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小さな吟遊詩人は過保護な剣士と旅をする  作者: 七音(ななお)
冥府と火の国

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sideroad✦全部外したぞ △

カタカタと震えて立つ令嬢がか細い声で訴える。


あぁ、まさか彼女に見られてしまうとは…不義理を働いたとあれば彼はもう…。

ショックと悲しみで震えているのに何処か歓喜を感じる。彼女はわかっているのだ、今自分が(かれ)を手に入れたことを。

知らず顔を伏せるとこの期に及んでも令嬢には一瞥もくれない(かれ)がどうした、と頬を撫でてくる。

さわさわと花が揺れた。


「お答えくださいませ!約束の花を交わしたわたくしともあろうものがおりますのに、そちらは何れのご令嬢でありますのか!……あんまりでございます…、父にも既にわたくしと達の話は通してありますわ。この上は……わたくしと…」

「カーティス侯爵令嬢、此処にいたか…、と これは」

「…ぁ、ベリル様……、わたくし…どうしたらよいのか。先刻薔薇(おもい)を受け取っていただけた幸福にはしたなくも心躍らせ、ベリル様にもお認め頂けたのだと喜びをかみしめて外に出てまいりましたら…、こんな…」


不安そうに揺れるキースを見てやっと背後の気配にステラがゆっくりとふりかえった。


「これはベリル様、こんなところまでいかが致しました。貴方が二人でゆっくりしろと仰ったのではありませんか」

「……ぇ…」


少女が驚いた顔で縋ろうとした神を見上げて固まる。今自分は大公との仲を父である神に認められる為に呼び出されたのではなかったのか。


「あぁ、すまないな。色々な誤解があったと聞いてその絡んでしまった想いを溶かしにまいった…、マティリア・リル・カーティス侯爵令嬢」

「……御前に」


す、と戸惑いながらも優雅なカーテシーでもって応える。


「我が息子バァンズは…、既に妻帯者なのだよ」

「…ぇ、そんな…父からは確かにお独り身であると聞き及んでおりました」

「リーフ嬢、こちらへ」

「……ッ はい…、陛下」

「私とクロードとの架け橋にと、まだ内々にではあるがつい先日迎えたリーフ家息女…」

「……バァンズが妻、ルシアでございます。どうぞお見知り置きを」


優しげな所作でその手を取られ、ステラの影からゆっくりと姿を現した闇色のドレスを纏った息を呑むような淑女が顔を上げた。


「私が公表を後回しにしてしまった故の誤解だ、許せ。息子も公にされていると思っておったようでな…、貴女の薔薇もそのまま親愛の証だと喜んで受け取ってしまったようなのだ。愛らしい貴女の様な友人が出来たと喜んでいたのだが…、私の落ち度だ 許してはくれまいか」

「そんな……」


妻帯者に捧げる花は友愛の証だ。

戸惑い、落胆し、少しだけ切なげに眉根を寄せてちらりとキースを見る。

亜麻色の美しい髪を緩くまとめ、なめらかな白い貌はなんとも優しげな美しさだ。あの花樹に愛された光の国(カイダイ)の家門の出だという。確かにあの宰相によく似ていた。白い肌に括れた腰、蒼い澄んだ瞳が美しい、所作もなんと艶やかな事か。完璧なまでの淑女を前にして自分がなんとも子供じみた事をしてしまったのかと恥じらう。

何せ暗黙の抜け道とはいえ叙爵前の大公を待ち伏せなどしてしまったのだ、焦りからとは言え今はなんと浅はかな真似をしてしまったのかと悔やまれた。


「…いえ、ベリル様には御心痛をおかけしました事、心よりお詫び申し上げますわ…、大公様…どうかこの先のわたくしとの友愛は御心に留めていただきたく」

「いえ、お気持ちは嬉しく…、(わたくし)からもお願いしたく思いますよ」


親愛の礼を一つして少女はその場を辞した。

王の失態として広めてやれば彼女も彼女の家門も何も言えなくなると言うことだろう。彼女はただ知らず恋をしただけで悪くない、と言うことだ。




「誰が息子だ」

「第一声がそれか、少しは感謝しろ」

「ヒドい話ですよねぇ」

「仕方ねぇだろ!あの家消されるのもお前が機嫌悪くすんのも困るんだよ!」

「結婚なんかしてなかったのに後出しとは」

「テメェがそもそも悪い事忘れてねぇか…」

「ステラ様…」

「…ん、そう言えば ルシアとは誰だ。自然に出てきたのをみると実在の女だろう」


隣に座らせたキースの肩を抱き寄せ こしょ、とステラが耳元の髪を弄ぶ。そのままガゼボに結界を張っていつものだらけタイムだ、この人たちは本当に神らしくないなと思う。いや、クロードも大概見えないのだが。


