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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
第八章 践祚編

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16.誕生日会(2)

 ──宴もたけなわとなったところで、私は今日のメインイベントであるアレの仕度を御料理番様に目配せした。

 同時に皆が目配せしあう。

 侍従らによって部屋の緞帳(カーテン)と襖が閉められた。


 殿下が瞬間怪訝な顔を浮かべたが、私の顔を見て席から立ち上がることはなかった。


 ──ガラガラッガラガラ


 御料理番様を先頭に数名が後に続いて部屋に入ってくる。

 蝋燭の炎が仄かに揺れていた。


 大皿に載せられた丸い形の真っ白に化粧された菓子が殿下の卓前に三人かかりでゆっくりと置かれた。


 蝋燭は二十本立てられた。


「殿下、おめでとう御座います」

 そう言って私は殿下に目の前の白い焼き菓子、いやデコレーションケーキの蝋燭を指さして、吹き消すように小声で言う。

 殿下が一瞬怪訝な顔を浮かべた。


 高貴な者が蝋燭をあろうことか自身の息で吹き消すようなことは本来絶対あり得ない。

 下品な振る舞いだったからだ。


 だが、今日だけは従って貰いますね? 貴方?

 私は皆に再度目配せした。



「殿下! では御願いします!!」


 惟光様の号令により、殿下が少し怪訝な顔を浮かべながら勢いよく蝋燭を吹き消した。

 一本残り、再度吹き消した。

 同時に部屋の緞帳と襖が開けられ明るくなる。


 侍従達によって、琴や笛の調べが奏でられた。


 殿下の前に置かれたケーキを一旦御料理番様達が預かり、切り分けて皆に配られた。

 殿下の皿のは私が焼き菓子に文字をいれた。


「二十歳おめでとう 光さん」


 その文字を見て殿下が私の顔を見た。私は無言で頷いた。

 殿下が私の頭を軽く撫で、小声で呟いた。


「有り難う」


 それからは皆いつものように無礼講となり、歓談を楽しむ。

 為時様が殿下の幼少期の話を皆にしてくれた。

 が、殿下は怪訝な表情を何度も浮かべていた。



「殿下、これをお受け取りください」

 そう言って為時様が殿下に小箱を差し出した。


「ん? 何だ?」

 皆が殿下の後ろに集まる。


 開けて、開けてと皆の目が一斉に小箱に集まった。

 殿下が箱を開けてみた。


「ん? これは??」

 殿下も少し首を捻る。

「人参?」

 殿下がポツリと呟く。見た目は高麗人参に近いが少し形が違うような?

燕窩(えんか)か?」


「流石殿下で御座いますな」

 為時様が笑いながら答える。


 燕の巣? 


 あるんだ!! ちょっと気になる!! スープにしたいです!


「これは俺より、凛花が欲しそうだけどな? ハハハッ」

 そう言って殿下が私の頬を軽く摘まむ。


「妃殿下と御一緒にと思い御用意致しました」

 そう言って為時様が私の顔を見た。


 為ちゃん! 有り難う!!

 燕の巣って確かコラーゲンたっぷりよねえ? 美容に良いと言われる高級食材!!


