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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
第八章 践祚編

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15.誕生日会(1)

 ついにこの日がやって来た。私は朝からソワソワしていた。


「結~~そろそろ時間だわ。お客様を迎える準備を皆にさせて頂戴」


「承知しました。御方様はどうされます?」

「そうねぇ私は殿下と中で待つわ?」


「じゃぁ例の、お願いね?」

「お任せ下さい」

 私達は小声で段取りを話す。




 ──「なぁ……本当にうちでやるのか? 何でうちでやるんだよ?」


「折角だから、みんなに祝って貰いたいじゃないですか?」

「いや、だから何でうちなんだ?」


「何となく? うちが一番良いかなと?」


「あいつらと同じかよ……」


「ん?」


「さぁさ。今日の主役がいつまでこのようなところに、参りますよ? もう皆が来るころです」


 私は嫌そうな殿下の手を無理やり引いて、広間へ移動する。


 生活の場に人を入れるのは流石に殿下も許さず、私もちょっとそれはと思ったので、来客用に作られた大広間で今日の宴「皇太子殿下お誕生日会」を行うことなった。



 結がさっと傘を出す。


 警備上の問題もあり、同じ御所の敷地内とは言え、こちらの来客用広間は私達の居住空間の母屋とは繋がっていない。池を挟んで単独の棟に作られている。



 結と、侍女が広間の扉を開けた。大きな観音開きの扉には鳳凰の彫刻が施されていた。左右に(おす)(めす)が桜の木に舞う、以前殿下がデザインした物を模したものだ。



「うわ~~良い匂い!!」


 総檜作りのこの部屋は、換気と掃除の時以外はずっと閉めていたので、新築の木の匂いでいっぱいだった。


 調度品もまるで雛人形の段飾りを彷彿させるような、黒塗りの漆器に螺鈿(らでん)や、上品な蒔絵を施されている。

 この殆どが、殿下自らデザインしたと言うから本当に驚きの才能である。


「鳳凰の間」と名付けられたこの部屋は、天井にも番の鳳凰の絵が描かれており、桜の木の周りを優雅に舞っていた。


 この部屋だけで、まるで美術館の中にいるような気持ちになる。壁にはところどころガラスを入れた飾り棚があり、宝物が飾られていた。


「凄いですね……何と言うか流石と言いますか」

「うわぁ。天井高!! 流石殿下ですねえ」

「引退しても食っていけますね」


 一人、感嘆の声に混ざっていたことはまぁ気にしないことにしましょうか。


 皆が紀恵さんの案内で部屋に入って来た。


「おめでとう御座います」


 そう言って裕進様が殿下に挨拶をし、竜胆が中心の大きな花束を殿下に差し出した。


「あ、ああ。有り難う」

 少し照れくさそうにしながらも、殿下が受け取っていた。


 惟光様が皆に目配せした。


『誕生日おめでとう御座います!!』


 ──パン! パン! パンパン! パン! パンパンパン!


「お、い? これは??」


 私がこの日の為に用意したのが、そう「クラッカー」だった。


 内緒で侍女達と試行錯誤し、何度も試しながらやっと完成させたのだ。


 それを今日の来客者に予め御願いして、裕進様の花束贈呈後、惟光様の合図で皆が一斉に鳴らしたのだ。


「大成功でしたね」

 そう言って皆と手を叩いた。


「あ、ありがとう……」


「何ですか? その御顔はぁ。もう、早く此方へどうぞ? 本日の主役なのですから」


 私は殿下の手を引き、所謂お誕生日席に案内した。


「え? 此処? お前の隣でいいよ」


 殿下が恥ずかしそうに言うが、私は半ば強制的に座らせた。


 誕生日と言えば、ここでしょう!


 全員が見渡せる「お誕生日席」に殿下が座ったところで、宴が始まる。

 私は奥に控えていた御料理番様に目配せする。


 御料理番様が、台車にのせた発砲果実酒をガラガラと運んで来た。


 そのうちの一本を、冷やしたガラス容器から取り出し、布に包み殿下に渡す。

 胴の部分に本日の日付と殿下の名前を入れた(ラベル)を見せた。


「先日の酒蔵で御願いしていた葡萄酒で御座います。殿下自ら封をお開け下さいますか? 皆で喜びを分かち合いましょう」


 私はそう言って、御料理番様に目配せする。御料理番様が殿下に小さな(ナイフ)を渡した。


「では皆様お立ち下さい。ご唱和願います」


 私の合図で全員が起立し、その刻を待つ。

 殿下に私は無言で頷いた。


「参ったな……」


 殿下が少し、はにかみながらも瓶を掲げた。



 ──ポン!


