13.ここが一番?(2)
──「でも、流石にそれは有り得ぬだろ? 他を抱かないってこれだけはっきり言っているわけだし?」
「それは……前回のあの毒女のこともありますし……」
支宣は言いにくそうに俯き加減で答えた。
『………』
「あれ、俺堪えたろ? それで分かったはずでは?」
「あれ以上を仕掛けてくるかもですし……」
支宣は主の顔を少し疑う目で見つめる。
「阿呆。あれはそもそも目的を確かめる為で、だから生かしただけだ。目的がはっきりしたなら同じ手にかかるわけなかろう?」
「ですよね……」
兄弟は互いに顔を見合わせた。
うん。この御方に指一本どころか、近づくことさえ絶対に出来る訳がないことは、自分達が一番分かっていたからだ。
「まぁ西としてはアレですしねぇ。どんな手段を使ってでも種を欲しがる気持ちもまぁ、あれを見たらねぇ……」
支宣が主と兄の顔を見ながら、少し呆れ気味に言う。
「お前、殺すぞ?」
「いや、そもそもが存在が凶器なのですから、滅多やたらに出さないで下さいよ。容姿だけでも人より目立つのですから……」
主の脅しにも何処吹く風で、苦言を堂々と言う弟に、兄は口をポカンと開けていた。
「お前、歩く凶器って……」
意外と、主が少し悲しそうな顔をしたことに二人は少し驚いた。
「にしても、あれって一時的に気を増幅ですよねえ? あれでどのくらいの時間維持出来るのですか?」
真面目な顔で兄がたずねた。そこは俺も実は少し興味があった。
「は? 何言ってるんだ? あの程度なら別に一日程度なら何ら問題ないが? まぁ流石に一週間とかだと、ちょっと疲れるかもなぁ? やったことないけどな?」
『えええええええええ!!』
「う、嘘ですよねえ?」
「お前らに嘘ついて何か俺に得があるのか?」
真面目な顔で聞いてくる主に、二人は少しづつ湯船の中で後ずさりして距離を取っていた。
「あれで、どのくらい?」
宣が恐ろしい質問をした。
「うーーん? あまり考えたことはないけどなぁ。身体に負担が掛かりそうだし限界まで増幅させたことはないしなあ。今度一回試しておくのも良いかなあ?」
『御止めください!! 絶対駄目!』
「宮、吹っ飛ぶ!」
「いや、下手したら都、いや国滅びるぞ?」
兄弟の悪口とも言える会話を聞き、彼は少しづつ気を増幅させていた。
浴槽の湯に渦が出来、水面が少しづつ押上られて行く。
温度も一気に冷えてきて空気が張り詰めて息苦しく感じる。
身の危険を感じた惟光が、主を必死で止める。
「ちょ! やめやめ、壊れるって!! 殿下!!!」
「殿下……妃殿下が起きます。お止めください」
支宣が冷静に主に言った。
「殺すぞ? お前ら?」
『申し訳御座いませんでした!!』
先日新しく作った露天風呂の岩がガタガタ今だに少し揺れていた。
夜空の下で怪しく紫に光る瞳を見て、兄弟は頭部に角が無いか無意識に目線が上方に向いていた。
「いやぁ……気の増幅術については実際に父上からも色々教わりましたが、殿下のそれとは……」
真面目な顔で兄が主に言う。
「俺の場合、純血種だからなぁ……」
その後の言葉を殿下が濁した。
「笑えない冗談は止めて下さい」
「申し訳御座いませんでした」
二人は、言い過ぎたことを素直に反省した。
「まぁ、ある意味、側室をお持ちにならないことが良いかもですね」
支宣はぽつりと小声で呟いた。
あんなのが沢山産まれたら、いつか大変なことになるのが目に見えている。
殿下が側室を持たないと頑なに言う理由は勿論、妃殿下以外興味ないことが一番だが、それも考えての発言なのかな? と支宣は少し思った。
「燎に頼むかなぁ。これ以上続くとなぁ流石に。捻り潰すのは簡単だが、民のことを考えたらな」
あんた一回やってるだろ! と、二人は突っ込みたくなったが、民のことを考えるようになった主に少し安堵した。
悪魔と呼ばれたあの頃から今は比べ物にならないぐらい、よく笑うようになったし、こうして三人で風呂にも入れるようになった。
「北の馬族の?」
惟光がたずねる。
「ああ、俺が直接行くよりはまあな。うちとしても色々と面倒にならんだろ?」
「なるほど……」
「宣、酒蔵一つ開けとけ」
「一つで宜しいのですか?」
「うーん前回の借りもあるしなぁ二つくれてやるか」
「御意」
「にしてもあいつら、これ以上干渉してきたら、今度こそ皆殺しにするぞ!」
『殿下……先程御自身で言われたことと……』
「外道が無駄な金使わせおって」
主が吐き捨てた。
「あ、御方様が果実酒作るって、葡萄園を大量に作っておりましたのがそろそろ収穫ですよ?」
「ああ、何かそういえば言うておったの?」
主と言い、妃殿下と言いこの二人が居たら国は安泰だな。と兄弟は心から思った。
「長生きして下さいよ?」
支宣は思わず本音が出ていた。
「そうですよ! 頼みますよ?」
兄も同じ気持ちだった。
「何だそれ? 人を、人外扱いしたかと思えば。都合の良い奴らよのう? 相変わらず」
支宣がこんなに主に対して怒ったのは、本当に戦にでもなってもしも? のことになったら? と心配したからだった。彼に限ってそんなことは絶対ない! とは信じていたものの……
「阿呆」
「何がですか!!」
「守るものが沢山出来たのに、そいつら養うだけで忙しいわ。くだらんこと考えるな」
そう言って支宣の頭をこついた。
「絶対ってことはないのですからね!!」
「その時はお前が継げよ」
「馬鹿なこと言わないで下さい!!」
「出るぞ、そろそろ」
そう言って背を向けた彼の背中には、鳳凰が本当に番いで仲良く舞っているように二人の目には見えたのだった。
「なぁさっきのって……」
弟は無言で目を閉じただけだった。




