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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
最終章 継承編

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6.どっちもどっち

 ──「宣、記帳しておけ」

 二人きりになった部屋で殿下がポツリと言う。


「は? まさか?」


「後一ヶ月少々だ。問題なかろ」

 短く殿下が答えた。否は認めないと言うことだ。


「御意」

 まぁ、今までよく()()()ほうだとそもそも思う。それもこれも御方様への愛の深さであろう。

 流石に皇后が婚儀の前に腹が大きくなるのは、恥である。


 しかし、これ俺、毎日記帳するのか?


 帝が妃と夜伽を行った場合、刃傷沙汰や願いごと他にも色々理由はあるが、昨今の一番の理由は、相手の確認のため記帳するのが慣例だが、殿下の場合は相手は一人しかいないので他の子を考える必要はない。だから伽番が要らないと殿下がいつも言うわけで。


「どうします? 殿下? 毎日記帳しますか?」

「阿呆、毎日もしてないわ!」

「あら? そうだったのですか? てっきり毎日かと」

 支宣が悪びれもなく冷静な声で淡々と言う。

「お前らが度々邪魔しに来るのではないか!! 今後出入り禁止な?」

 殿下が少しむくれた顔で睨む。


「いや、たまには御方様をゆっくりお休させてあげて下さいませ? 別居されては困りますしね?」


「毎日はないと言っておるだろ? そこまで鬼畜でないわ! 阿呆」

「執務室ではお控え下さいよ? 今後は」

「……

「これ記帳要らないだろ? 寵愛も何も。最初の期日だけあれば他同じだろう?」


「なら最初の期日も要らないのでは?」


 出来ていれば月のものが止まる訳で直ぐ分かるから必要ないのでは?

 と、思い聞いてみた。


 意外にも、殿下が怪訝な表情を浮かべた。


 ん?



「コホッ、記念じゃ。阿保」


 扇子で御顔を隠しながら小声で言われた。その隙間からのぞく頬が赤く染まっていた。


 記念って……乙女か!

 そもそも貴方何歳ですか! もう二十でしょうに。貴方の父上はその歳でもう沢山の寵妃がおりましたし…… 


 川を自分の気術で凍らせたり、周辺諸国からは悪魔と呼ばれ恐れらている御方が、恥ずかしそうに頬を赤らめて、とうに夫婦になっている嫁との交わりを、記念に記して欲しいと言う。


 そんな、世界で最も敬愛する主が、また大好きになった彼であった。


「伽番は要らんぞ」

「いや、流石にそれは何事かあっても……」


 そもそも朝っぱらからする議論なのかは些か気になるが、世継ぎをもうけて貰うことは国の安泰の為には必須である。


「まぁ、御側室を持たれないので、しっかり励んで下さいませ。御方様が壊れない程度に」

「お前……壊れるって」

 主が睨むのを無視して続けた。


「あ、忘れるところでした。豚の銀山。あ、いや失礼、西国領の銀山の収益金の報告書で御座います」


「豚に謝らぬか失礼であろうが」

 殿下が真面目な顔で言うので、取りあえず豚に謝っておこう。

「豚さん申し訳ないです」


「おい? これって」

 殿下が報告書を見ながら流石に驚きの表情を見せた。


「なぁ、奴の国は算術も出来ぬ阿呆しかおらぬのか?」

 殿下が呆れた顔をした。

「間違えではないよなあ?」


 でしょうね。俺も西の銀座守から報告受けた時は同じことを言ったからな。その足で確かめに行ったから間違えではない。


「この目で確認して参りましたので間違いは御座いません」


 彼も分かっていた。自分が一から育てた側近である。この男が初歩的な間違えをおかすはずがないことを。信じれぬなら絶対確認して来ていることも。


「敢えて少なく報告していたのか? まさかなぁ」

 自分で言ってみたが、直ぐに否定した。あの豚の国が、そこまで気がまわるとは到底考えれない。

「豚ですし」

「だな。真性の阿呆と言うことか」

「そうとしか……」


 銀山譲渡に至る際におおよその収益表は西国の財務課から受け取っていた。

 その額はあまり多くなかったので、まぁ経費向こう持ちということもありあまり気にしていなかった。


 西国と言えば銀山と言うぐらい銀山が大小ある。逆に言えば、めぼしい物がそれ以外にない国だ。強いて言えば温泉が出る程度である。


 いくら上が阿呆でも、腐っても隣国である。一応は相手の国力を知る為に此方からも間者を使って、ある程度の国全体量は分かっていたが、個別の山の収益までは正確には流石に把握出来てはいなかった。