 綺麗に詰栓が外れたと同時に中の酒が泡となり溢れ出す。


 殿下が急いで下ろそうとしたのを御料理番が預かり、そのまま硝子製洋杯(シャンパングラス)へと注いだ。


 殿下にお渡しした後、他の瓶も次々と、料理番達の手によって開封されて行く。


 全員に行き渡ったところで、段取り通り為時様が皆に号令を掛ける。


「光潤様、お誕生日おめでとう御座います! 殿下の今後の健康を祈り乾杯!」


『おめでとう御座います!』

『二十歳おめでとう御座います』

『乾杯!!』


「……ありがとう。なんだか恥ずかしいな……」


 そう言いながら殿下は杯を掲げた。

 殿下が飲まなければ、誰も飲めないので彼も仕方なく口に含んだ。


「ん? 美味い!」

 あまり酒は飲まない殿下が杯を空にした。


 まだ若いのでワインとしては早いけれど、食前酒としてならなんとかなるかな? と早生種の葡萄で一番に作った発砲酒だった。


「まだ若いですが、冬には量産出来る予定で御座いますよ。即位には間に合わせます。札も即位記念の札をご用意します」


 私は殿下に伝えた。

 そう、即位記念として限定ラベルのワインの販売を計画していた。


「とんだ跳ねっ返りだな。また俺で稼ぐ気か? ハハハッ」

「意匠はお任せしますね?」

「こき使いおって」


 そう言って殿下が笑った。


 順に料理が運ばれてきた。

 今日の料理は前々から私と御料理番様とで何度も話し合って出来たお品書きだった。


 梨と無花果(いちじく)を甘露煮にしたものに燻製した豚肉の薄切りをのせ、乾酪(チーズ)の柔らかめの種、クリームチーズを添えた前菜。


 氷を小さく砕き、かまくら状にした器に入れた刺身、食用の花を分断に使用した季節の野菜。



 ──ガラガラ


「な、何だそれ?」

 殿下が驚きの表情を見せた。


「燎様より本日夜明けに届いた豚で御座います」


 私は目の前に鎮座した豚の丸焼きを見ながら殿下に答えた。


 実は数日前に惟光様宛に鷹文が届いていた。

 惟光様が本日夜明けに燎様の遣いの者から受け取ってそのまま御料理番様に御願いして料理して貰った新鮮な物だった。


 御礼に、大麦麦芽(モルト)の蒸留酒を秋には頑張ってみよう!


 御料理番様によって豚さんが切り分けられていき、殿下の好きな蜂蜜と柑橘を使った甘めのソースで頂く。


「うんまい!!」

 結が思わず漏らした。

「皮はパリパリ、中はしっとり。最高ですな」

 為時様も美味しそうにしている。


「殿下は野菜もちゃんと召し上がって下さいよ?」


 殿下の卓上には既に野菜サラダは端に追いやられていた……


「き、今日は、良いではないか? なぁ?」

 そう言って私の顔を見る。


「今日だけで御座いますよ?」


「料理番殿、おかわりを」

 早かった。すかさず殿下が肉の追加を所望した。


 この肉食め!

 まぁ、今日は多めにみましょうかね。



「なあ、この豚似てないか?」


『言わないでください……』

『飯が不味くなります……』


「惟光、滅多刺しにしとけ」

「豚に失礼です。馬鹿と一緒にしないでやって下さい」


「だな……すまぬ豚ちゃん」


 そう言って何故か、惟光様と裕進様は目の前の、こんがり焼けた豚の丸焼きに合掌して頭を下げた。



「ネズミ以下よのう、居なくなった隙にコソコソとばかり。あ、ネズミに申し訳ないか」



 先帝崩御後の不安と勝手に踏み、北の民も居ない時期の好機と絵に描いて、あろうことか北と隣国の両方にちょっかい掛けた結果、熱々の餅を鱈腹食べて豚になった者の話である。


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