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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
最終章 継承編

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4.人外伝説

 ──時は一週間程遡る。

 某国酒場で仲間達と夕飯を食らっていた浅黒く日焼けした男は、一枚の手紙を読みながら、腹を抱えて笑っていた。


「ハハハッ。ヒィッヒヒィ。勘弁してくれよ。ついに人間止めたか? あの餓鬼はよう? どこの世界に川ごと凍らす人間がいるってんだよ? 魔法使いじゃねぇんだぞ? あ、いや? 悪魔だから有りか? ハハハッ」


「旦那? それって例の紫の悪魔の話ですかい?」

 隣で酒を飲んでいた旅人風の男達の一人が聞いてきた。


「おお、そうよ。ついに国燃やしただけで飽き足らず、今度は川ごと凍らせたってよぉ。奴の国の偉いさんからの報告書だこれが」


「おお~~!! こりゃあ本物すねぇ旦那」

 旅人達が大男の集団の椅子付近に集まる。


 酒に酔った旅人達はこういう話しが大好きだ。

 人の不幸は密の味。


 ただ、往々にしてこの手の話しは自分に関係ないので、尾ひれが付いたり、間違って広まることがある。相手は酔っ払った噂好きの旅人だ。


 しかもたちが悪いのが、彼らは各国を行き来する旅人だ。

 彼らの社交場と言えば、場所は酒場である。行った先々でこうした間違った話にどんどん尾ひれが付いていく。


「ありゃあ確か、西国の豚が紫の悪魔の国に手出して、それに激怒した悪魔が国ごと燃やしちまったって話しだったよなあ?」

 旅人の一人が自慢気に言う。


「そうそう、豚が焼き豚になる寸前だったってやつだろ?」

「そうそう! 今度は豚が何やらかしたんだ?」

「紫の悪魔が今度は川凍らせたんだとよ!」


「無茶苦茶だな。豚に同情するぜ」

「豚は大人しく、豚小屋で籠もっておけよなあ? ハハハッ。」


 色々な意味で誤解である。


 彼が凍らせたのは、下流付近の()()()に過ぎない。


 それでも人外には変わりないが、夏期を過ぎた北の大地の日照時間は極端に短く、午後からは気温が普通でも一気に下がる。


 秋がなく直ぐ冬になるこの地なら、温度を一瞬急激に下げることに成功すれば氷を生み出すことが出来、その氷は夜間になると日々厚くなり、日照時間が減った中ではもう来年夏まで割れないと計算しての計画だった。


 それが、そのまま一旦冷えた周辺温度によって連鎖して川ごと凍ってしまっただけのことである。


 六年前にしても当初、彼は参加する気はなかった。


 西国程度に、猛将為時と大将左膳が率いる軍が落ちることはないだろうと思っていたからだ。


 では何故彼は、参戦したか?

 しかも北の民を助ける為に兵を挙げた?


 これも誤った認識である。


 西国兵士が、彼の愛馬である駿蘭と駿光の父馬と母馬を、こともあろうか焼き殺したのだ。


 元々両親は北の大地の馬であり、北より譲り受けたのが最初の駿蘭だった。後に兄の駿光も北より譲られた。


 仔馬の時から友のように育てた大事な馬の両親を、蛮族愚兵に殺されたことに激怒して仕返しに行っただけであった。


 まだ十三歳になったばかりの子供だったので、ちょっとばかり抑えが効かなかっただけに過ぎない。


 そもそも、西国は春国を狙ったのではなく、旅に出た後に残る北の大地のたくましい名馬を盗むのが彼らの目的だったのだ。


 冬期に入る前だけ地続きになる、北に繋がる唯一の小さな道を、こそこそと正にネズミの如く近づいたのだ。


 立地的に、北の大地と春国は隣接しているが、西国は春国を通らなければ北へは行けないのだ。


 夏期にだけ、氷が溶けて一部細い道が海面から出来、干潮時だけ渡ることができるのだ。

 だが、当然彼らが居る夏期になど、通れるはずもない。


 春国皇帝崩御の知らせを聞き、千載一遇の機会と出かけ、結果、関係ない国から瞬時に焼け野原にされてしまったのだった。


 ちょっとばかり気の毒になる話しではあるが、留守に人のものを盗みに入ると言う王らしからぬ行動が招いた罰であった。



 因みにだが、次期第二十八代春国皇帝の好物は鶏肉でもなければ、羊肉でもなく、ましてや馬肉でもなく、豚肉であった。

 彼は豚を突き刺して食べる豚串や、丸焼き、煮豚を好んで食べる。




 ──騒動も収まり秋本番となった日、各国宛に、新年一月吉日に現皇太子が、春国第二十八代皇帝に即位することが正式公表された。

 それに伴い前日に結婚の儀を行うことも同時に伝えられた。



 ◇



「なぁ、西国って即位、結婚祝いに銀山贈って、少ないってぶち切れた紫の悪魔に、今度は川凍らせられたって話しだよなあ?」


「王様、絹や金銀だけでは少ないのではないのでしょうか?」

「雷でも落とさされたら困りますし……ここはそれに、関税を下げますか?」

「いや、下げるなぞ、ケチなことをしてみろ? 火の海になるやもしれぬ」


「献上品とは別に、彼の国の交易品の関税を無しにさせて頂きたいと文書け! 急げ! 悪魔、あ、いや。陛下の機嫌を損ねる前に急ぐのじゃ! ちゃんと結婚の儀に参加出来ないことを丁寧に謝っておくんだぞ? わかったな!!」