 此方としても山の大きさだけで、概ねの収益を予測していたのが間違いだった。


「宣。そこ俺の個人所有にしたいと豚に親書書け。それなら西国兵は入れぬ。うちで全面管理に切り替えるぞ!」


「御意」

 あ、豚って自分が言っているし! と思いながらも支宣は親書の手続きの為一旦執務室をあとにした。


 西国が譲渡してきた銀山自体は小さめの山であった。

 が、驚きの真実がそこにはあった。

 何と、それ一山で春国が現在所有している全銀山の推定埋蔵量を半量超え程の、超が付く優良銀山であったのだ。


 では何故間違えたのか? 謎は多いが豚の国である。数字が一桁間違えていたのだ。銀山全部の合計収益金のみしか見ておらず、個々の産出量を的確に調べてなかったのだ。


 春国が光の君の命令よって、細かく部門別にして月々の上下限を集計しているだけで、この時代、所謂丼勘定で総収入と、総支出で、国の経営をしていることが珍しくなかった。


 春国では、細かい家計簿の如く各部門の担当者には毎月の収支報告が義務付けられていた。少しでも間違えていたら、光の君の逆鱗に触れる。そして、増収でも減収でも上限五分(ゴパーセント)以上の動きがあった場合はその理由の報告も必須だった。


 当然減収の理由が曖昧、言い訳じみていると、下手すれば懲戒解雇や、僻地に送られる。


 また、殿下が急ぎで個人所有にと言ったのは訳がある。もし将来的に戦になることがあっても、春国所有ではない「個人資産」の没収は協定上認められていないからだ。


 全土焼き討ちなどのことが無い限り、互いに国を滅亡させない為の措置である。

 皇帝個人資産に敢えていくつかをしておくのは、そう言う時の為の保険でもある。




 ──それから数日後、無事西国から了承の旨を伝える回答が来た。


「殿下、此方なんですが……」

 弟が言いにくそうに殿下に話しはじめる。


「ん? 豚が何か渋ったか?」


「いえ逆です。銀山譲渡にあたり、我が国に銀山周辺一帯も譲渡したいと提案してきました」

 まあ、ある意味分からなくはない。


 ()()()()殿下にされた国だ。挙げ句の果ては、北の馬一族の長にまで脅しを受けた。殿下の私有地になった銀山の近くになど、とても行きたがる兵は居ないだろう。


 その周辺を任せる領主がいなくなったのは当然の話で、多数保有する銀山のうちの小山付近なら要らないと思ったのだろう。


 ──埋蔵量は、時にその山の大きさと等しいとは限らない。


 歩く兵器伝説のお陰とも言える、棚からぼた餅。棚からぼた餅どころの話しではないのだが。



「西からの移住者受け入れろ。但し民のみで銀山採掘夫のみだ。身元引き受け人に西国が付いた者のみ可で募集かけろ」


 無茶苦茶言いますねぇ……それって、もしそいつらが盗みとか問題起こした場合、賠償を西国に請求するってことですよねえ?


「あ、期限入れるなよ?」


 悪魔が笑った。


 普通はこの条件で飲む国王などいない。自国に害こそあっても、一利もないからだ。

 自国民をタダで取られ、そいつらの身元保証まで無期限ですると言う、とんでもない条件だ。



「自国の兵を使わなくてもよくなるのだぞ? 喜んで受けるさ。あの()()殿()ならな? 宣お前に任せた」


 彼は知っていた。こういう時のこの男の冷静さと冷徹なまでの巧さを。


「御意」




 ◇





 その後、案の定二つ返事で了承の意を伝えてきた。



「お前悪魔だなぁ? しかし」


「取り過ぎはいけないですからねぇ? 殿下の慈悲深さをしっかり強調しておきましたよ?」


 支宣が交換条件に提案したのは、我領内の西北端の地、銀山周辺の土地より()()()()()()一帯をを、銀山周辺を譲り受ける変わりに()()しましょう。と言う、大変優しく慈悲深い提案だった。


 その地はと言うと、北の大地に隣接はしていたが、()()()()()沼地で到底作物も取れる見込みもない為、国内でもほぼ手つかずの状態であった。


 だが、西国との国境に位置していた為、国境砦を置かざるを得ない状況に春国としても頭を悩ましていた場所だった。砦は高い塀を築いていたので西国からは沼地の状態がはっきりは分からなかったのだ。


「ちゃんと、地図に場所は明記しましたよ? 見聞しに来たら見せましたが?」

 支宣は主に「悪魔」と言われたので、()()であることを伝えた。


「お前、騎馬五百連れて行ったろ? 親書出した後直ぐにあの地に」

 殿下が流し目で見た。


「あ、豚が来たら丁重に御案内差し上げねばと思ったまでですが? でも全員に弓持たせたのは殿下ですよねえ?」


「そりゃあ、豚に万が一のことがあってはならぬからのう? 護衛のためぞ?」


「で、結局豚の兵は見にも来ずか?」

「はい」


「調印式の前までにせめて蓮の花でも沢山飾ってやれ」

「悪魔ですね……」


「優しさだろうが? 極楽浄土への案内か? ハハハッ」


 殿下が高笑いした。


 交換条件地は湿地原の深い沼地。二束三文と思われてはいけないので、蓮が大量に収穫出来る良地思わせる為に殿下は蓮の根の無い花だけを大量に沼に浮かべてやれ。と言ったのだ。


 (ぬか)喜びだけさせて絶望に落とすと言う、殿下らしいやり方である。




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