12.ここが一番?(1)
「なあ? だから何で此処なんだ?」
『ここが一番だから?』
「もうその下りいります?」
毎度のこのやり取りに支宣は面倒になって、主を少し投げやりに流した。
「そもそもおかしいだろ? 別に執務室人払いしたら良いだけだろう?」
殿下が俺達の顔を交互に見た。
「流石にあそこでは話せない内容もありますし…」
「御方様入って来ますしね。それに変な心配かけるのもアレですしね?」
何言ってるの? と、支宣は主を流し目で見た。
「ならば、凛花も人払いしたら良かろ?」
『それは駄目です!』
兄弟が揃って即答した。
実際、彼女に助けられている部分はかなりある。殿下の御立場上、一旦振り落とした鉈は刈らなければならない。今回の西国の件にしても、本来処刑して終わりではない。
国の重要所、収益はそれほど多くないにしても、あろうことか皇家所有の銀山へ他国民を入り込ませた責任は誰かが取らなければならない。
西の砦は代々「豪家」が護っている。その名の通りの脳筋揃いで元は北の民を起源とする一族だ。
当然領主は今回の件で辞任を自ら申し出て来た。国としてはそれを受けざるを得ない。
だが、そこで立ったのが今回も御方様だった。一度はそれを受け「妃殿下の恩賜」として二週間以内には復職させている。前回同様、訓告、訓戒、謹慎程度の温情措置だ。殿下の治世では本来なら有り得ないぐらいの激甘処置である。
今までも同じようなことは何度かあった。でないとこの国の有能な人材は居なくなってしまうからだ。実際そうしないと、宣は何度も処刑されているだろう。
彼は今までは臣下ではなかった。官位のない、いわば殿下の私設秘書に過ぎなかったから処罰対象ではなかっただけで、だが今は違う。
内政の全責任者は弟の彼である。
殿下もそれはよく分かっていて、落としどころとして御方様の存在を上手く使っておられる。
軍や国家となれば、やはり本音と建前は複雑になる。
父の雷は必須で、母の優しさも必須だった。
基本的に殿下は理に叶わない厳罰はしない。時として非情になることはあるが、それは国を統べる者としての役割としてだ。実際にあまり皆には知られていないが、やむを得ず処刑した者に対して、彼は必ず後に墓を用意し手を合わせている。
まぁ俺達が怒られる時に、全員が御方様の存在を心の中で待っているのだが……
それを聡い御方様は良く分かって良い加減で助け船を毎回出してくれている。殿下に対してもだ。引きどころを上手く知っている。
「だからって何でうちの風呂に?」
『ここが一番だから?』
「もうよいわ……」
今回完全勝利だな。俺は弟に目配せした。
「てかさ、わざわざ仕事中に鷹飛ばすか? ありえんだろ? こいつ」
「え? お前、鷹飛ばしたのか?」
「たまには訓練しないとでしょう?」
宣が真面目な顔で答えた。
「で、内容これだぞ。いつもの刻に。これだけ書いて寄越したんだぞ? こいつ」
「ブハッ、流石我弟!」
「阿保だろ? こいつ」
殿下が呆れ顔で宣を睨む。
「ちゃんと集まってるから良いじゃないですか? それに鷹文は短く秘匿が必須でしょう」
支宣は、暗号考えるかな? と、真面目にこの時思った。
「で、緊急会議って何よ?」
俺は弟に聞く。
「あれか?」
殿下が面倒くさそうな顔をしながら、弟に聞いた。
「あんまり目立つ行動しないでくださいよ。お陰でこっちは対応に追われ、そうでなくても忙しいのに……」
「何かした? 俺?」
何その目は? わざと? それとも真面目に言ってます?
「自覚無いようで……」
「……兄上何で止めなかったのですか?」
支宣は兄に目線を移した。
「あ~〜西国の?」
今ですか? 貴方?
他に何が?
先程のは、まさか素ですか?
支宣は、主じゃなかったら湯船に沈めたいと本気で思った瞬間だった。
「ん? で?」
「で。じゃないですよ。あれから入隊希望の兵は増えるわ、側室として入内したいだの毎日」
弟が殿下を少し睨む。
「その話は断われと言うたろ? 軍はまた、としても側室は一切取らんて」
「いや、なら御方様の侍女でも良いと……」
「は? 焼き野原希望者か?」
「殿下、五千で足りますか?」
「ちょっと! これだから脳筋は…」
『何か言うたか?』
「民の侍女希望の移住者をそんな無碍に断われる訳ないじゃないですか」
支宣は目の前の脳筋二人に呆れて言った。
「いや、必要ない空きがないで突っぱねろ」
「無茶苦茶言いますねぇ……」
適当なことを言う主を睨む。
「面倒だから一つづつ潰しに行くか? 惟光? 二、三潰したら、他黙るだろ?」
「……遊びに行くんじゃないんですから、一国の主が止めてくださいよ」
支宣はもはや呆れていた。
呆れた支線は、目の前の脳筋二人、いや、正確にはこの無駄に色気振りまいた艶めかしい肌を見ながら、男だけしか居ない中、色気の無駄使いだろ? と、観察していた。
「いや、待て。そもそもが向こうがおかしいだろ? 要らぬってこっちが言うてるのにだぞ? 何なら舐めてる俺のこと? としか思えぬ行動だろ?」
「いや、ちょっと違うと思いますが……」
なんだか全く違う方向に話が行きそうだったので支宣は取り敢えず否定しておく。
「あ! 良いこと考えたわ! うち皇族、一夫一妻制にしたら無理です! で良いではないか! 法で禁止されているから! って言えば?」
貴方、無茶苦茶言いますねぇ?
あれだけ馬鹿デカイ後宮長年持っていたのに、誰が信じると思いますか?
そもそも、真面目に全く考えてないでしょう?
「流石にそれはちょっと難しいかと?」
惟光も流石に止めた。
「てか、面倒くさい。宣、お前の仕事だろ? なんとかしろよ」
「なんとかしろって、原因作ったの貴方達じゃないですか! こっちも忙しいのです!」
珍しく支宣が怒った。
「それよりだ、それ何処の国だ? 東は断わったろ? 向こうから返事来たろ?」
北は俺の性格知っていたら一回断わったら二回は絶対ない。
「なあ? 宣それまさかとは思うが……」
俺は無いとは思ったが一応聞いてみた。
支宣が無言で頷いた。
「は? 馬鹿なのか? あいつら?」
「嘘だろ? 流石に……」
「殿下何したのですか? あの時? 詳しくは皆言わないし……」
「何した? って? なあ? 別に対したことは? なあ惟光?」
「……」
「兄上? ちゃんと正直に言ってください! じゃないと此方も対策が!」
「……いや大したことは?……処刑した話は知ってるだろ? それは仕方なかろ? そこは軍部の規則だ」
「それは分かっています一応は。本当にそれだけですか?」
「ん……殿下が……闘神を……」
殿下の方を一瞬見たが、無言だったので隠さなくても良い? と判断した。
「え? まさか?」
「お前見たことあるのか? あ、あの時か……」
「なるほどね……で、何でも良いから種が欲しくなった訳ですね」
弟が真顔で言う。
おいおい……宣くんや、身も蓋もないことを。
「お、お前。人を馬のように……」
ワナワナワナ……
相変わらず、ズケズケ言ってくる支宣を睨みながら、何故か悪寒がしたことに不快な顔を浮かべる──