「私の年の離れた姉の、…幼くして亡くなった娘です。姪ということになりますか…、生きていれば17くらいになります。クロード様に頂いた明けの明星(ルシフェル)の名とも通じていましたので、思い出しました」


少し自分にしてはサバを読みすぎているなと笑う。

自分は両親がそれなりに歳を重ねてからの跡取りであった為、侯爵 更には筆頭貴族と言う家紋を継ぐにはあまりにも年若かったのはそういうわけだ。


「多少の年齢のズレは構わんさ、ちょうどいいな。19か20くらいに引き上げて誤魔化そう」

「……違う名で呼ぶのは我慢ならんのだが」

「ならんでも我慢しろ、おまえの嫁にするためなんだ まぁいい。その姿でいる間おまえは ルシア・セレスティア・バァンズだ」

「…姉上から取ったのか」

「早くお前の手綱を取ってほしいという願いを込めた」

「馬鹿な願いを込めないでください!」

「……お前の方がずっと美しい」

「そんなわけ…、ッン…」

「………なぁ、最近俺の前で遠慮しなさすぎじゃねぇか」


お構い無しで口づけを交わす、というよりは一方的に奪っているとしか思えない姿に呆れてため息をつく。

早くこの暴れ馬をおまえの思い通りにできるようにして欲しいなぁととろりと溶けた顔で大人しく好き放題されている嫁に願うのだった。






「…早く脱げ」

「…簡単におっしゃいますが、女性のドレスと言うものは一人では着ることも脱ぐ事もできないのですよ」

「……面倒だな、なら俺が外してやる。どこだ」


部屋へと戻るとすぐに邪魔だとドレスを脱がそうとする。化粧だけは落としてさっぱりはしたがやはりドレスは自分だけではどうにもならない。煩わしそうに胸元や腰や背中の紐や留め金をあちこち外し始めた。ゆっくりと身体が解放されていくのを感じて息をつく。


「ふぅ、女性は大変ですね、こんなものを身にまとってあんなに優雅に振る舞われているなんて」

「今はお前も同じだぞ、まぁお前だと思えばなんでも愛しいものだな」


気づけばコルセットも外され、はらりと下着姿にまで剥かれていた。純白のガーターで飾られた足をするりと撫で上げられて可愛らしいレースの布切れに指を絡める。


「……、この姿の方が…お好きですか…?」

「…ん」


柔らかい肌、膨らんだ乳房。細身の肩を抱かれて声が震えないように注意しながらそっと伺ってみる。彼が望むのならこの身体で生きるのも覚悟するつもりでいた。


「何がだ、早く戻れ。ふにふにしていて落ち着かんな」

「…ッさすがにこの下着は脱がないと元の身体には戻れません」

「布切れなぞどうでもいいだろうに」

「よくありません!」

「ならはずせ」


おそらく無自覚なのだろうが、手のひらが酷くいやらしく肌を這う。胸下から包み上げるように覆っていた胸当てをたくし上げられ、肩口に絡んだまま外せない。小振りだが形の良い胸を手のひらが包む。


「…ン、ステラさま……後ろの金具を外しませんと、これは脱げません…」

「うしろか、下はこのまま脱げるだろう。取れ」

「ぁ……ッだ、ダメです…ッ」


ぱちんとガーターがはずれ、半分程ずらされた小さな布切れを手で押さえた。どうしても女性の身体には慣れなくて見せるのに抵抗がある。


「なんで隠す、お前は何処も美しいぞ」

「そうではなくて!」


慌てて距離をとろうと身を引くと中途半端に脱がされた下着が足を取ってベッドへと倒れ込む。しまった、と思ったが遅かった。ギシリとベッドが二人分の重みにきしみ両腕へと囲い込まれる。


