11.一難去ってまた一難?(2)
──「どういうことで御座いますか?」
しかも殿下のこの御顔? あまり嬉しそうではない?? どういうこと?
「凛花、最初に先ず聞いて欲しい。何度も言っている通り、俺は生涯お前以外を妻にすることはない。他の女を抱くことも決してない話しはしたな?」
「は、はい……それと今回の話しと何か関係があるのですか?」
「我が国も然りだが、皇帝や国王に正妻は一人だが、所謂側室がおる国があるのは知っているな?」
殿下が私に諭すようにゆっくりとした口調で話す。
まさか側室を持つように言われた? って誰から??
「い、いや待て待て、勘違いするなよ? 俺は側室も一生持たないし、後宮も作らないそれは生涯と約束したはずだ」
「はい……で?」
普段の殿下の様子とは明らかに違う。普段の殿下ならこんなに回りくどい話し方はしない。
「怒るなよ?」
殿下が私の目を見て言う。
「怒るような内容ですか?」
私は殿下を真っ直ぐに見る、が、殿下はその視線から逸らすことは一切しない。
「諸外国から俺に縁談話が何件かきている。勿論全て却下で返答させている。それに婚約者がいることも当然伝えているが、相手は正妻でなくとも、側室で構わないと言ってきている」
そう言った殿下は真っ直ぐに私の目を見たあと、優しく微笑みながら続ける。
「周りから何を言われても俺は関係ないし、だからと言ってそのせいで俺達の結婚の儀を変えるのは、俺は本来は反対だ。ただ宣の奴が、お前の気持ちを考えたら、即位と同時に諸外国に発表するべきでは? と言ってきた。で、お前の気持ちを聞きたい」
「……なるほど。でもそれでもご側室に? と申し出てくる御方はおられるのでは?」
私は殿下に少し意地悪そうに聞いた。
「その時は、直接二人で断りに行くか? それともそいつらの国、焼け野原にして来ても良いぞ?」
そんな私の問いに、悪びれもせず真面目な顔でとんでもないことを言う。
「……それは流石に」
「で、どうしたい? お前の気持ち次第だ」
どうしたいって……そんなことを言われても……
「聞き方が悪かったな。単にお前が皇后となる日が予定より早まることに対し、少し気持ちの準備がしたいかな? と思って聞いたまでだ」
「ん?」
「お前の気持ちが大丈夫であるなら、俺は今からでも本当は、全世界にお前以外は一生娶らない、妾は必要ない! と言いたいぐらいなのだけどな? 奥さん?」
そう言って殿下は私の頭を撫でた。
「……ズルいです。そんな風に言われたら……」
そんな熱い目で熱烈に言われて、自信が無いですなんて言える訳ない。グダグダ言ってもどうせ時はくるのだし。
「では結婚の儀を行った後、即位の儀を行う。それで良いな?」
「え?? 先に結婚の儀を?」
「即位の儀の時にお前も参列できるほうが良いだろ?」
殿下は何当たり前のことを聞くんだ? と、言わんばかりの顔をした。
「……御心の思うままに」
もはや、この御方に付いて行くと決めた時から私に選択権などないし、それで私は良いのだ。
「では良いのだな?」
「貴方に付いて行くと決めた時から、全ては御心のままに」
「なら、これも御心のままか?」
そう言って殿下が覆いかぶさってくる。
「ちょ、ちょっと!! 殿下! それとこれとは違いますし!!」
──結局、年明け三ヶ日が過ぎた一月七日に結婚の儀を行い、翌八日に即位の儀を行うことに決定した。
予定通り四月には私の提案で、建国以来初めて「成婚パレード」を行うことに決定した。
殿下へ側室の申し出をしてきた国には殿下と私の連盟で断りの書状が送られ、それでも尚も申し出が来るようであれば、惟光様と為時様、裕進様が兵を連れて「抗議」に行くと言い出した。
「まぁそもそも結婚の儀と言ってもなぁ……実は既に提出済だけどな……」
ぼそっと殿下が言う。
「あ!! でもそしたら、稚児が出来ても問題ないってことか?」
「殿下!!」
私は殿下を少し睨みつけた。
「そう言うけどなぁ、まぁまぁ俺も大変なんだぞ?」
そう言って殿下が私の顔を少し憂いだ目で見る。
「……それは仕方がないことですし」
「たまには、奥方様がこの間のように協力してくれても良いのだぞ?」
殿下がニヤニヤ笑う。
「もう!!」
「医官殿には特別手当を出さねばだな?」
「殿下!!」
「案ずるな。お前に無理強いをする気はないから」
そう言いながら、殿下は私の頬を優しく撫でた。
「無理強いってことは……ないのですが」
「え?」
「殿下が御所望であるなら……」
「そりゃぁなぁ……凛花が嫌でないのであれば……」
殿下の白い頬が赤く染まる。
何? こんな可愛い御顔をする人なの??