「では、続きましてはわたくしが」

 そう言って裕進様が前に出る。


「此方を御納め下さい」

 そう言って少し大きめの箱を殿下の前の卓に置いた。


「これって」

 既に殿下には中身の検討が付いているようだ。


「伽羅か?」

 殿下が箱を開ける前に裕進様の顔を見て聞く。

 裕進様は無言で微笑む。


「殿下と言えば此方かと思いまして」

 箱の中身は殿下愛用の伽羅の香木だった。

 中々の大きさなので、かなりの値段のはずだ。


「有り難う裕進」

 そう言って殿下も裕進様の心遣いに礼を言う。


「なんかこの後だと出しにくいのですけど……」

 支宣様が少し苦い顔をしながら、細長い箱を出す。


「……あまり高価な物では御座いませんが」

 そう言って殿下の卓の上に置く。


「ほう? 筆か? 絵筆か?」

 殿下は筆を手に取り、少し穂先が広いことに気づいた。


 絵画用の絵筆のセットだった。

「お前にしては気が利くではないか?」

 そう言って殿下は支宣様に微笑んだ。

 筆の一本づつに鳳凰の彫りがされており、光潤と名前を刻まれていた。


 殿下の筆を作っている工房に御願いしたらしく、長年殿下の秘書をしていた支宣様にしか出来ない選択だった。


「では、次は私めが」

 そう言って真打ち惟光様が殿下の卓の前に箱を置く。


「お? 色墨か?」

 惟光様が選んだのは、所謂絵の具だった。植物性の画材絵の具だった。

「燎殿に探して貰いました……すいません」


「お前、楽したな?」

 そう言って少し惟光様を睨む。


「でも、惟光様は今日の夜明け前からあの肉を受け取るのを外で待っていらしたのですよ?」

 豚ちゃんの到着時刻がはっきり分からなかった為、惟光様はかなり早い時間から待機していたのだ。


 その後、宮の侍女達が皆で作った枕カバーやら布団カバー等を受け取っていた。

 侍女達が仕事の合間に少しづつ皆で手分けして縫った世界に一枚だけの愛が詰まった物だ。


「では、最後に私から」

 そう言って私は、結から小箱を受け取る。


「お誕生日おめでとう御座います。貴方」

 私は箱を殿下に手渡した。


「開けても?」

「はい」


「耳飾りか??」


「私が意匠しました。殿下には紫青石のを。もう一つは私が」

 二つを私は箱から出し揃える。


「これは?」

 殿下が私の顔を見ながらたずねたので私は殿下の耳元でそっと呟く。


「私の国で大好きの意味の意匠です」

「二つで?」

 私は箱の内張に書いた殿下と私の名を囲んだハートマークを指さした。


「なるほどな。良い意匠だ」

 そう言って殿下が私の肩を軽く抱いた。


「ただ、殿下、一つ問題が御座いまして」

「ん? 何が?」

 殿下が少しだけ驚いた表情を向ける。


 私は自分の耳にあるピアスを髪を片側あげて見せる。

「これと同じ仕様でして……そのままだとお使いになれません」

「あ、穴開けるのか?」


『え?』

 流石に皆が少しざわつく。

 やっぱりそうなりますよねえ? 天子様の御身体に傷をつけるだなんてそんなこと許されませんよねえ……


「お前が開けてくれるなら構わんぞ?」


 え? 私がですか??


