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冥王と侍【改訂版】  作者: 佐藤 亘
第二章
30/34

30話

「ナウルティア高位神官! 周囲と合わせたまえ!」


【断絶の大障壁】を観察していた神殿騎士からの指示に、クロエは「無茶言わないで欲しいっす!」と声を上げた。


「分かってるんすか!? うちらのいる所は最前線も最前線! 真東(まひがし)の祈りの灯台っすよ!?」

 自分一人で張る【断絶の障壁】と違い、【断絶の大障壁】はカガイの【理論改変(リミテッドオーバー)】に便乗する形で張るため、神殿騎士の同調性を求める心はクロエも重々理解していた。だが、眼前に来るは千を優に超える魔物の軍勢なのだ。

 いくら魔物を通さない障壁とはいえ、数で押されれば危うい。そのため、カガイとスイに負担をかけてでも東側の障壁を厚くしておきたい、というのがクロエの考えだった。


「ガーゴイルの接近を確認! 来ます!」


 後ろに控えていた遠隔部隊の冒険者から、遠眼鏡の確認報告が上がる。瞬時に神殿騎士達がクロエを囲み、大盾を構えた。


「雷魔法を詠唱中!」

「撃たせるな! 弓兵隊、放てーーっ!」


 普段使いのロングボウではなく、支給された大弓を構えた冒険者並びにオーウェン騎士団が、膝をついて弦を引き大矢を発射した。

 鋭い風切り音を上げて、数十本の大矢が夜空を突き抜ける。五十単位で迫って来ていたガーゴイルにいくらか当たるも、全ては落としきれない。強弓の一撃に身を貫かれて吹っ飛び落下していく仲間に一瞥もくれず、魔物達の唱えていた雷魔法が発動した。――【轟雷の矢(ライトニング・アロー)】だ。

 しかし、ガーゴイル達の初撃はそれでは終わらない。


「げぇっ! あ、あいつら~!」


 一人の神殿騎士が眼前の光景に悲鳴を上げた。

 視線の先で放たれた【轟雷の矢(ライトニング・アロー)】を、一匹のガーゴイルが【雷電操作エレクトリックオペレーション】を施し束ねたのだ。

 一つ一つの魔法の威力は低くとも、そうした操作系の魔法に長けた者がいると話が変わる。極大の【轟雷の大矢ギガントライトニング・アロー】に変じた雷魔法を見て、「喰らいたくねぇ~!」と神殿騎士が嘆いた。いくら魔法返し付の大盾持ちとはいえ、無傷とはいかないからだ。

 だが次の瞬間、クロエ達の前に大きな【転移門(ゲート)】が出現した。


「――閣下!」


 それは、【賢者の兵棋】で戦場の全てを把握していたクロイスからの支援だった。

 転移門に吸い込まれるようにして消えた【轟雷の大矢ギガントライトニング・アロー】が、瞬時にガーゴイル達の真下に発生した転移門から返される。


「ギッ……!」


 全力の一撃で祈りの灯台ごと障壁を破らんとしていたガーゴイル達は、放った己の技によって消滅した。同時に、後方から迫って来ていた魔物達も矢嵐のように降り注ぐ大矢に貫かれ、みるみる内に地上へと落下していく。

 いつの間に転移門で拾ったのか、先ほど遠隔部隊が当てそびれた大矢をクロイスが再利用したのだ。


「……すっげ……」

「当代オーウェンの、魔法劇場だ……」


 冒険者や神殿騎士達が愕然と周囲を振り仰ぐ。

 リンドブルム上空には幾百もの【転移門(ゲート)】が発生し、その全ての制御をクロイス・オーウェンただ一人が行っていたのだった。




 ◇◇◇




「ソドム! 西のパムレの魔法はどうなってる!」

『はっ! 各属性ごと、十全な量を送っております!』

「了解! 一旦そちらの転移門は閉じる。魔法使い達に各々の最高魔法を準備するよう伝えてくれ!」

『はっ!』

「ゴモラ! 東はどうだ!」

『はっ! 【聖なる波動】は全て抜かりなく! 【拒絶の波動】もご指示通りに!』

「了解! そちらの転移門も同様に閉じる。でかいのに備えろ!」

『畏まりまして!』


通信機(リンクス)】を使いながら鋭く指示を飛ばし続けるクロイスに、ハーデスは内心舌を巻いた。

 クロイスがこなしてる事は、律の管理者であるハーデスにも出来る。だが、律の管理者が出来るのと人の身で出来るのは訳が違うのだ。

 この星の転移魔法において、転移門はリンクの繋がっている転移門との間に亜空間を発生させる。星の観測の元で生じるそこに、クロイスは魔法や奇跡、矢を溜め込み、都度解放していた。それを数百の規模で同時展開、制御しているのである。


 鶏頭蛇尾怪鳥(コカトリス)女面鳥身(ハーピー)には火属性の魔法を。身体に鉱石や土の混じるガーゴイル達には雷属性や水属性の魔法を浴びせ、それらの魔法の効きが悪い相手には【聖なる波動】の奇跡をぶつけていた。つまり、西のパムレに集った魔法使い達の魔法、及び東のパムレに集った神官達の奇跡を、同時かつ瞬時に使い分けていたのである。


「お前の脳はどうなっているんだ」と戸惑いつつ賞賛するハーデスに、「マルチタスクは得意なんだ」とクロイスが事も無げに笑った。


「ま、普通はこの規模での転移魔法の大盤振る舞いは無理だ。魔力量と相談しないといけないからね。魔道具のおかげだよ」

「……そうか」


 言葉少なに頷き、ハーデスも転移魔法を展開する。死した魔物から魔石の回収は、ぬかりなく進んでいた。すでに千を超える量を手にし、次元門の中へと収納していたハーデスは、そこでふとあることに気が付いた。


 魔物からの魔法が、止んだのである。


「……来たか」


 クロイスが低い声で呟く。


「なんのことだ」

「自分達の渾身の魔法や飛び道具が返ってくると知ったら、どうでると思う?」



「――突撃だよ」



 クロイスとハーデスの視線の先で、魔物達が集まり始める。亜空間に残っていた魔法と奇跡を解放して叩き落したクロイスだったが、それでもまだ半数以上の魔物が上空に残っていた。




 ◇◇◇




「魔法が、止んだ……」


 それまで騎士団の詰め所で投影映像から戦況を見ていた十兵衛は、リンドブルムに突如として訪れた静寂にごくりと喉を鳴らした。

 自分が経験してきた戦場とは比べ物にならない程の大規模かつ未知の戦い方だったが、それでも戦場の空気が変わることぐらいは十分に察せる。

 真剣な表情で【通信機(リンクス)】で連絡を取っているソドムを見つめ、彼の視線を感じるや自身の役割を知った。

通信機(リンクス)】を切ったソドムが、「十兵衛君、外へ!」と声を上げる。


「閣下が、真東の祈りの灯台側に君を送る。存分に引き付けてくれ!」

「承知した!」

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