表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冥王と侍【改訂版】  作者: 佐藤 亘
第二章
31/34

31話

 クロイスの手によって転移させられた祈りの灯台は、上層部の城壁から下を覗けるような形に張り出している場所であった。高所故に吹き付ける風が強いそこには、大弓を構えた部隊と真白い鎧を身に纏った神殿騎士、そして薄青色の神官服の神官が祈りを捧げるように跪いていた。

 急にそこに降り立った十兵衛に、一斉に全員の視線が向く。だが、時を同じくして弓兵部隊を率いていたオーウェン騎士団の騎士にソドムから連絡が入り、作戦の要であることを聞いて暖かく迎え入れられた。


「君が八剣十兵衛君か。よく来てくれた」

「え、何? 誰っす?」


 障壁を維持しつつ横目で後ろを見ようとするクロエに、騎士から「カルナヴァーンを討った英雄ですよ」と補足が入る。


「えっ……」

「えーーっ!!」


「ちょっ! 顔見えないっす! 前来て前!」と興奮するクロエに、隊長格の神殿騎士から「ナウルティア高位神官は集中してください!」と窘める声が飛んだ。

 冒険者達がわらわらと十兵衛を取り囲み、その背に背負われた荷物に魔石があることを知って、両の目をきらきらと輝かせる。


「君が!? あ、だから魔物がリンドブルムにきたのか!」

「申し訳ない、俺が無知なばかりにこんなことに」

「なぁに言ってるんすかぁ!」


 十兵衛の暗い声色の謝罪を、クロエの明るい声が吹き飛ばした。


「君の無知を、うちの姫さんが博識でカバーしてこうなってるっす! リンドブルムで迎え撃つのが最良で最高の手っす!」

「そうそう! おかげで閣下の魔法劇場を見れたし!」

「うちの魔法使い達も『魔法の成長チャンス!』って大喜びだったよ」


 あはは、と明るい笑い声を上げる面々に、十兵衛は思わず目を丸くした。やがて肩の力を抜き、「……ありがとう」と微笑む。


「というわけでこれより、ここが本当の最前線だ! 各員、宜しく頼む!」

「『これより』どころか最初からっす!」

「南北に散ってた奴らもやってくるんだ。気を引き締めてかかれよ!」




 ◇◇◇




「十兵衛を呼んだのか」


 祈りの灯台に姿を見せた十兵衛を見下ろし、ハーデスが問いかける。

「進軍方向からしてあちらさんも元から東に集中していたからね。お目当てはこちらですよ、と案内板を立ててやった方がいいだろう?」

「釘付けにさせるわけか」

「そう。……と、同時にお菓子をぶら下げる」


 ぷらぷら、と手首を振ったクロイスが「諦められないだろう?」と目を細めた。


「目と鼻の先に魔石があるんだよ? もしかしたら手が届くかもしれない、と思わせたくてね」

「……非情な……」

「温情だ。ここで死ねば、絶対にハイリオーレは失われない」


 即答だった。その厳しい表情に、ハーデスはクロイスがリンドブルムに来た五千の魔物全てを屠る覚悟でいることを知った。

 一匹も残さない殲滅だ。そしてそれが、魔物に転生した者達へ出来る、最上で、最良の救済だとも。

 クロイスの覚悟と言葉を胸に、ハーデスは「そうだな」と嘆息し、魔物達と面向かった。


「お前を引き入れられて、心から良かったと思っている」

「【死の律】殿のご評価、光栄極まりないね」






「おいウィル! 花に水やるんだったら隅っこでやれ隅っこで! ど真ん中でやるな!」

「つかパムレで花育てんなよ!」

「るっせー! 俺達の必殺技なの!」


 ダニエラが咲かせた花の蕾に【流水(アクアリック)操作(オペレーション)】で一所懸命水やりをしていたウィルは、周りから飛んできた野次に怒鳴り返した。

 水やり、といっても上から水をやるわけではない。水面に浮かぶ【暁光睡蓮(シャインリリー)】の葉脈の隅々に水を操作して与えていたのだ。

 暁光睡蓮の葉にはジーノが光魔法で陽光を与えていたため、ウィル達【ツリーメイト】がいる西のパムレ中央は光で溢れて眩しいほどだった。


「必殺技っつってもよぉ……閣下の転移門閉じちゃったぞ」

「マ!?」


 はっと空を見上げたウィルは、ギルドの魔法使いが言っていた言葉が事実と知り、がっくりと肩を落とした。


「ダニエラ~! 絶対もうちょっと早くやるべきだったって~!」

「うるさい! どれが一番どでかいのかませるか迷ってたの!」

「決めておけよ、ここに来るまでに……」


 ゴンドラに乗りながらむくれるダニエラに、同乗しているウィルとジーノが溜息を吐いた。

 クロイスの転移門で求められていた魔法の属性は、火、水、雷、風の四種類だった。空中戦で土属性と木属性などは相性が悪く、高密度エネルギー体としての攻撃魔法を有する光魔法も、こと遠距離戦においては不向きだったからだ。