 ◇


「銀山一つでぶち切れた悪魔が川凍らせたらしいではないか! ではうちは金山の収益を献上したいとお伝えしろ! 悪魔様、あ、いや次期皇帝陛下に!! 急げ! 結婚の儀に行って殺されるよりはましだ! 丁重に参加出来ない旨を謝るのだぞ? 間違っても怒らすなよ?」





 ◇



「殿下……各国に即位と結婚を知らせる文を出したのですが……」

 支宣が言いにくそうに主に声を掛けた。


「ん? 何か問題でも?」


「いえ、問題というよりは……各国結婚の儀の参加は、新年早々であるのもあり自国をけれないと言うことで断りを入れてきました」


「それは最初からその予定で来さすつもりもないではないか? 社交辞令だろそもそも」

 殿下が、何今更言うのだ? と言う顔で見た。


「そっちは良いのですが……東国からは贈り物の品とは別に、我が国と交易時の関税の撤廃を申し出てきました」


「撤廃?」

「あちら側だけの撤廃に御座います……」

 流石の殿下もこの答えに一瞬驚きの表情を見せた。


 相互関税率現在二割。売っても買っても互いに二割払わなければいけない。


 それを我が国が買う時も売る時も税金を取らないと言ってきたのだ。

 勿論自分達は従来通り二割を引いた分しか収入にならないし、二割を支払わないとうちからは買えない。


「ん? 東国はうちとの交易を切ると申しておるのか?? あそこ鉱山資源少なくないか? 西から買う気か?」

 殿下がこういうのは、当たり前だ。うちと取引すればするだけ、向こうの利益は減る。

 他の国に切り替えるほうが良い話だ。


「いえ、東国は従来通りの量の交易をうちとは続けたいと明記しております」

 支宣は淡々と答え、東国国王から直筆の丁寧な手紙と、片調印書を主に見せた。


 片調印書とは、両国が遠方であったり、わざわざ互いに会ってまで条約を結ぶ程でない案件なら、自国の署名を既に行い、その写しを自国が所有し、相手もそれに同意なら署名した時点で効果が発揮する。


 本来はこんな関税問題のような大事なやりとりで使うのではなく、国境付近の工事をするから、騒がしくなるけどすいません。などの軽微な時に使う手法だ。


「なぁ? 東国国王って確かまだ変わってないよなあ? 豚と違ってそんな阿呆ではなかったはずだが?」


 阿呆って……しかも国王に向かって豚って。

 支宣は彼の言われようにちょっと同情しつつ答える。


「変わっておりませぬ。可も無く不可も無く普通の国王かと存じております」


「頭打ったのか東国で? 惚ける歳でもなかろう? まだ」


「殿下、実は東国だけでなく、西南国からも、国境近くの金山の収益を我が国に、即位祝いとして無期限で献上したいと願い出ております」


「は? 俺、西南国の国王見たことないぞ? 鉱山よのう?」

「はい。輸出が殆どですね。金鉱石と白珠、銀などの鉱山資源の取引先の一つですね」


「なのに金山手放すのか?? 頭おかしいのか?」


「歩く兵器を恐れてでは?」

 支宣はしれっと主に言う。



「お前なぁ……」


「御自身で言っていたではありませぬか? 一人で行って凍らせて来たら軍いらないって。そう言うことでしょう? 来られたら、たまったものじゃないですからねえ。何せ川だけじゃなく、家畜まで冷凍保存する悪魔、あ、いや御人ですもの」


 支宣は、もはや人の所業ではないと思っているので気にせず主に言う。


「いや、あれはだな? 言葉のあや? というかだな? しないだろ? 流石になあ?」


「何故疑問形で? もし、御方様が誘拐されたり、それ以上のことをされたら?」


 支宣は、主に真剣な眼差しで一切目を逸らさず聞いた。


「火の海か、氷漬けかぐらいなら選ばせてやる。うーん、そんな余裕ないだろうな」


 主も自分の視線から一切逸らすことは無く、低く冷たい声で答えた後、少し考えながら本音を漏らした。そんな予想通りの主の答えに自分も即答した。


「まぁその時は、俺も止めませんけどね」


「うちに損害ないなら、まあ良いのでは? お前に任せる」

 そう言って既に休憩に入っている主に苦言を呈す。

「あの、一応調印書なので、一読ぐらいはしても」


「要る? それ?」


「要ります!!」


 棚からぼた餅?


 いや、人外伝説のお陰で勝手に収入が増えただけでなく、この事件以来悩みの種であった各国からの入内申し込みの話しは一切来なくなった。


 結果的に良かった?

 と、先で支宣は思ったのはまた別のお話。



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