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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
最終章 継承編

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1.天高く馬肥えない秋の陣(1)

 季節はすでに秋を迎えていた。

 天高く馬肥ゆる秋。


 実りの秋、食欲の秋。そして私の誕生日。

 ただ、この言葉には他の意味もある。

 駄目駄目、縁起が悪いわ……


 空が高く真っ青だ。

 秋の訪れを感じながら、私は茶を啜っていた。


「ん? どうした?」


 殿下がそんな私を見て心配そうに聞いてくる。


「あ、いや? 特には。空が綺麗だな? と思って」


「豊穣祭が終わったら、いよいよ即位と結婚を知らせる案内をする。もう後戻りは出来ぬ。良いのだな?」


 そうか、もうそんな時期か……

 でも答えは変わらない。


「はい」


「それは?」


 殿下が誕生日に贈られた画材道具で何やらサラサラと描いていた。


「あーー動くなよ」

「え?」


「あーーあ!」

 珍しく殿下が少しむくれた顔をしたので、殿下が描いていた紙を覗き込んだ。


「あ! 見るでない! まだ途中だ。お前が動くから……」

 殿下が慌てて隠したので、私は余計気になって、殿下が持ち上げた紙を、ジャンプして飛んで取ろうとした。


「お、おい! 阿呆か。本当の跳ねっ返りではないか!!」


 殿下が呆れた顔をしながら笑った。


「だってぇ。隠されたら、気になるではないですかぁ!!」

 私は殿下を少し睨む。


「餓鬼か。ハハハッ」

 そう言って渋々私の前に描きさしの絵を見せた。


「これって……」


「最初に描くならな。お前しかいないと思ってな。色墨もあることだし」

 殿下が少し恥ずかしそうに言う。


「人物画も御描きになるのですねぇ。驚きました。にしても……美化しすぎてませんか? これ」


 殿下が描いてある女人画は、天女のように美しい女性の絵で、到底私を見て描いたとは思えないものだった。


「ん? 俺の目に映るお前は、いつもこんな感じだが?」


「……殿下、目がお悪くなったのでは? 医官殿をお呼びしましょうか?」


 いや、有り得ないから。どう見てもこれ絶世の美女。いやもはや人間ではない天女の絵だわ。

 目が悪いか、失礼だが頭がおかしいのかも……


「ん? なかなかの出来だと思うがなあ?」


 うん。病院行きましょう! 絶対早く行くべきですわ!!





 ───トントントン


 ん? こんな時間に誰かしら?

 今日は週末で緊急案件でもない限り宮勤めの内勤者の私達はお休みの日だ。


 私が出ようとしたら、殿下が制止したのでそのまま私は座っていた。



「休日に申し訳御座いません。先程、北守より此方が」

 支宣様の声だった。



 殿下が扉の外に一旦出た。

 悪い話しでなければ良いのだけれど……北守と言えば、馬一族の……

 今はもう冬場に向けて国を出たはずよねえ?


 北の大地はその立地故、冬期は氷点下何十度にも気温が下がり、国土の大半は氷と雪に囲まれる。そのため定住を主としない遊牧民である馬一族が代々治めていた。


 そんな地なので、諸外国から侵略を()()()受けることは先ずない。

 彼らは春から秋口までの数ヶ月だけ国内に帰り、ゆっくり過ごした後、冬前に旅に出る。


 先日、出ると言って連絡があったはず?

 今年は例年より暑かったので秋の訪れが遅かった分、少し出発をゆっくりにしたと言っていたような?



 ──ガチャリ


「凛花、ちょっと出て来る。北の大地がほんの少し()()水位が上がっているらしいから、様子を見てくる」


「え? 氷が溶けてですか?」


「心配ない。我が国に害が及ぶようなことはない。ただ帰りが遅くなるやもしれん。貞舜と李俊を寄越すから、留守を頼むぞ?」


「良いな?」


 殿下が念を押した。私に大人しく待っていろと言うことだ。

 こんな時、私には何も出来ないことが辛い。でも私の仕事は殿下が御無事に帰って来ることを待つのが私に出来る一番の仕事だ。






 ◇





「で、どうなんだ? 惟光」

「殿下、申し訳御座いません休日に」

「そんなことより様子は?」


「北守の話しでは、大川の水位が例年より上がっていると。今年の猛暑で、南の山の雪解けが多かったのでは? と申しております」


 惟光は地図を見せながら主に伝える。


「今から(せき)しても……」

 惟光は地図に目線を落としたまま、言葉を探すが続く言葉が出なかった。


「宣、抜けると思うか?」


「増水の早さに、抜く早さが追いつくことは無理で御座います」


 最もな意見であった。こう言う時、彼は憶測では言わない。出来ないことは出来ないとはっきり進言し、時間の無駄なので他の案をと考える男だ。


 殿下は想定内の答えだったので特に何も言わず、ずっと地図を見ていた。



「流れを変えてみるか」


 殿下がポツリと言う。


「え?」

「どうやって??」


 殿下が扇子で大川の下流付近を指す。


「此処で詰まるから海まで出るのに時間が掛かって増水するわけで」


 兄弟は、今更何言ってるのだろう? と少し驚いた。


 本来なら短い夏場に少しづつ山の氷や雪が溶けだして川を流れて行っても、水量は少なく、直ぐに冬期にまたなり、川ごと凍ってしまう。その繰り返しが続き、増水することはなかった。


 それが今年の猛暑と長夏の為、想定以上の雪解けとなり、海に辿りつく前に処理できず水位が上がりつつあった。


「ならば、一時的に細い方を堰止めたら、逃げ場がなくなった水が此方の海に向かう道を通るしかなくなる」


「いや、堰止めるって……今から工事しても間に合いませんし?」


 惟光が言う。


 細い曲がりくねった道を堰止め、一番太い真っ直ぐ海に向かう道に集中させて流せば、海に出るまでの速度が一気に早まり増水は防げるであろう。


 が、既に増水仕掛けている河川をどうやって短期間で堰止めると言うのだ?



 殿下がニヤリと笑う。



「え? まさか?」

「お止め下さい。危険過ぎます」


 二人は主の顔を真っ直ぐに見て、否を唱える。


「このまま指咥えて見ていたとて変わらんぞ。冬期までに決壊しない保証はない。決壊してからではもう防ぐことは出来んぞ?」



「如何様に?」

 惟光は、主の決意の目を見て聞いた。


「兄上!!」



「凍らす」


「馬鹿な!!」

「え? 何処を??」



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