表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にくゑ-本編-  作者: 匿名希望
第四章 恋 
18/34

間章 健太

 翌日の昼休み。健太は本を閉じてぼんやりと窓の外を見ていた。子どもたちが机を寄せ合ってわいわい話している声が耳に入る。


 あゆみが梓の隣で何か楽しそうに話しているのが目に留まり、ついつい目で追ってしまう。屈託のない笑顔で梓の手を取り、何かを教えているあゆみ。


 自分にはない積極性と明るさが眩しい。あゆみの弾むような笑い声に、健太の胸が少しきゅっとした。美穂も輪に加わって座ったようだった。


 「昨日の畑作業、お疲れさまじゃった」


 美穂が優しく声をかける。

 梓は少し躊躇してから口を開いた。


 「あの……昨日の畑で、土の中に変なものを見たの。目のような……それに、帰り道で変な子供も……」


 健太は顔を上げた。目? そういえば梓は昨日、土を見つめて青ざめていた。


 あゆみが首を振って笑う。


「ええ? 目? そんなん、ただの根っこじゃけぇ。それに村の子供は都会の人から見たから変かも知れんけどなぁ」

「そうそう、気のせいじゃ」


 美穂も口を揃える。


「畑なんて、いろんなものが埋まっとるとよ」


 健太は眉をひそめた。みんな、梓の話をまともに聞いていない。


 「それに掟をちゃんと守っとれば、何も怖いことはないけぇ」


 美穂は安心させるような笑顔を浮かべながら言った。


 ――掟。また掟だ。健太の胸に苛立ちがこみ上げる。梓が不安がっているのに、掟さえ守れば大丈夫だなんて。そして、あゆみの前で情けない自分を見せるわけにはいかない。あゆみの明るさに釣り合うような、強いところを見せたかった。


 梓は不安そうな表情を浮かべたまま、「でも、本当に見えたの……」と食い下がろうとした。


 その時、健太は椅子から勢いよく立ち上がった。もう我慢できなかった。


 「そんなん守らんでも、何も起こりゃせん」


 吐き捨てるような声だった。ざわめきが止まる。教室の空気が張り詰める。


 健太は挑むように、笑顔を一度だけ作って見せた。


 「ほら、一回で十分じゃろ」


 子どもたちの笑顔が固まり、不安げな視線が交錯する。梓はその異様さを初めて体で感じ、背中に冷たい汗が流れた。


 清音がゆっくり立ち上がる。健太を見つめる瞳は、氷のように冷たい。


 「健太、今ならまだ間に合うわ。ちゃんとやり直しなさい」


 声は静かだが、底に冷たさを含んでいる。健太は顔を赤くして突っぱねた。


 「大げさなんじゃ。何も起きんじゃろ」


 清音はほんの一瞬、悲しそうに目を伏せる。


 「……きっと報いがあるわ。でも、今はまだ大丈夫」


 健太は美穂が何かを言いたげにこちらを見ているのに気づいたが、あゆみが「どうしよう」と小声で呟くのが聞こえると、つい強がってしまった。


 「なんともありゃせんよ。ただの決まりごとじゃろ」


 健太は強がって見せたが、清音の冷たい視線が背中に突き刺さるのを感じていた。教室に重い空気が漂い、皆の視線が健太に集まっているのが分かる。あゆみの心配そうな顔を見ると、胸の奥で何かが痛んだ。でも、もう引き返すことはできなかった。


 「ほぅ……」


 教室の隅で、清音が物憂げにため息をついたのを見て、健太の胸には言い知れない不安がわき上がってくるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