 求められた四種の属性以外の魔法使い達は「活躍の場をくれーーー!」と近接部隊に合流するべく飛び去って行ったが、実はその近接部隊もクロイスの正確無比の活躍のおかげで、上から落ちてきた瀕死の魔物に止めを刺すぐらいの仕事しか無かった。

 閑話休題。

 しょんぼりと肩を落とした【ツリーメイト】の面々だったが、急遽発生した魔力の巨大な流れを感じ、瞬時に真上を見上げた。


 ただ、星空が見える。


 だが――在る。確かにここに、何かが在るのだ。


「閣下より入電! 魔法使い全員に次ぐ! 各自最高の魔法を準備、即時詠唱に備えよ!」


 それを確信づけるかのように、オーウェン騎士団の騎士から声が上がった。

 パムレに集った魔法使い達が凶悪な笑みを浮かべ、大きな雄叫びを上げてガッツポーズをする。


「閣下ーー! さすが閣下!」

「大好き! サイン下さい!」

「まだ見せ場があったーーー!」

「いよっしゃあああ!」とその場にいた全魔法使いが奮起し、熱気高まる様子で己の最高魔法の準備に入る。ウィル達も同様で、必殺技と称する暁光睡蓮の成長に努めた。

「だから水やりは隅っこでやれって!」

「イヤッ!」




 ◇◇◇




鋒矢(ほうし)の陣だ……」


 東方の空で魔物達が形成していく陣を見た十兵衛が、ぽつりと呟いた。


「何? 十兵衛君こういうの詳しいっす?」


 障壁を維持しながら問うクロエに、十兵衛は「あ、あぁ」と頷く。


「矢印の形になっているだろう? あれは前面突破力が一番強い陣形だ。側面や後方からの包囲には弱いが、現状リンドブルムに援軍は来ない点を考えると有効な手だと俺は思う。……それに」

「それに?」


 険しい顔つきで、十兵衛は周囲を観察する。


「前方の突破をひたすらに目指す陣形なだけあって、先頭部隊はほぼ死ぬ。つまりこの戦術を為すには兵達の忠誠心の高さが肝要であり、かつそれを見届け命を下す者が、間違いなくここにいるということだ」

「おいおいおい、そりゃ、つまり……」

「魔将軍がいるっていうのかよ……!」


 冒険者達の震えあがるような声に、十兵衛は首肯した。

 カルナヴァーンに次ぐような者が、確実に今この戦況を見ている。

 十兵衛が齎した経験からの推察に、クロエ達は固唾を飲んで前方を見つめた。




 ◇◇◇




「やらしいねぇ~……」


 前方に形成された陣形図を見ながら、クロイスは苦く笑った。

 矢印の形で作られた陣の幅は、クロイスが作れる転移門の最大幅を大きく超えた。転移門の外周に魔法などを当てられると門自体が保てなくなるため、突撃部隊をまるごと転移門に叩き込むというやり方は出来そうになかったのだ。

 顎に手を当て思案するクロイスに、ハーデスは口を開きかけて、やめた。手を出さないと決めたのは自分だからだ。たとえ結末が同じでも、偶発的事象を必然的事象に変えない。それが彼が自分に課した誓いだった。

