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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
第八章 践祚編

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9.ネズミの恩返し

 ──約束の期日がやって来た。


 時代遅れの重々しい甲冑に身を包んだ西の兵士達の手には、これまた時代遅れとも言えるゴテゴテの装飾を施した中世騎士か? と思わせるような、何ともな姿の団が数百、両国間の砦に集結していた。



 対して此方は弓隊を先頭に、長槍隊、大鎌隊を中心とした実用的な軍で固めた。その数三千を何と騎馬隊だけで臨んだ。


 何と、そのうち千の馬は北の民からの借り物だった。


 友好国である北の民は移動の際に全ての馬を連れて行く訳ではない。その世話も仕事として我が国が請け負っていた。何かの際には使用しても構わないと、族長である殿下の竹馬の友よりの計らいであった。




「騎馬だけで、こ、この数??」

「嘘だろ??」

「しかもあの弓の数……」

「いや長槍の数も……」


「流石、紫の悪魔の軍……」

「おい! それ!!」

「あ、……」


「にしても、格好良いよなぁ……軽装だし」


「あ、ああ……おれも春国に入れてくれないかなあ?」

「あ、なら俺も行きたい!」

「お前、声でかいって! 聞こえたらどうするんだよ!!」


 西国の若い兵士達は自分達の古びた重装備を互いに見合わせながら、凛々しく馬に乗る軽装の軍に見惚れていた。




 この後、違法に入るネズミではなく、堂々と国境の砦の門兵に隣国の軍隊への「入隊希望願の嘆願書」が続々と届いたのは言う間でもなかった。





「どうしたものかのぅ……西の銀山で三年堪えた有能者のみ試験を受けさせてみるかのうならば」



「殿下!!」


「ありえませぬ!」


「お考え直しを!!」



 惟光や為時他、裕進含め全員が反対した。当然である。


 自軍に一度は弓引こうと考えた国の者。しかも民ではなく西国の軍人である。


 そんな者を自軍に引き入れるなど、到底掌握出来ない案件だ。




「出自は関係ない。まぁ最後は余が直接面談して合格した者のみとする」





 これがこの御方のやり方である。



 どんな者でも、自分に付いてくる覚悟がある者は平等に機会を与える御人だった。



 支宣は、主の背中を見た。



 その背は、また遠く、そして大きくなっていた──




 ◇




「なぁ? あいつら阿呆の集まりなのか?」


 調印と、批准書の交換を終えた軍部が戻ってきた。今回の指揮は左膳が執り、殿下は元より、惟光も裕進も敢えて参加していなかった。


 調印の締結文書は当然「公式な条約」として国内で批准書(ひじゅんしょ)とされ条約内容に拘束(守る)ことに同意し、互いに交換され速やかに発効された。


 今回の銀山の寄贈は、その収益金の寄贈ではない。

 銀山の所在地は当然西国にある。いくら我が国との国境近くとは言え、西国領土内にある銀山ごと、我が国に献上すると言う。


 普通では考えられない内容であった。

 そして驚くことにその期限を明記されていなかったのだ。


 と言うことは、相手が条約を反故にするまでずっと西国内の一部は我領土として延々と自由に使われると言うことになる。しかも警備は西国負担である。周辺道路の補修なども当然西国負担になる。


 此方はタダで銀山が手に入り、その維持にかかる経費は相手持ち。こんなに美味しい話しはない。


 この時、為時と左膳だけが知っていた。


 ()()()()()()()()が自国にもう襲撃して来ないと約束してくれるのであれば、お安い物だと思ったのには納得した。


 彼らは今だに鮮明に目に焼き付いていた。

 一瞬で西国軍隊を瓦礫の山とした後、こともあろうか笑いながら全土を火の海にしたあの時の少年の目を。

 綺麗な目? キラキラした美しい瞳を持つ少年? 

 とんでもない。鬼神? そんな生易しいものでは()()はなかった。


 あどけなさがまだ少し残る面影に紫色の髪を靡かせながら、火の海の真ん中に立ち妖艶に笑っていたのだ。


「どうなのでしょうねぇ? ハッハハッ」

 為時は声が裏返っていた。


「お礼に、紫芋追加で贈ってやるか?」


「殿下……もうその辺で勘弁してやってはいかがですか?」

 左膳が殿下に珍しく助言する。


「おいおい、左膳よ? 俺は西国の民を思っての好意だぞ?? 失敬な」


「宣、紫玉葱あれ全部贈ってやれ! 芋は勿体ないしのう? 奴にはお似合いだろ?」



「殿下……もう虫の息も御座いませんし……そのぐらいで?」


 流石の支宣も止めに入った。


「おかしいのう?  皆、お礼だと申しておるでな? ハハハッ」


 こ、怖いですから。貴方。やっぱり悪魔生誕祭だわ。これ。


 支宣は開催予定が近くなった「殿下誕生日会の案内」を手に持ったまま、提出するのを止めようかと本気で思っていた。


「ん? 何か言ったか? 宣?」


 人間じゃないわ。やっぱりこの人……




 この日、またもや、()()()殿()()の人外説が実しやかに囁かれ始めたことは、また別のお話。



 そしてとても民思いの紫の君より、大量の紫玉葱が、新しく手に入れた銀山周辺に以来毎年ご丁寧に植えられたのであった。


 それ以来、彼は二度と紫玉葱を口にすることはなかった──



「愚かな王よ、欲しいなら本気で正面から来いよ、あそんでやるから」


 窓の外の鳥を見ながら小さな声で呟いた。


 鳥が一斉に飛びたって行き、何故か窓枠が揺れていた。





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