「折角揃いの物がまた増えるのだろ? 良いではないか?」

 そう言って殿下がご自分の衣の袖で私を皆から隠すようにして、額に軽く口づけた。


「有り難う。大事にするよ」

 そう言って彼は、キラキラ輝いた目で私達全員に御礼を述べた。


 その後、侍従の一人を殿下が呼んだ。


「上質紙と筆を」


 直ぐに用意され、殿下の前に置かれた。


 筆を取った殿下は、サラサラと何やら外の風景を描きだした。

 そして最後に裕進様の名前を入れる。


 その後も同じように絵を描いたり、詩を書いたりと。

 ものの数分でサラサラと書き終わった。


「礼じゃ。金に困ったら売れ。銀子ぐらいにはなるだろう? ハハハ」


「よ、宜しいのですか?」


 裕進様は手が震えていた。

 次期天上人とおなりになる御手自らの絵である。


 殿下は自分が描いた絵は、基本御所内に飾ることはない。

 唯一あるのが、御自身の寝室に飾られている、以前行った花見の時の風景画の一枚のみだ。


 襖絵や欄干の意匠も、下絵を描くのみで完成図は残さない。

 建造物のデザイン画等も完成後は全て処分している。


 贋作や、変なことに使われないように注意することもあり、こうして臣下に授けることは過去にも一度もしてこられなかった。


 幼少期に遊びで描いた絵を扇子に加工した物を唯一支宣様に下賜したのと、過去に香瞬皇太后陛下に譲った二本のみである。


 宝剣や、刀、宝物等は簡単に臣下に下賜してしまう御方ではあるが、自身が直接描いた絵や、書は世には一切出回ってない。


 売ったらいくらになるんだろ……

 下世話な私は下世話なことを考えてしまった。

 銀子どころの値でないことだけは皆、知っていた。


「有り難き幸せ!」


 順番に殿下が渡して行く。


「殿下の名前入れて貰っても?」

 支宣様が殿下の顔を見ながら言う。


「お前、売る気だろ?」

 支宣様を殿下が睨む。


「ち、違う。違いますってえ! 折角なら俺の名前より殿下のほうが良かっただけで……」

「阿呆か」

 そう言って殿下が隅に小さく竜胆の絵を描き足した。


「名は無理じゃ。これで我慢しろ」

 そう言って支宣様に渡した。


 殿下の意を理解した支宣様は嬉しそうに受け取り言った。

「売らないですからご心配には及びませんからね?」


「加工屋に出すなよ」

 殿下が釘をさした。


 完成品を加工屋に出した場合、勝手に複製されたり贋作が出回る恐れがあるからだ。

 これからは頂いた画材道具で、私の為だけに描いてくださいね? 部屋にいっぱい飾りましょうね。


 そうして、皆に貴重なプレゼントを渡し終えたところで、宴はお開きとなった。




 ◇




「凛花。有り難う」

 そう言って殿下がいきなり後ろから抱きしめてきた。

「いえ? 私より皆が色々頑張ってくれましたので」


 殿下は無言でそのまま抱きついたままだ。

「殿下?」

 私は異変に気づき、その手を振り払おうとするが力を一層込められた。


「もう少し……」

 声が震えている? 

 私が振り返ろうとしたが殿下に制される。


「見るな」


 ──そのままの時間が暫く続いた。


「物心ついた頃から疑いはじめ、現実となった時から、生まれきてしまったことに懺悔し、神でさえ憎んだ。この世に存在してはいけない歪な物だった。でも誰も俺を責める者は居なく、それ以来、毎年この時期が俺は大嫌いになった」


 殿下が私の背後からボソボソと話し出した。


「でも、今日初めて楽しかった。有り難う。凛花」


 私は彼の方に振り返り、その瞳から流れた世界一美しく、気高く尊いダイヤモンドの粒を指で拭い、彼の唇を塞いだ。


「毎年お祝いしましょうね」

「そうだな」

短く答えた殿下が、自身の左上腕に手を添えた。

私はそっとその手の上に自分の手を重ね、軽く口づける。

 

その後、私は殿下に飛びついた。

「お、おい!!」

「何となく? そういう気分だったのです」

「何だそれ?」

「えへへ」


 その後、私達は寝間で夜遅くまで色々話しをした。

「次はお前の番だな?」

「有り難う御座います」

「何か欲しい物はあるか?」


 欲しいもの……


「その刻が来たら、では言いますね?」

 何が欲しいのかを何度も聞いてきた彼に、今は秘密! と言って誤魔化した。



 私は自分の手の指を折ってみた。


「何だ? 指輪が欲しいのか?」

 殿下がすかさず聞いてきた。


「違いますよ。秘密です」



 私はこの幸せがずっと続くと思っていた──








 第八章(完)



今回で第八章(完)です。次回からはいよいよ最終章、即位に向けての話になります。

ここまでお読みになった時点でも構いませんので、広告下にある✩✩✩✩✩から作品へ評価を頂けると、執筆へのモチベーション維持に繋がります。また、次回が気になると少しでも思われたらブックマークも是非お願いします。









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