14.竹馬の友
──某国、王宮内では日焼けと酒焼けで浅黒くなっている大男一人と、小さく震えながら正座する男達の姿があった。中には既にその下には大きな水溜りが出来ている場所も。
金や銀を分断に使い、象の彫刻があったり、古代神話の英雄の彫刻や、煌びやかな壺など、よくわからない調度品に囲まれた大きな広間の真ん中に、一列に綺麗に並んで座っていた。
「も、もう、お許し願えませんか?」
「ん? 我々は何もしていないが? 金どころか女共、虫一匹も殺してないぞ? 寧ろ毎晩、酒や飯を食うのも全て金は払っているが? それともこの国は何か? 旅人は通るなと言う法があるのか? 王よ? あ、これ献上品な? 受け取れよ」
そう言って浅黒く日焼けした長身でガッチリした男が、異国の首飾りや、屑石を投げる。
そう、彼が北の遊牧民の馬族の族長。馬燎だった。竹馬の友の光潤より誘いの手紙を受け、
直ぐに西国にやって来て既に一週間が経っていた。
その間彼らは昼間は市井を馬でうろつき、酒を浴びるほど飲み、飯屋の米を全て食べ尽くし、夜は一晩中松明を掲げ、市井の警備をしてやると言って王都内を練り歩いた。
その行動に市井の民だけではなく、流石に中央も困り果て、帰還を願う為に王宮へ仕方なく呼んだのだった。
「お前らなぁ? これ以上わしの友と春国に干渉するなら、俺達はこの国全土焼き尽くすまで帰らんぞ? 覚悟あるのか? おっさん?」
「ひぃっ。しませんしません、もう二度と関わらないと約束します! 絶対近づきません!」
「なら、ここに、てめえの血で記名しろよ! おら! さっさとしろよ!! おっさん!」
「血? 血で御座いますか??」
西国国王が震えながら、目の前の大男に恐る恐るたずねた。
大男が短剣を鞘から抜き、一瞬で王の親指の腹を薄く切る。
「イタッ 痛い。痛いイタタタタ。な、何を。痛い。医師を早く、医師を連れて来い」
「大袈裟なかすり傷程度で、いいからさっさとしろよ!」
そう言って大男は目の前の逃げ惑う男の首を捕まえ、そのまま吊り下げたまま、念書に押さす。
「ほら、名前かけよ!」
国王はつり上げられたまま、親指の血で、泣きながら署名した。
「次はねえぞ? あの夫婦とあいつらの国に二度と関わるんじゃねえ!! 屑が!1」
そう言って大男と他のこれまた同じような容姿の者が、去って行った。
それから数日後、殿下の元に一枚の紙切れを付けられた大きな鷲が飛んで来た。
「鷹が流行か? これ鷲か?」
殿下が中の紙切れを読み、笑った。
「宣、酒用意しとけ」
「御意」
殿下の机の上に血判と血で署名された紙切れ「不可侵条約」が置かれていた。
但し、それには一筆入っていた。
「甲が乙に対して一切の干渉も侵略も行わないことを約束します」と。
本来不可侵条約とは相互不可侵のことを意味する。
今回のこれは「甲の西国が、乙の春国に対してのみ」適応される。
そしてまたしても、期限の明記が記されてなかった。
そして、その下に小さく書かれていた。
もし破る時は、春国、北の馬一族一斉に兵を貴国に向ける。と
馬一族族長の直筆で添えられていた。
「あの国大丈夫か? 一層のこと取りに行くか?」
「いやいや、要らないでしょう?」
「銀山と温泉多いぞ?」
「今要らないでしょう? これ以上領地増えても手回りませんし」
支宣が真面目に答える。
「まぁその気になれば、一日あれば落とせるだろ? あの程度なら」
恐ろしいことを笑いながら言う目の前の男が、支宣は敵でなくて良かったと安堵した。
◇
「世話になったな燎」
