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小さな吟遊詩人は過保護な剣士と旅をする  作者: 七音(ななお)
冥府と火の国

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sideroad✦嫁をもらえ

「新たに世界樹(ユグドラシル)より地上へと顕現せし闇の子 そなたのかぶりに星の輝きと、その胸に月の証を」


恭しくひざまづく彼の黒い髪に輝く髪飾りを飾り、胸に家紋となる紋章をつけられる。

誰にも膝を折らないとつい先日しれっとした顔で言っていた人がなかなか皮肉な姿だと内心で笑った。


そして紋章をつけられるその胸に飾られた紅い薔薇が人々の目に留まりさわりと空気がざわめいた。式典の真っ只中と言う事でそれ以上の騒ぎは見られなかったが、…なるほど、わかってしまった。


さわさわと悔しそうな令嬢達の中に一人だけ頬を染め、恥じらう金髪の少女がひどく目立つ。

素直な美しい金髪と透き通るローズピンクの瞳が珍しい、年の頃は20前の愛らしい少女だった。

式典の進む中、自分へ視線を向けてくれるのを期待してかそわそわと落ち着きのない様子もいやみもなく、可愛らしい。


彼女か、と見留め 少しだけ気持ちが沈む。

柔らかい身体に小さな手足、指、可愛らしい微笑みを持った彼の隣に立っても当然のように誰にも受け入れられる姿だった。


女でなくてもよいのか、と問うて お前がいいと既に答えはもらっている。

今更蒸し返して落ち込むのは間違っているのだ。

女になりたいわけではない。おそらく(ステラ)は自分が女で生まれてきていたとしても同じようにお前がいいと言ってくれた。

そんなものは関係ない、わかっているから複雑なのだ。


ただ、人の世で自分は彼の隣には立てない。


それを思い出してそっと目を伏せた。

悲しくはない、少しだけ…淋しいと思っ……


「ちょ、待てまだ…ッ」

「なんだ、どうしたキース」

「……………、ぇ…」


ふわりと頬を撫でる感触と落ちる影に信じられない思いでおそるおそる顔を上げた。何故…、私の前で、今貴方は私に触れているのだろう。


「もうちょっと我慢しろ!あと頼むからそこまでだからな、我慢してくれ!」

「……やかましい」

「…、ッな、ス…、バァンズ様……ッいけません…どうかお戻りを…」

「……チッ…、わかった」


ざわざわと人々が突然の大公の行動に戸惑い、さわめき出す。式典の真っ最中に王を無視していきなり他国の宰相の前に立ち何やら声をかけているのだ。

人々の視線に慌てて諌めれば渋々と言う顔で自分の頬を撫でていた指の背がすり、とひと撫でして離れてゆく。ちらりと視線を残してペリースを翻すのをぼぅっと見送るしか出来なかった。

何も疑ってはいないのだ。ただ、ほんの少しだけ…歯がゆいだけなのだ。






❀❀❀






「…おまえ、ホントに勘弁しろよ…」

「何のことです」


なんとか式典をこなし、他国の挨拶を交わして令嬢達の熱のこもった視線を一身に受けながら広間を辞してすぐにこれだった。

件の令嬢が期待を込めて傍に現れ、約束の一つも取り付けようとしたのかそっと手を伸ばしてステラの手に触れようとした時はひやりとしたものだ。咄嗟に気づかぬ顔をしてベリルが傍へと呼びつけ事なきを得たのだが…


「あの式典で、あの人前で、いつもみたいなちゅっちゅいちゃいちゃはじめたらどうしようかと焦ったわ」

「ベリル様…他に言いようが…」

「違わねぇだろ、おまえもう人前で名を挙げちまったんだ、少しは人間に紛れる努力しろ。ほんの数十年の我慢だろ」

「チッ、わかっていますよ。だから我慢したでしょうが」


相変わらず膝にキースを抱いて髪に指を絡めては気怠そうにベリルの説教を聞いていた。

まさかほんの一瞬浮かべた(うれ)いに気づいて確かめに来るとは思わなかったのだ。そっと頬に熱がこもる。


「なんか…、無理そうだなぁ」

「何がです」

「令嬢との穏便なデェト」

「するわけがないでしょう」

「それは…、いけませんステラ様」

「…何故だ。おまえを手離して何故他の女と過ごさねばならん」


正直に言えば嫌だったがこなさねばならない貴族の義務というものだった。受け取ってしまったからには応える必要があるのだ。それに…それを怠れば矜持を傷つけられた令嬢は二度とまともな婚姻が出来なくなる。つまり…


