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ランジェリー・ラプソディ

作者: 星賀勇一郎
掲載日:2025/10/12





洗濯機の中でグルグル回るツーピースの下着を見つめながら、私は別れを決意した。


ショーツとブラ。

ツーピースにこだわっていつも買うけど、先にショーツがダメになる。

そして、ブラだけが残されるけど、結局捨ててしまう。


亜矢子と昨日、ボンベイサファイアのジンバックを飲みながら話をした。


「ショーツとブラってさ、気持ちとセックスみたいなもんじゃないかな……。気持ちが先にダメになってもセックスに未練があって、ズルズル付き合ったりするじゃん。でも結局、捨ててしまうのよね……」


冷めた表情でジンバックを飲みながら亜矢子は言った。


目の前に置かれた青いボンベイサファイアのボトルを見ながら、私はその通りだって思った。

男に対する気持ちって汚れちゃったり、穴が開いてしまったり、伸びきってしまったりする。

そして残ったセックスに対する未練だけを残して付き合い続ける。

けど、結局は捨ててしまう……。

亜矢子は上手い事言うって感心した。


そう、くたびれるのはいつも気持ちが先で、セックスに先に飽きる事は稀だったりする。


亜矢子は二杯目のジンバックを頼んだ。

私と亜矢子のジンバックは決まってボンベイサファイアで作られる。

何故って……。

ボトルが綺麗な海の色だから。

それだけの理由。


「いつまでも穴の開いたパンツ穿いてるんじゃないわよ……。さっさと別れちゃいなさいよ……」


亜矢子はグラスの氷をカラカラと鳴らしながら歯を見せて笑った。


「もちろんブラも一緒に捨てるのよ。新しい下着は女の決意みたいなモンよ」


亜矢子の歯に衣着せぬ言葉はいつも私を動かす。

私の歴史の半分はこの亜矢子によって作られていると言っても過言ではない。

高校に入った時から一緒だから。


洗濯機の中で回る下着を見つめながら、私はタバコに火をつけた。

そしてリビングを見ると、殆ど裸で寝ている亜矢子の姿が見えた。

結局終電を逃し、亜矢子は私の部屋に泊まった。

私の部屋にもあるボンベイサファイアは空になり、テーブルの横にジンジャーエールのボトルと一緒に転がっていた。


部屋はスルメと酒とタバコの臭いで、女の部屋の臭いじゃなかった。


決心が揺るがない内に駿也と別れよう。


私はタバコを消して、テーブルに置いた携帯電話を手に取った。


穴の開いたパンツは捨てて、お揃いのブラともさよならする。

ここでブラだけ残すってのはやっぱり良くない。

駿也とのセックスの相性は悪くない……。

むしろ、良い方なのかもしれない。

わかっている。

セックスの相性の良い相手に巡り合う確率はすごく低い。

それでも気持ちに穴が開けば、それも諦めるしかないのだ。

亜矢子が言う様に……。


おっと、そんな事を考えていると決心が揺るぐ。

さっさと駿也に別れを告げよう。


私は携帯電話の画面にタッチする。

ふと視線を感じた。

ソファで毛布に包まった亜矢子がじっと私の方を見ていた。


「何……。未練タラタラ……」


亜矢子はクスクス笑いながら言った。


「そ、そんな事ある訳ないじゃない……」


私は携帯電話で駿也に電話を掛け、耳に当てた。

コールを何度か繰り返すが、留守電に切り替わる。


「る、留守電なのよ……」


私は良い訳するように亜矢子に言うと携帯電話をテーブルの上に置いた。


「神も奈津美を見放したか……」


亜矢子は大袈裟に掌を額に当てた。


「ば、馬鹿ね、留守電だっただけよ」


私は傍にあったクッションを亜矢子に投げつけた。


亜矢子はシシシと笑い、ソファに起き上がった。

亜矢子の形の良い胸が毛布からこぼれる。

ブラをしていると眠れないと言って亜矢子は裸同然で寝てしまった。


床に放り出したブラを取り身に着けると、ジーンズとTシャツをさっさと着た。


「奈津美……。お腹空かない……」


亜矢子は立ち上がると背伸びした。


棚に置いたLEDのデジタル時計はもう午後二時を過ぎていた。


「もう、二時だもんね……。何か作るか……外、行くか……」


私がそう言い終える前に、


「うどん食いたい……」


と亜矢子は言う。


亜矢子の言ううどんは私が作る簡単なうどん。

そして彼女を泊めるといつもそのうどんを要求される。


レシピは簡単で、買い置きしてある冷凍うどんを湯掻き、お湯を切るとその中に海苔の佃煮と天かすを入れて混ぜる。

たったそれだけ。

亜矢子はそれに柚子胡椒を入れて食べる。


「冷凍うどん……あったかな……」


私は立ち上がり冷凍庫を開けた。


「本当にこれで良いの」


亜矢子はテーブルの上のタバコを咥えて頷いた。


私は二人分の海苔の佃煮うどんを作り、テーブルの上に置いた。

私がうどんを作っている間にテーブルはちゃんと片付けられていた。

その辺りの連携は流石に十五年の付き合いだ。


「奈津美のこのうどん、大好きなんだよね」


そう言いながら亜矢子はうどんをすする。

外で食べる時は音を立てない様に上品に食べるけど、女二人だと落語さながらに音を立てて食べる。

亜矢子いわく、「やっぱり麺は音を立てて食べないと美味しくない」らしい。


亜矢子も私も数分で食べ終え、冷たいお茶を飲みながら、食後のタバコを吹かす。


「スルメとボンベイで朝まで過ごして、昼過ぎに起きて、うどん食ってる穴の開いたパンツ穿いてる女ってどうなんだろうね……」


亜矢子は煙を吐くとシシシと笑う。


「リアルパンツは穴、開いてないし……」


私はお茶を飲んで亜矢子を睨んだ。

そして二人で声を出して笑った。


「けどさ考えてみると、新しい下着って馴染むまで結構、時間かかるよね……パンツもブラも……」


言われてみれば確かにそうかもしれない。

何かぎこちなくて、キツイ様な緩い様な……。

馴染んできたなって思う頃にはくたびれ始めている。

これも恋愛に似ているのかもしれない。


「男も一緒なのかな……」


亜矢子が言った言葉で私は考えた。

男はもちろんブラは着けない。

男はパンツだけ。

って事は気持ちとセックスって一緒なのだろうか……。


そう考えていた顔を亜矢子は見ていたようで、ニヤリと笑った。


「今、何考えてた……」


亜矢子は私の考えている事がわかってしまうようだ。


「べ、別に……」


私はタバコを消してお茶を飲んだ。

亜矢子もタバコを消して、ソファに深く座り直す。


「多分さ、男は女より繊細なんだよ……。そうじゃない奴もいるかもしれないけどさ、気持ちが無くなるとセックスなんて出来ない。そんな動物的には劣勢な生き物なんじゃないかな……」