「殿下! その御顔はわたくし以外に見せては駄目です!!」
私は無意識のうちに殿下の顔を自分の手で隠していた。
「り、凛花さんや? 誰も今、他にはおらんぞ??」
し、しまった……
「まぁ焦らずとも良いわ。先は長いしな?」
そう言って殿下は私の肩を軽く抱きながら、窓の外を見ている。
「ねぇ……もしよ? もしもよ? 私達の間に子が出来なかったら、その時は御側室を?」
私は少し不安になって聞いた。
前から何処かで自分の中で思っていたことだった。
ただ答えを聞く勇気がなかっただけだ。
「ん? その時はその時だろ? 最悪養子取るとかな?」
殿下は即答した。その答えがあまりにも考えずに思いもよらない言葉だったので私は驚いた。
「何驚いてるんだ? 元よりお前以外を娶らんと決めた時からその覚悟なぞしておるわ。ただ、一つだけ気になるのは、お前がその赤子を自分の子として受け入れて育てれるか? だけが心配なだけだ」
「え?」
「え? って? 一応俺の代で春国終わらすのもなあ? 俺は別に構わぬが、それはそれでなあ、ちょっと無責任かな? とも」
「はあ?? 何言ってるんですか!!」
五百年以上続いているこの国を、そんな理由で終わらせる訳ないでしょうよ!
「いや、それは最悪の事態だって。養子を我が子としてお前が育てることに異がないかだ」
「それってやっぱりご側室を?」
私は殿下に恐る恐る聞く。
「は? 何を言っているのだ? お前以外の女は生涯抱かないって何回俺は言わされるのだ? もしそうなった場合は、赤子をお前が出産したことにしてだな親王として育てるのだぞ? 阿呆か?」
「はあああああああ??」
今、さらっと凄いこと貴方言いませんでした? 無茶苦茶でしょう? って阿呆って……
じゃあ何? 私が妊娠出来なかったら、貴方は自分の実子を持たないってこと?
ありえないでしょう? 流石に……それはいくらなんでも。お気持ちは嬉しいですけど。
「あ、でもこれ俺らだけの秘密でな?」
「ちょ!! 殿下!!」
そんなことが許される訳ないじゃないですか!
「あ? もしかしてお前さぁ。全員が全て直系だと思ってないよなあ? 何年続いてると思っておる? 男系だけで途絶えずに普通にしていて続くわけなかろ? 昔は戦やら、それこそ毒殺やら、病やら、種の少ない帝も居たぐらいだぞ?」
ちょ、今聞いてはいけない話しをペラペラとこの御方してませんか?
「でもその場合は男系の皇家お血筋の方が立たれたのではないのですか?」
「まぁ一応はな……どうしてもの場合は遠いところを辿ってだな」
「殿下の遠いところって?」
「奴だぞ? そんなもの本気で探せばいくらでもおるわ。知ってるだけでも数名はな」
殿下は少し言いにくそうな顔をした。
「え????」
「公表できない奴とかな、まあその辺は色々とな。それにそもそも俺も公式には弟のままだ」
「あ!」
思わず私は目を伏せてしまった。
「今更気にするな」
殿下が気まずそうな顔をした私の額を軽くこつく。
「それで貴方は良いのですか?」
ずっと気になってた、ずっと引っかかっていたことを殿下にたずねた。
「言えば混乱を招くだけだ。それに言えるわけなかろう」
少し殿下が怪訝な表情をした。それは私に対してではなくその起源についてのことだ。
「ごめんなさい……」
私は思い出したくない、いや敢えて私に気を使わせないようにしている殿下に対して、デリカシーに欠ける質問をしてしまったことに、後悔していた。
「まぁ、養子の話しはずっと先にもしもの時は? のことだ。案ずるでない。側室も妾も俺は絶対持たない」
「うん……」
その力強い言葉に私は、自然と涙が出ていた。
「阿呆、今から無いことで、泣く奴があるか」
殿下が呆れた顔をして、私の頬に伝う涙を指で拭う。
「だから、もし子が出来なくともお前への愛は一生変わらぬし、それでお前が悩むことはない。信じて付いて来い」
「はい」