 しばし無言で見守っていたが、やがてクロイスがぱん、と手を打つ。


「決めた。これでいく」


 こちら側の戦術を定めたクロイスは、【通信機(リンクス)】でソドムとゴモラに連絡を取り、いくらかの作戦を伝えて通信を切った。


「本当にそんなことが可能なのか」

「不可能を可能にするのが、オーウェンというものだよ」


 クロイスの啖呵と共に、魔物の軍団が動き出した。

 己が身を矛と為し、【断絶の大障壁】を打ち砕かんとばかりに猛スピードで突貫する。

 それを目にしたクロイスは、あらかじめ備えておいた魔法を二つ、解放した。


「【可視化の転移門(ヴィジブルゲート)】!」


 東西のパムレの上空に、巨大な転移門が出現する。

 今までの深淵を覗くような転移門とは違い、幾何学模様の大規模な魔法陣が描かれ、中央にはまるで瞳のようなものが見えた。

 その瞳が口を開けるかのように漆黒の輪を広げ、そこに向かって東西に在する高位神官や神殿騎士、そして魔法使い達が一斉に手を上げる。

 奇跡と魔法の強大な一撃が、転移門に向かって放たれた。


「【聖浄なる波動】!!」

「【広域拡大(エクステッドエリア)】・【最大出力(オーバーパワー)】!!」

「【暁光睡蓮(ギガントリリー)大砲撃(キャノン)】!!」


 魔法使い達が各々の最高魔法を発動したど真ん中で、ウィル達も同様に望み通りの一撃を放っていた。

 暁光睡蓮(シャインリリー)。ウェルリアード大陸の南西地方で植生が見られるその花は、日本でいう蓮の花のように美しい桃色の花びらを持つ多年生の水草である。

 普通の睡蓮と少し違うのは、日中に蕾のままで光を溜め、夜の間に甘い香りで虫を引き寄せ、朝日と共に花開くや光の波動を放って蕾に集った虫を殺して食べるという、食虫の習性があるところだった。


 ダニエラがパムレに暁光睡蓮を咲かせ、ウィルが水をやり、ジーノが光を注いで丹念に育てていたのもこのためだ。【成長促進グロウファシリテーション】という植物への成長促進の魔法に加え、ジーノのぎりぎりを見極めた採光調整技術により人が乗れる程に巨大化した暁光睡蓮は、花開いた瞬間、莫大な光の一撃を放ったのだった。


「でっかーーー!」


 中央で光の奔流を放ち続ける暁光睡蓮に、周囲の魔法使い達が目を剥く。賛辞ともとれるその叫びに、【ツリーメイト】の面々は鼻高々に笑った。


「どんなもんじゃーい!」

「中央陣取ったのもこのためよぉ!」

「はぁ~、光魔法はやはり至高……!」


 三者三様の喜び方で西のパムレが沸いている中で、同様に「でっかーーー!」と叫んでいた者がいた。――クロイスである。


「ちょっと! もう! 張り切りすぎの子がいるな!?」


 魔法の奔流が予定していた転移門のサイズを超えかねないと判断したクロイスは、冷や汗をかきながら西のパムレ分の転移門に急遽調整を加えた。「後で名前聞かなきゃな!」と憤慨しながら安定を図り、続いて魔物の軍団に向かって止めていた大量の転移門を開く。


「【拒絶の障壁】!」


 あらかじめ溜め込んでおいた奇跡の解放だった。【拒絶の障壁】は、風魔法の【衝撃波(インパクト)】と同様に衝撃波を放って自分と敵との間に距離を取らせる奇跡である。奇跡の中でも物理攻撃性が高いそれを、クロイスは鋒矢の陣の両サイドから叩き込んだのだ。

 大きく陣が崩れる。だが、魔物の軍団も伊達ではなかった。空中戦故に可能な上下方向に幅を広げ、菱形の形に整えたのである。


「ダイヤモンド編隊だ……!」


 聞き覚えのない言葉に、真東の祈りの灯台で見守っていた十兵衛が「ダイヤモンド編隊?」と復唱するようにオーウェン騎士団の騎士に聞いた。


「ダイヤモンド編隊は、ああいう風に突撃方向に頂点を向ける形で正八面体に整える陣形のことだよ。君の言っていた鋒矢の陣と同様、空中戦での前方突破力に特化してるんだ」

「空中戦でも陣形があるのか!」

「あるとも。普通は頂点のみに配した少数単位で作られるけど、大障壁を打ち破りたいなら数でぶつかるのが一番手っ取り早いからね」


 十兵衛は驚きに目を見開き、前方を注視する。

 後方で東西のパムレから打ち上がっていた光の奔流はクロイスの作った巨大な転移門に収納されたが、それを出す転移門はまだ形成されていない。

 こんな風に陣形を変えられたらどう対処するんだ、とこめかみに汗を滲ませたその時だ。


「【解放(リベレーション)】!!」


 クロイスの手によって、魔物の軍団の左右下辺にパムレの上空にあったものと同じ転移門が出現した。

 奇跡と魔法の光の奔流が、まるでバツ印を描くがごとく交差する。


 ――だが、オーウェンの魔法劇場はこれでは終わらない。


「【二重魔法(ダブルマジック)大規模二重転移門ヒュージゲート・デュオ】!!」


 さらに追加で巨大な転移門が出現し、光の奔流を再度収納、かつ解放を繰り返す。



 ――それは、大規模転移門(ヒュージゲート)の多面同時展開による、魔物の軍勢の完全包囲殲滅魔法だった。




 ――神官と魔法使いの都市、リンドブルム。


 スイ・オーウェンがそう称した通り、奇跡と魔法が総結集した力は、確かに魔物の全てを殲滅しつくす。


「……っあ~……疲れた!」


 クロイス・オーウェンという、王国最強の魔法使いの導きによって。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