やけに説得力のある亜矢子の言葉に私は俯いて頷く。


そう言われてみれば、もう何か月も駿也とのセックスは無い。

駿也も既に私への気持ちは無くなってしまっているのだろうか……。


「まあ、言い換えると気持ちとセックスが一緒なら、新しいパンツに替えるのも簡単なのかもしれないね」


亜矢子は立ち上がって頭を掻いた。


「さあ、お腹もいっぱいになったし……。私は帰ろうかな……」


私は亜矢子を見上げて笑った。






亜矢子が帰った後、私は一人ベッドでゴロゴロしていた。

正直、時間が経つにつれ、駿也と別れる事を迷い始める。


「新しい下着が馴染んだ頃には捨てなきゃいけなくなるけどさ、それも女の宿命なのよ……」


亜矢子が帰り際に私の肩を叩いてそう言った。

あの哲学女は本当に私の歴史を動かす。

それを楽しんでいるんじゃないかと思う事もあるくらい。


何度か駿也に電話をしてみたけど、一向に出る気配も折り返し掛かってくる気配もない。


駿也も空気を察しているのだろうか……。


私は携帯電話をベッドの上に投げ出した。


あーあ……。

めんどくさいな……。


これは私の正直な気持ち。

そう、何を置いてもめんどくさい。

それが一番だったりする。

下着で言うとタグを取り、穿いても無いのに一度洗濯する。

確かにめんどくさい。

あ、そうだ……。

洗濯してたんだ……。


私は起き上がり、洗濯機に向かう。

ドアを開けて中の洗濯物を籠に入れる。

一人で住んでる事もあり、干すのは浴室。

最近は浴室乾燥機なる、文明の利器がある。

以前住んでいたマンションで、下着を盗まれた事が何度もあった。

ある日、警察官が中年の男を連れてやって来た。


「この下着はあなたのですか」


って目の前で広げられたけど、男ばかりいる前で「はい、そうです」なんて言えないし、何よりその犯人らしき中年の男にジロジロ見られるのが嫌で嫌で……。


「知りません」


って言ってドアを閉めた。

そしてその瞬間に引っ越しを決意した。


下着泥棒って分かりやすい犯罪者だけど、盗んだ下着で何するのよ……。

って別に解らない訳じゃないけどさ、そんな事に使われた下着、返されても困るし……。


でも誰かが言ってた。

下着泥棒は下着の方がその持ち主よりの価値が上で、下着の持ち主には興味を示さない事の方が多いって。

そんな事ってあるの……。


浴室の物干し竿に洗濯物を干し、浴室乾燥機のスイッチを入れた。

少し涼しい風が天井から流れ出す。

この風は徐々に熱を持ち、洗濯物を乾燥させてくれる。

風で揺れる洗濯物を確認するように見て、浴室のドアを閉めた。

浴室乾燥で一つ難を言うならば、乾燥中にお風呂に入れない事くらいかな。


一仕事終えた感たっぷりで冷蔵庫から紙パックの野菜ジュースを出してグラスに注ぐ。

そのグラスを持ってベッドに座り、ゴクゴクと野菜ジュースを飲む。

ベッドに投げ出した携帯電話を見た。

駿也からの着信があった。


「駿也……」


私はすぐに駿也に電話を掛けようとして手を止めた。


これじゃ駿也を待っているみたいじゃん。


私は再び携帯電話を投げ出して、ベッドに横になった。

髪がサラサラと頬を撫でる。

今はそれが不快で髪を掻き上げた。


テレビをつけるでもなく、携帯電話を触るでもなく、土曜日の午後。

駿也もいないし、亜矢子も帰ったし、この静かな部屋で私は何をするのが正解なんだろう。

そんな風に考えている自分がおかしくなり、クスクスと笑った。

