7.本当に大切な存在とは
無事銀山の調印式も終わり、平和な毎日が? と思ったがそうも行かず、即位の儀や結婚の儀、新年の準備など、皆が忙しくしていた。
何処の国でも師走になると忙しいのは変わらないのかと少し納得した。
皇后陛下かぁ……
考えたこともなかったわ……
嫌とかではなく、今だ非現実過ぎて何となく他人事のように思えてしまう自分に、ちょっと心配はある。
殿下に以前聞いたことがある。
「皇后陛下って何をすれば良いの?」と。返って来た答えは。
「俺の傍にいれば良い」それだけだった。
彼らしいと言えば彼らしい答えだ。
「どうしたのですか? 御方様? どこか体調でも?」
「あ。いえ? 大丈夫です」
珍しく今は支宣様と二人きりだった。
殿下は今、西国からの転入を希望する兵士の面接を自らしていたからだ。
惟光様らは反対していたが、あの国王の下にいて本当に彼に対して忠誠心が一生あるのか? と聞かれたら微妙である若者はきっと居るはず。と言うのが殿下の考えだった。
筆記試験、実技試験、全てを突破した者のうち、見込みがある者のみが最終面談に本日望んでいる。
西国領内に親族が残る者は今回は対象としていない。
「ねぇ支宣様? 聞いていいかしら?」
「何ですか? 珍しいですねぇ? 改まって」
支宣様が驚いた顔をする。
「ねぇ、皇后陛下の仕事って何だと思う?」
ほんの少しだけ支宣様が考えたが、直ぐに口を開いた。
「帝の側で世の泰平を祈ることだと思いますが」
敢えて帝の側に仕えるとは彼は言わなかった。政を補佐することとも。
側で泰平を祈ることと言った。それが正しいのだろう。
「まぁ殿下の場合は祈ると言うより、御方様が側に居るだけで良いと思いますけど?」
「……」
「何か御不安なことでも?」
「不安と言うか……上手く言えないけれど、私は皇后陛下となって何が出来るのだろう? と」
「それは殿下も同じだと思いますよ。あの御方が産まれながらに次期皇帝になるために育てられた訳ではないのはご存知ですよねぇ?」
私は支宣様の言葉に無言で頷いた。
彼の肩にある小さくなっているが痣の痕や火傷の痕。六年前に出来たものとされているが本当は違う。
同じ息子として産まれたのに、弟だけ両親と離れて乳母の元で育った理由。
愛妻の裏切りを許せなかった者の捌け口は……
「それでも自分の背には何千万もの民がいる以上、どんなことをしても泰平を守らなければいけないと仰られた。民の希望を凛花様が御支え下さい。それが我々の望みで、貴女様の努めで御座います」
支宣様は私の目をしっかり見て言い、その後深く頭を下げた。
「ありがとう。支宣様」
彼の帰る場所は私しかいないのだ。きっと国母とはそう言うことなのだろう。
民の父、民の希望である彼が安心して眠る場所で私は在りたい。と心から思った。
「凛花様は殿下の安定剤ですから。お側に居られるだけでそれで十分お仕事をされておいでですよ」
そう言って支宣様が珍しく微笑んだ。
──ガチャリ
「間男、何している? 人の部屋で」
「お帰りなさいませ。間男って……」
「報告書をお持ちしたら、留守と聞いてお待ちしておりました」
「ほう? いい度胸しておるな?」
殿下が支宣様を睨む。
「殿下、お止め下さい。支宣様は仕事の用向きでいらしたのですから、私がいけないのですよ? 夫が居ない部屋に長居したのが。これからは秘書室で待ちますね?」
「なら、宣が秘書室で待つのが筋だろう?」
何でこうなるかしらねえ? この人は。普段はあんなに切れ者なのに。
「違います。執務室は夫婦の部屋では御座いませんのでそれを申されるのであれば、今後はわたくしは出仕しても殿下の部屋には来れないことになってしまいます」
私は少し悲しそうな目で殿下を見つめる。
「お前、それズルくないか? まぁ人目もある。今後は気をつけるように!」
「はい」
「申し訳ございませんでした」
支宣様も素直に謝る。
「で、如何でしたの? 収穫は?」
「うーーん。腕は思っていたよりはましかな。あとはお前への忠誠心かな」
「え? 私への? 殿下ではなくてですか?」
私は驚いて殿下に聞いた。
「当たり前だろ? お前に何かあれば国ごと無くなるぞ? 逆はないだろ? お前が国ごと吹っ飛ばすことはまさかなかろう?」
何かよくわからないけど、今しれっと恐ろしいこと言いませんでした?
って、何で支宣様突っ込まないの? いつもなら一番に止めるはずでは?
「御方様、長生きしてくださいよ? でないと世界滅亡するまで魔王が荒れ狂いますからね?」
ちょっとちょっと? 君たち何を言っているのかな?
そこは止めろよ! 全員で止めろ!
「いや、そこは止めましょうよ?」
私は支宣様を見て言う。
「不肖わたくしでも、松明に火付ける役程度なら出来ますし、焼き尽くすまで油を用意するとかは出来ますからお任せ下さい」
「おう、それでいこう」
君ら頭がおかしいのか? 君ら魔族か? 大丈夫かこの国は?
一見冗談のように聞こえる会話ではあるが、支宣は確信していた。以前に主に質問した際の答え。
あれが本心だ。
もし御方様に本当に何かあれば、きっと彼は狂気の世界に堕ちるだろう。そして自分も消えてしまうだろうと。
そうさせない為にも、全力で護るのは彼ではなく、目の前に居る彼女であることに改めてあの時確信したのだった。
勿論それは自分だけでなく、兄をはじめ全員が分かっていた。