「なんだ、誘うのか まだ陽が高いのに珍しいな」

「違いますから、お願いです 見ないでくださ…、ッぁ…、ン……」


口づけられながら身体中を手のひらが這う。指が腹を伝い、小さな布を絡め取り去るのに秘所を掠めて くちゅん、と濡れた音を感じ恥じらいに頬が熱くなる。

初めての女の身体を見てステラはどう思うのだろうか。柔らかい乳房を軽く揉まれて声が出そうになるのを手の甲で抑えた。

腰の留め金を外されてガーターベルトが足に絡まる。下着と共に履いていたストッキングに指を差し込まれビリビリと裂かれてしまった、力加減がわからないのだろう。無造作にベッドの上に投げられた無残なそれは、世の男達なら興奮材料にしかならないものだった。

脱ぎ散らかされた可愛らしい下着達を見て今自分は全てこの(ひと)の視線に晒されているのだと自覚する。自然に受け入れられる身体だ。自分の男の身体よりもずっと快楽を与えてやれるはずの、(かれ)は柔らかいこの身体を気に入ってくれるだろうか。

そして…、おそらくは処女(をとめ)の身体だ、破瓜(はか)の痛みは身体を引き裂くようだと言うし、ちゃんと受け入れられるだろうか。ふる と小さく震えて降りてくるだろう愛撫を瞼を閉じて待った。


「………? どうした」

「…ぇ」

「全部外したぞ。戻れ」

「…え、戻る…、のですか」

「ん、当たり前だろう。脱がないと戻れんのだろう?ちゃんと脱がしたぞ」

「……このままでなくともよいのですか」

「なんでだ、早く戻れ。この俺を焦らす気か、優しくしてやる」

「……ッ」


当たり前のように言いながら頬に、こめかみにキスを降らせながら大人しく待っているのに言葉を失う。ずっとこの姿で愛されるのが自然なのだと思っていた自分が滑稽にすら思えた。

この(ひと)にとっては()()()を愛するのが自然なのだろう。


「…、待っ、て……ぁ、待ってください…」


早くしろと急かす指と唇にゆっくりと擬態を解くと、お預けを解かれたかのようにベッドへと縫い付けられて好き放題に愛された。


普段ならこんな明るい部屋で、こんな陽の高い時間に、こんな無体は絶対に許さないのだ。

許さないのに、まったく抵抗などできる気がしなかった。






❀❀❀






「…………………凄いな、こんなものがまさか見られる日が来ようとは思わなかったよ」

「黙れ、殺すぞ」

「うん、間違いなく君だねぇ」


目の前に立つ美しい黒髪の女を見てクロードが笑う。美しい、美しいのだが流石(アイン)の子だった、そっくりだ。


「ダフネを思い出すね、いや似すぎていて懐かしささえ覚えるよ」

「主が、この姿でキースの叙爵式典へ行けというのですから仕方ありませんでしょう」

「そうだね、ついでにキースの婚姻も公表しようか、何と呼べばいい」

「ステラ・ウェヌス・バァンズ」

「そのままじゃないか」

(わたくし)はファーストネームを公にしておりません、でしたらこれでよろしいでしょう。それに」


ちらりとキースを見て意地悪く笑ってみせる。


「7000年を待たずに『ステラ様』をやめさせられそうなんでな」

「…ぅう……」

「7000年…?何の事だい」


笑うステラとむくれるキースを前に わからん、とクロードが首を傾げる。まぁいいだろう、ベリルからあちらでの騒ぎと経緯は聞いている。こちらとしてもキースの細君の座を狙う令嬢達の招待状が後を絶たないのだ。


「…では、君は今日から ステラ・ウェヌス・ブロッサム公爵夫人だ。ブロッサム公爵家を興すよ、よろしく頼むね キース」

「…は、謹んで」


恭しく頭を下げるキースの横で、優雅にドレスの端をつまみ上げてみせるステラがそれはそれは美しくて、つい殴り飛ばしたくなるのは仕方がないことだった。











本当は穏便なデェトは作者的にはさせるつもりだった。こいつ…、断固として拒否りやがりました…。

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