駿也と別れるとこんな日も増えるんだろうな……。


私はふと、思い立ちクローゼットの中にあるチェストの引き出しを開けて、今持っているありったけの下着をベッドの上に出す。


そしてそれを全部広げて並べて行く。

上下お揃いのツーピースの下着が十セット。

ショーツが十枚。

そして昨日から亜矢子と話していた、気持ちがダメになってセックスだけに未練があるブラだけが三つ。


コンビニの袋を持って来て、とりあえずその三つのブラだけ残っているモノを捨てた。

ショーツだけってのは私も女だから、もちろん生理もある。

そんな時に穿くから残留。

さて問題はツーピースの下着たち。

何をどう見て捨て時とするのか……。

汚れの問題はもちろんある。

亜矢子がいう穴の開いたモノは今のところない。

ちなみに亜矢子は穴が開いてても、その穴の大きさによってはスタメン入りもするらしい。

最大五百円玉くらいになると捨てるって言ってた。

亜矢子は彼氏いない歴……。

あれ、ずっといないのかな……。

誰にも見せない下着ってのも可愛そうな気はする。

でも下着ってそんなモンだからね……。

一つ一つ手に取って確認。


あ、これは駿也が可愛いって言ってくれたヤツだ。

これは残留かな……。

いや、だからこそ戦力外通告するべきではないのか……。

肌触りも良いし、何より締まった気持ちになれる。

それだけで残留の価値ありだよね……。


私はその下着を綺麗にたたんでチェストの引き出しに戻した。

そしてベッドに飛び乗る様に戻ると、次の下着を手に取った。


この真っ赤なのは……。

いつ着るの……。

確か最後に着たのは、佳奈子の結婚式の時かな。

ドレス着る時なんかには良いんだけど、そんな予定もないし……。

駿也って赤い下着とか好きかな……。

これは見せた事ないな。

あれ……、駿也を基準で考えちゃダメなんじゃないか……。


そんな感じで、すべての下着を私はチェストの引き出しに戻していた。

捨てれないんじゃん……私。


電話が鳴った。

駿也かと思い私はゆっくりと携帯電話を見た。

亜矢子だった。


なんだ亜矢子か……。


「はい」


「そろそろ、下着並べて断舎利してる頃かと思って」


亜矢子はシシシって笑ってた。

何でわかるのよ……。

この部屋盗撮とかされてる訳……。


「な、何言ってんのよ……」


私はチェストの引き出しを押し込んだ。


「冗談よ。で、残ったブラ君は連絡取れたの」


「ま、まだだけど……」


私の声は自然に小さくなった。


亜矢子はまたシシシと笑う。


「そうだろうと思ったよ」


何よ……。

別れるのは亜矢子じゃないんだから、私なんだからね……。


私はベッドに座って残った野菜ジュースを飲み干した。


「別れるのは私なんだからとか思ってる奈津美に提案があります」


何なのよ……。

亜矢子ってエスパーか何か……。


「何……」


亜矢子は電話越しに優しい息を吐いた。


「ボンベイ飲みに行こうか……」


その声が本当に優しく聞こえた。

そして嫌だと言えないトーンだった。


「良いけど……」


また私の声は小さかったに違いない。


駿也の事で頭がパニックになっていた私は、多分今夜、一人でも飲みに出ていた気がする。

亜矢子は本当に私を助けてくれる。


「じゃあそっちまで行くわ」


いつもの明るい声の亜矢子。

私は「うん」と返事をして電話を切った。

 