「形式上でも…、貴方が他の誰かと婚姻を結ぶのは嫌です…」

「……? するわけがないだろう。そもそも俺達は名だけの幽霊貴族になることが大前提だ」

「でも…、令嬢への義務を怠れば恐らくそうなります、それに今世は表舞台にいる必要があるのでしょう?未婚のまま過ごすにも限界があるのでは…」

「まぁどうせ娶っても人間は先に死ぬ。今世だけ名だけの夫人をもってもいいのかもしれんが…」

「殺すぞ」

「わかった、わかったから怒るな。じゃあもういいよ、おまえらもう結婚しろ」

「……………………は…?」


突然突拍子もない事を言うのに髪を弄ぶ指を止めた。表向き結婚できないと言っていたのはお前らだろうに。


「…ふふん、幽霊なんだ もう一人ずつつくっても構わんだろ」

「……どういう事だ」

「お前気づいてたか、お前に向かう視線もだが…、薔薇を既につけたお前よりもキースに向かう視線が半端なかったぜ」

「え…、私ですか」

「俺が見るに、女は当然だが…男からも相当チラチラされてたぞ…まぁ天使に創り変えてから中性的な色気が増したし たおやかさもその辺の女共じゃ足元にも及ばねぇ、無理もない」

「……どいつだ」

「何いってんだ、若い男は殆どそうだったろ。妻子持ちもつい、な感じで見てたな」

「クソが……」

「大体この色気はお前のせいだろが…」

「ステラ様…、ぅ…苦しい…」


面白そうに笑うのを見て、この人をからかうなんてさすがは神なのだろうか、命知らずとしか言いようがない。


「だから、結婚しろ。おまえら二人とも嫁もらえ」






❀❀❀






「…ッこれは……、お美しいレディ。このような場所にお一人でなど、どちらへいらっしゃるのでしたか、お送りいたしましょう」


廊下の角でぶつかりそうになった初めて目にする初々しい淑女に一瞬目を奪われ言葉を失った。これは…、運命というやつなのではないかと胸が熱くなる。まだうら若い騎士がこのチャンスを逃してなるものかと戸惑うレディに手を差し伸べた。


「い、え…、縁者とともに式典に出席していたのですが…、問題ございません。すぐそちらの貴賓室ですので…、お心遣い感謝いたします…わ」


ふわりと軽くドレスをつまみ挨拶すると恥じらうように体を引いて走り去る。仕草も小鳥のように愛らしかった。あぁなんと花のような令嬢だろうか、式典にとなると他国からの貴賓だろう。またお会いできるだろうか、帰国する前に是非とも御名だけでも知れたらと見送った。



「……あ、の… さすがにこれは…」

「へぇ、これは… 美人だな」

「元のキースの方が綺麗だろう」


亜麻色の髪の清廉な美女がそこにいた。慌てた様子で部屋に戻り、着慣れないドレスに戸惑っている。細身のすらりとした身体に形の良い乳房、白い手足が黒いドレスに映えて美しい。衣装を脱いだ為侍女に告げて別室でドレスを着せてもらったのだが胸元があいているし足元はスースーする。


『お前の加護に擬態を流し混ぜたらいいだろ、犬や姫達と同じだ。創り変えるわけじゃねぇ、被り物みたいなもんだ』


そう言われて暫く嫌そうに悩んでいたが、他にいい考えも浮かばなかったのか妥協してやるとばかりに首筋の六芒星に口づけたのだ。


「お互いに嫁を『作れ』ばいいだろ。その姿ならやり過ぎなきゃ表でもいちゃついていいぞ、まぁお前らだと分からなければ別に元のままでも好きにしたらいいんだが、身分が邪魔だな」