「いや、あの時のお前の恩に比べたらこれぐらい何ともねぇよ。お前のお陰で俺達は、馬を失わずに、そして子孫を失わずに今、こうして……あれからもう六年以上いやもう七年近いのか……」
そう言って大男が遠い目をした。
「まさかあの時の餓鬼が、嫁を貰うなんてなあ、驚いたぜ。あんな死神みたいな顔してた奴がよう」
「死神って……」
「良かったな。幸せになれよ?」
「ああ、有り難う」
そう言って大男はかつての恩人、今は友の肩を軽く叩いた。
「い、痛いって、馬鹿力……」
「ハハハッうるせぇぞ餓鬼が」
「あん?」
「で、嫁は?」
「お前に見せるわけなかろう?」
「は? そりゃねえだろ? 友よ? 式には俺も行くぜ?」
「あ、無理。うち皇室以外立ち入り禁止だから」
「は?? なんだそれ?」
大男は目を丸くして聞く。
「神国なんで」
そう言って笑った。
「悪魔の国の間違えだろ? ハハハッ」
「いつもお世話になっております。今日は此方を御願いしようと思って、って殿下??」
「り、凛花? お前何しに? こんな所へ?」
「殿下こそ何故??」
「お、俺はだなあ……」
その後の言葉を濁した。
「ほう、これがお前の嫁か?」
大男は目の前の子供のような女性、いや女児を見た。
「……凛花、逃げろ、てか帰れ今すぐ!」
「へ? え???」
私は殿下が手であっちへ行けと何度もするので、不思議に思った。
隣には何だか凄くガタイの良い男性が……
あ! もしかしてこの御方が北の? 殿下のこの親しげな雰囲気といい?
「これはこれは御挨拶が遅れまして、誠に失礼致しました。皇太子殿下の許嫁の凛花と申します。この度は、大変な御尽力を頂戴したと聞いております。御礼が遅れましたことを重ねてお詫び申し上げます」
「ほう? 許嫁とな? ハハハッ 神国とは面倒じゃのう?」
「わしは燎じゃ、光の友じゃ。宜しくな凛花殿」
そう言って燎と名乗った大男が私にゴツゴツした手を差し出す。
「お、おい!」
殿下が制しようとしたが、私はそのゴツゴツした手を両手で包む。
「凛花で御座います。白珠や金鉱石の運搬大変いつも助かっております」
私はそう言って、少し腰を落とし会釈をした。
「お! そう言うことか!! あれを見つけた女子か!!」
嬉しそうに笑いながら、私の手をブンブン振る。痛いんですけど……力強いですし。
「放せ、燎」
「あ、すまんすまん」
「ついでに、飯を広めた女だ」
「え? そうなん? あんたがかい?」
あんたって……まあ良いけど。
「今後共宜しく御願いしますね? 燎様」
「で、何でお前がここに?」
「殿下こそ? 何故?」
「俺はこいつに土産を」
そう言って殿下が目の前の大きな酒樽の山を、呆れた表情で見つめた。
あ、この前の御礼ね。
「私は、葡萄の果実酒の件で此方に御願いしていてその話しをっ! あ! 忘れてた! ごめんなさい! 約束が!! では、これで失礼します。本当に有り難う御座いました! 葡萄酒出来たら絶対送りますね~~では~~」
「……」
「なぁ? 神の嫁だよなあ? 大丈夫か? 春国?」
「多分な」
かつて紫の悪魔と呼ばれ周辺諸国から恐れられた、悪魔に魂を売り渡したような顔で笑っていた目の前の男は、その小さな物体が見えなくなるまで心配そうに目を細めて、そして幸せそうに笑っていた。
良かったな。あのまま悪魔に引きずられなくて……
今、目の前に居るこの美丈夫は、どう見てもただ顔が良いだけの人間の顔をしていた。
幸せになれよ。光潤様。
「じゃあな。絶対結婚式行くからな!! 後で樽取りに寄越すわ! ありがとな!」
「だから、無理だって。じゃあな。世話になった。またな!」
そう言って彼らは酒蔵を後にした。




