いのですね?」
「お願いします」
「あと、結婚の儀の菓子の詳細が此方で御座います。花益をこのようにして重ねたもので?」
店主が私が描いた絵を出し確認をしてきた。
「そうそう、こんな感じでお願い出来ますか?」
「では、帰りに御料理番所へ寄り、詳しい話しをして参ります」
そう言って文和堂の店主が席を立った。
結婚の儀自体は私達二人だけが神殿に入り神官様によって詔を奏上して終わる。
その後、神殿を出て大広間で簡単な祝賀会を行う予定だ。
その際にウエディングケーキを文和堂さんと御料理番様の共同でお願いした。
わざわざ共同でお願いしたのは、披露宴の料理を全て取り仕切る御料理番達の負担を軽減するためだ。
今回は以前の誕生日会のような内輪だけの集まりではない。
大内裏の大広間を使っての盛大な宴となる。
まぁ諸外国の列席は全て辞退されたので、そこは気にしなくても良くなったのだが。
翌朝に即位の礼が行われる為、軽く昼食だけの会とはなるが、それでも人数は結構多い。
クリスマスが終わったら、直ぐに新年を迎え、三ヶ日過ぎたら直ぐか……
師走って本当に早いわねぇ……
あ! しまった! 殿下に許可取ってなかった!!
私は急いで出仕した。
──トントントン
「凛花です」
「どうぞ」
今日は支宣様の声だった。
「殿下! お願いがあります!!」
「おいおい、奥さんいきなり何だ?」
少し呆れた顔で笑っていた。
「あ! ごめんなさい!! 殿下! この二十五日に、四門前で民の子に「飴」を配りたいのですが!!」
「はあ?」
「え??」
「四門全てで?」
「ハハハッ。やっぱりそうでないとな! その顔だよ俺が惚れたのは」
そう言って殿下が高笑いした。
「どこですの? 何処が?」
私は気になり問い正す。
「そこだよ。そう言うところだ」
また、はぐらかされた。
「お前が、あっさり皇后なぞにおさまるような女なら嫁に貰おうなどと思ってなかったわ」
そう言って殿下は楽しそうに笑った。
ん? 何か今、変なこと言いませんでしたか?
私は思わず、支宣様を見た。
支宣様も珍しく笑っていた。
何なのよーーみんなして!!
「申してみよ」
殿下が説明を求めたので私は皆に説明をはじめる。ただクリスマスと言う慣例があるかは? 定かではなかったのでそこは伏せておいた。
殿下だけは気づいたようだが。
「門番に飴を持たせるのか……」
それと私は彼らにサンタ帽子を被らせることもお願いした。勿論余興用と言って誤魔化したが。
本当は焼き菓子などを用意したかったが、何せ数が多い。一度で大量に作れる「飴」が一番沢山作れるのと、民にとって飴はまだまだ高価な菓子だったからだ。
「童は我が国の宝だしのう。よかろう」
そう言って殿下が許可の笑みを浮かべた。
「宣、瓦版に掲示するよう手配をしとけ」
「御意」
「なぁ? その帽子、俺たちも被らぬか? 折角だし」
「え?」
「は?」
「殿下??」
「そうですねえ! そうしましょう!!」
今や世界中の人から誕生日を祝われるあの有名な方も、まさか異世界の雅な神道の国でまでお祝いされるとは思っても見なかったであろう。
あ、門前に飾り付けしようかしら!!
蝋燭あるし!!
「次は何考えたのだ? この跳ねっ返りが?」
殿下が呆れていた。
「えへへ」
紙と筆を借りて絵を描いて説明していると、殿下が私から筆を奪う。
うん。ですよねぇ……この絵だとわからないでしょうよ。
「うはっ! これ、部屋に飾って良いですか?」
ものの数分でクリスマスの「名画」が完成したのだ。
針葉樹に硝子玉が光り、赤い帯のリボンが結ばれ、揺れる蝋燭の炎が神秘的で、小さな子達が兵士から飴を貰って飛び跳ねている、空からは雪がチラホラと。それはまさにクリスマスの絵だった。
殿下がオマケだといい、雪で遊ぶ犬と雪だるまの絵を添えた。
「ねぇ、これ色付けて貰えますか? お部屋に飾りたい!!」
「殿下、私も欲しいです……」
「殿下俺も欲しいす」
「わたくしめにも一枚」
この後、殿下はフルフルする仔犬達の目に負けて、ハガキサイズの紙にクリスマスの絵を描かされたのだった。
額装屋を呼び、執務室内で額入れを頼んだ。贋作防止の為である。
この後、額装屋に熱烈に提案され、後に殿下は身分を隠し「光月」として数枚の画を残した。
その画の人気は瞬く間に広がり、また個人資産が増えることになったのは、また別の話し。
ただ、その画の中には一枚も人物画はなかった。
宮殿内の母屋には、日々愛妻を描いた絵が増えていたにも関わらず。
「殿下~~玄関に私の画飾るの止めてくださいませんか? 流石にこれはないです……」
「ん? それが一番よく似ていると思うのだがなぁ?」
殿下は何言っているんだ? と、少し私を睨んだ。
目がおかしいのか!
殿下の一番のお気に入り。
桜の木の下に天女が舞い降り、その周りを銀と桃色金の番の鳳凰が優雅に舞っている絵。
殿下が衣の意匠にも使うお気に入りの構図であった。
天女は要らないだろう? しかも殿下はこの絶世の美女が私だと言い張る。
絶対違うから!
「ねぇ、ならば、この横に御自身の姿も描いてくださいませんか?」
そう言った私に、殿下が微笑んだ。
真冬だと言うのに、その瞬間まるで柔らかな春のような陽の光が差したかと? 見紛うような温かい柔らかな表情をし、ポツリと小さな声で言う。
「恥ずかしいだろう」
少しはにかんだ御姿は、天女の微笑であった。
それから数日後、玄関の絵に加筆されていた。
大きな桜の木の裏で、ほんの少しだけ紫色の長い髪が風に揺れ、天女に手を伸ばす姿。
木に殆どが隠れ、後ろ姿少しの髪と左腕しか描かれてはいなかったが、彼の指先の薬指には紫青石が埋め込まれた白金の指輪が描かれていた。
私はこの絵が大好きになった。
──彼が生涯で自分の姿を描いたのは、この半分も見えない後ろ姿を描いた一枚のみ。唯一の画となった。
そして、その生涯を閉じるまで書き続けた生涯愛して止まなかった彼の小さな宝物の画、その数百を超す画は彼の遺言により全て最期召される際の棺に奉納された。
──これはまた別の話である。