「人間の決まりとやらは何をするにも厄介だな…」

「せいぜい愛妻家だと見せつけてやればいい」

「…………仕方ない」


どうにも自分が違う形になるのが面白くないようだが『被り物』を被れば面倒な我慢が減ると言う事ならとどうにかこうにか折り合いをつけたらしい。


「……折れそうだな」

「ふふ、見た目だけです、私は変わりませんよ」


どこから触れたものかと戸惑うのが可愛らしくてつい笑ってしまう。


「キースの縁者にするしかないな、ごまかせん程にそっくりだ」

「本人ですよ」

「はは、そうじゃねぇ 元々中性的だったからだなぁ、女になっても乳が腫れて線が細くなっただけで変わんねぇからな、別人になりきれなさすぎて縁者にしかなれねぇわ」

「…そうでしょうか」

「近過ぎず、遠すぎない縁者を作れ。クロードには言っておく、んでステラの妻になれ」

「…は、い……」


なんだかくすぐったい。

まさか自分が誰かの妻になる日が来るとは思わなかった。まあつい先日冥府の底で無理やりそうさせられそうになったばかりではあるのだが、あれはまた違う話だ。


「お前はそのまま変われるだろう、キースの嫁にもなって来い。お前はどうすっかな…、妹と一緒に顕現した事にするか…」

「…ふん、まぁいいだろう キース、来い」


そっと傍に寄り添えば当たり前に腰を引き寄せられた。…おかしくないだろうか…、気に入らないだろうか。


「…ドレスというものは邪魔だな…、身体を固めすぎてお前に触れている気がせん」

「…おかしくは、ありませんか」

「……? なにがだ、お前はおまえだろう。かわらん、が……これはすぐ脱げ、邪魔だ」


もともと細いせいかそんなには引き絞ってはいないがきっちりコルセットまでつけられているせいで固められた身体がどうにもお気に召さないらしい。


「で、ちょっとお前らそれ脱ぐ前に其の辺散歩してこい。すぐ帰ってくんなよ」

「……何を企んでいる」

「おまえの我儘何とかしてやるんだから言うこと聞け。毛ほども許さねぇんだろ」

「……チッ…、仕方ない」


追い出されてしまった。




さすがにこの姿を人の目に晒すのは抵抗があった。どのくらいで戻ってもよいのだろうか、落ち着かない、いったい自分はどんな姿なのだろう。不意に唇に指先の感触を感じて顔を上げた。


「…何か違うと思ったら…、化粧までされているのか」

「あ…、に、似合わない…でしょう…申し訳ありません、戻ったらすぐに落とします。ドレスに素肌はおかしいと侍女が言うものですから…」

「そうではないが…、いつもの方がおまえは愛らしい」

「……一応、元は20を超えた男なのですが…」

「…? なにかいかんのか」


こんな時だ、彼は時折無知になる。

なんでも知り、何があっても揺らがぬ彼が子供のように当たり前の常識に首を傾げる。


「ふふ…貴方こそ、お可愛らしい」

「なんだ、仕返しか」

「たまにはいいでしょう…?」

「前にも言ったろう、おまえはもう謝る必要も誰かの顔色をうかがう必要もない」

「…え、ステラ様」

「不遜でいい、この俺がおまえの下僕なんだ。この世の誰もがおまえの言葉に従う」

「……ッそん、な…」


すり、と指先で頬を撫ぜると中庭のガゼボへと導き座るように促した。


「どうか御自覚下さい、この(わたくし)がこうして愛を乞う唯一なのだと言うことを」


恭しく膝を折りわざとらしいまでの所作で手を取るとその白い甲に口づける。手のひら全部で包まれて押し付けられた細くなった女の腕は逃れられないまま好きなように蹂躙された。ゆっくりと手の甲から手首、ひじの内側を辿って二の腕から肩に口づけ鎖骨へと辿り着く。


「……ッぁ…、ステラ…さ、ま」


ちゅ、と首筋にまでキスで這い上がる感覚にキースの身体が震える。頬にまで唇がたどり着いた時、背後から小さな衣擦れの音と、女の声がした。あぁ、彼女の声はこんなにか細く、小鳥のような声だったのだな。



「……バァンズ…様…、これは……そん、な……」










昔のあめりかんアニメでよく手の甲から腕にチッスしてたよねっていう話。

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