出掛ける前にお風呂に……と思ったら乾燥中で浴室が使えない事に気付く。


仕方なく、ベッドに倒れ込む。

すると耳の横で携帯電話が振動していた。

そっと携帯電話の画面を見るとそこには「駿也」の文字が浮かんでいた。


駿也か……。

ここで別れ話をすると今日のボンベイはしょっぱくなるな……。


私はその電話に出るかどうかを躊躇した。


ボンベイサファイアを私に教えたのは亜矢子。

駿也と飲みに行ってボンベイを頼んだ時、


「お前、渋い酒好きだねぇ……」


って駿也は私に言った。

駿也はずっとビール。

私はビール、ダメ。

すぐにお腹がパンパンになっちゃって……。


ボンベイサファイアの青いボトルが好きで、ドライな味が好きで、香草がほのかに香るのが好きで……。

こんなにボンベイサファイアの好きなところは明確に挙げる事が出来るのに、駿也の好きなところなんて一つも挙げる事が出来ない。


「女なんだから、もっと女らしい酒飲めよ」


ってビールばっかりがぶ飲みする駿也は言う。


好きなんだからほっといてよって思う。

そんな小さな解れからどんどん穴は大きくなっていく。


何かだんだん腹が立ってきた。


私は携帯電話を手に取り、駿也に電話した。

何度かコールして駿也が電話に出た。


「奈津美、電話くれてた」


ええ、電話しましたとも……、あなたと別れ話をしようと思ってね。


「うん」


「どうしたんだよ……。あ、それよりさ、今、恭介たちと飲んでるんだよ。来ない」


私は頭をポリポリと指先で掻いた。


行かないわよ……。

行ったら別れられなくなる。


黙り込む私に違和感を覚えた駿也は、どうやら静かな場所に移動したみたいだった。


「どうした……。なんか感じ違うな……」


駿也の通る声が聞こえる。

自然と目尻に涙が浮かんで来た。


「あのさ……」


私はそれだけ言って鼻をすする。


「な、何だよ……」


駿也も私の涙に気が付いたのか、神妙なトーンの声になった。


「駿也がさ、パンツ捨てる時っていつ……」


駿也は少し間を置いて声を発した。


「パンツ捨てる時……。俺は一年くらい穿いたら無条件に捨てる事にしてるな……」


「まだ穿けても……」


「ああ、まだ穿けても……」


私は目尻の涙を指で拭った。


「どうして……。もったいないじゃん」


「もったいないけど、飽きるしさ、それに……」


「それに……」


「なんて言うかな……新しいパンツのちょっとぎこちない感覚もすきなんだよね」


これは駿也の女に対しての捨て時の話ではない。

あくまでパンツの捨て時の話だ。

でも私にはそう聞こえる。

そろそろ私は飽きられて捨てられる。

そんな風にしか聞こえなかった。


私は涙を流す事が馬鹿らしくなって、大きく息を吐いた。


「それがどうしたんだよ……」


「ねえ、駿也……」


私は何故か胸を張った。


「なに……。パンツでも買ってくれるのか」


この男は今から私に別れ話をされる。


「女はさ、ブラするじゃん」


「そうだな」


「ショーツとブラをお揃いで買ってもさ、ショーツの方が先にくたびれて、汚れて、ボロボロになっちゃうんだよね。そしてまだ使えるブラだけが残るの……」


これはあくまで下着の話だ。

駿也にどこまで理解できるのかわからないけど……。


「ああ、そうだろうな……。何だ、下着欲しいのか」


とことん馬鹿で、脳天気な男かもしれない。


「聞いて……」


私は駿也に冷静に言う。


「あ、うん……」


私はベッドの上で膝を抱えて座り直した。


「女はさ、気持ちが先に擦り切れて、穴が開いて、ボロボロになって……。でも残った何か……」


「何か……」


「その何かに相手の良い所を探したりして修復しようって思うのよね……残されたブラのために……」


多分、駿也は理解出来てない筈。


「何言ってるんだよ……。わかんないよ……」


駿也は少しイラついている様だった。


「そんな話、良いからさ。どうするの、来るの来ないの」


私は今一度、大きく息を吸い込んだ。

そして……。


「駿也と私を繋いでるのはセックスだけ、そんなの嫌だから別れましょう」


私は息も吐かずに吐き出す様に言った。


駿也は電話の向こうで黙っていた。


別れを告げた。

その返事なんて聞くつもりは更々無い。

そこで電話を切る……それが、この場合の正解なのはわかっている。

わかっているんだけど……。


「あー……。あーそう……。そうか……」


駿也は自分なりにグチャグチャになった頭の中を整理しているみたいだった。


今日はしょっぱいビール浴びる程飲みなさい……。


格好を気にする駿也はここで泣いてすがるような事はしない筈。


私は黙って携帯電話を耳に当てていた。


飽きるからパンツを定期的に捨てる男に、私は今日一日を費やして悩んでいた事が馬鹿らしくなった。


「それって待ったなしなの……」


駿也はそう言った。


「待ったなし……もう決めたの」


私は口角を上げてみた。

やけに頬の筋肉が重く感じたから。


「うーん……。困ったな……」


困られてもね……。

もう決めちゃったし……。


「来週まで待ってくれるとか無い……」


私、借金取りじゃないしさ……。


「もう決めたの……」


「そうか……」


少し間を置いて駿也は静かに言った。


「あ、そうだ、奈津美……」


何かまた言ってくるのだろう。

私は携帯電話を当てている耳を替えた。


「何……」


「俺たちセックスの相性は良いじゃんか。これからはセフレとして付き合うってのは……」


私は電話を切った。


男ってこれだから……。


私は駿也の電話とSNSをブロックした。






インターホンが鳴った。

ボタンを押して確認すると亜矢子が立っていた。

私はオートロックを開けて、玄関の鍵も開けた。

すぐに亜矢子は入って来た。

そして部屋に入ってくると私の姿をじっと見た。


「帰った時のままじゃん……」


私はショーツとTシャツ姿で今日一日を過ごしたみたい。


亜矢子が私に近付く。

そして少し泣いた目に気付いたようだった。


「ブラ、捨てたのね」


私は無言で頷いた。


亜矢子は私の額に自分の額を着けた。


「よくやった……。それでこそ我、親友」


そう言って二人で笑った。


そして、亜矢子は服を脱ぎ始めた。

そして全裸になった。


「奈津美も脱いで……」


ちょ、ちょっと……。

男と別れたからって、女に走る気はないわよ……。

そうか、亜矢子に男がいないのはそれでなのね……。


私はストンとベッドに座った。

全裸の亜矢子は下着を着けずに服を着始めた。


何やってるの……。


「今日は男を忘れてトコトン飲むのよ……。だから下着着けずに行くわよ」


え……。

亜矢子……何言ってるの……。


結局、私は亜矢子に無理矢理脱がされ、下着を着けずに服を着た。


「これって何かのプレイ……」


亜矢子はニヤリと笑った。

もしかすると本当に亜矢子は女が好きなのかもしれない。


亜矢子は自分の下着をソファの上に置いた。

そしてその横に私のショーツを並べて置く。


「男への気持ちもセックスも、今日は無し。全部忘れて飲むわよ」


無理に明るく振舞う亜矢子を見て、私は笑ってしまった。


少しスリリングだけど、いいか……。


私はスカートの裾を引っ張りながら部屋の明かりを消した。


「さぁ、しょっぱいボンベイが待ってるわよ」


亜矢子の声が玄関から聞こえた。








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