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小さな吟遊詩人は過保護な剣士と旅をする  作者: 七音(ななお)
大地の国で

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幕間✧お出かけの準備

「年々ダメになってくなぁ」

「ダメってなんですか」

「…なんとなくわかったが、他に言いようがあるだろう」


一年毎に光と闇の国を行ったり来たり預けられる為各国の王には一年ぶりに顔を合わせることが殆どなのだが、その久しぶりの顔合わせをした途端に養母に言われたセリフがそれである。


「犬、ちゃんと番犬してるかぁ?」

「言われなくとも」

「姫はいくつになったよ」

(それ)やめてください、セリスじゃないんですから。アッシュと同じ14歳ですよ」

「14でそれかぁ…もう既に外には出せねーな。だろ?犬」

「色々反論もあるがそこだけは同意するしかない」

「じゃどーするよ」

「……、極力見目を隠すとか…」

「あっさいなぁぁ!そんなんで誤魔化せるかよ、バァカ」

「子供の喧嘩ですか」

「………何となく何のこと話してるかは分かってきました…。別に平気でしょうに、そんな事で4年後の親離れ許可を撤回させませんから」

「わかってるけどよぉ…、どう思うステラ」


静かに背後に控えていた執事に何の気なしに声を掛ける。にこりと首を傾げて真っ黒な男は答えた。


「狼の群れの中にダイブする羊にしか思えません」

「言い方」

「俺が守る」

「子犬がナマ言うものじゃありません」

「好き放題言い過ぎでしょう君たち」


ふむ、と黒い執事が顎に指を当ててわざとらしく思案しているようなポーズをとる。あれはなにか面倒くさいことを言う前触れだ。


「シエル様も魔術の基礎でも学んでみますか」

「お前が教える気か」

「此の世で最も適任でしょう」

「ダメだ」


ぎゅうと抱き締めると執事から身体ごと隠す。冗談ではない、あんな底意地の悪い死ぬような特訓をシエルにさせるというのか。


「ほら子犬、渡しなさい」

「絶対にイヤだ」

「アッシュ、苦しい…」

「ん、少しだけ我慢しろ」

「いちゃつくな腹立つな」


どうあっても渡さない姿勢に仕方なくこの場は折れておく。


「そういうお前の方も大概なんだけどなぁ」

「大概ってなんだ」

「お前の白銀髪は目立ちすぎるんだよ、派手な頭しやがって」

「俺のせいじゃない」


確かに両親も兄弟ももっとくすんだ灰色の毛並みをしていて、自分だけが輝くような白銀の髪をしていたからアルビノなのだと思っていたのだ。


「人間の女からしたら馬の鼻面の人参だな」

「まぁ、入れ喰いでしょうね」

「おまえらな…」


腕の中の白い指が服の裾をきゅ、と握る。安心させるように髪にキスを落とすと だったら、と少し思案する。


「顔の造形を醜く偽装したらいいのではないか」

「アッシュの顔を別人にするんですか」


じ、っと見上げて今度はシエルが考える。


「では、別人のアッシュと居る時間の方が長くなるって事ですよね」

「そういえば、そうなるか…。二人の時しか元に戻らなくなるだろうしな」

「……それは、嫌だな」

「今のは無しだ」


甘えたように広い胸に顔をうずめると、背中に回した腕に力を込めるシエルに秒で取りやめた。


「うーん、んじゃ怖くしたらいいんじゃないか。女は近づかんだろ」

「怖く、ですか」

「あのいけ好かない爽やか顔をそのまま継いでるからいかんのだろ、目つきを悪くするとか」

「それも顔を変えてしまうのでは?」

「面倒くさい(つら)しやがって」

「無茶苦茶言うな」


頭の上で3人があぁだこうだと言っているのを、陽の光の透けた白い髪をぼんやり眺めながら思う。

(シエル)(アッシュ)のものだと言うけれど、君だって僕のものじゃないか。


だからこれは僕のだ。


「…目立つのなら、目立たない色にしては…?」

「ふむ」

「ふーん、じゃあこうか」


シエルの言葉に数瞬考えたと思えば、不意にアッシュの顎を捕らえると上向かせ迷わずその額に口づけた。ピキリ、と固まる二人に背後で笑いを堪える黒い男が憎たらしい。

と、思っていたらふわりと美しい白銀の髪がゆれ、ゆっくりと闇の色に染まってゆく。同時に鮮血が水に溶けるようにじわりと月色の瞳が紅く変わった。


「こんなもんか」

「ダフネ!」


すぐに我に返ったシエルがアッシュを取り返す。胸に抱き込んで色の変わった髪や瞳の色をぺたぺたと確かめて きしし、と意地悪く笑う絶世の美女をむくれて見返した。


「何したんですか」

「加護だ。俺の加護は犬にやる、どうせ手を離れる前にどっちかにとは思っていたんだ。命全部で姫を護らせなきゃならんからな、もしものことがあるならお前の方だろ。あいつ(ルシウス)に痛い思いはさせねぇ、俺が犬にする」

「別に何が変わったようには感じないが…」

「くく、なかなか似合うじゃないか、前髪は長くしろ、その顔出すな」


加護は神の心の一部を与える。


身体に宿す永劫のものはたった一人にだけ捧げるものだ。生命の危機があれば同じ様に痛みも恐怖も伝わり、灯火が消えても神の一部が一度だけ再生させて消える。


それを今アッシュに与えたと言う。漆黒の髪に、悪魔のような紅紫の瞳。美しいのに近寄りがたい恐ろしさもある。

アッシュではあるがアッシュではなくて、陽の番人(たいよう)であるのに闇の住人のようで不思議な感じだ。


「元に戻すのは簡単だ、髪と瞳に加護を溶かしているだけだからな、まぁ偽装が目的なんだからあんまり人前では戻すなよ」

「……シエル」


一番に気になるのは腕の中の彼の気持ちだ。

似合わないと嫌がるだろうか、気持ち悪いと拒否られないだろうか。勝手に変えられた姿でおそるおそる腕の中に視線をやると、誰よりも美しい翡翠の瞳が自分を見上げていた。


「気に入らないか…?」

「ふふ、可愛い 本当に『黒』になりましたね」


ふるふると首を振ってからとろりと溶けて微笑むのに胸を撫で下ろして抱き締める。


「よし、じゃ犬はこれでいいか 普段はフードでも被っとけ。あとは姫だなぁ」

「同じ様に黒髪にするのか」

「馬鹿なんですか、これだから犬は」

「ダメか?目立たなくはなんだろ、まぁ俺の加護はもう打ち止めだからルシウスに任せてもいいがな」

「あんたも同じ事しようとしてたんですか、シエル様にはそんな小細工じゃ足りないに決まっているでしょうが、自分の姿を鏡で見てみろ」

「あん?」


ステラの言葉にその場にいた全員がダフネを見る。ぬばたまの黒髪が白く透き通るような肌を引き立たせ、朱を引いたわけでもないのに薄く紅が入ったような唇がなんとも言えず艶っぽい。まさに色を凝縮したような艶めかしい美女だ。


「なんだ、俺がどうかしたのか」

「……、黒髪はやめるか」

「でしょう」


こくりと何故か二人の中では決まったらしい。お揃いでも別に良かったのに。




❀❀❀




「へぇ、それで太陽の眼はあんな色に変わってたのかい」


世界樹(ユグドラシル)の枝のひとつで眼下ではしゃぐ2人を眺めながら愛しいルシウスが気怠げに頬杖をついて呟く。


「姫もまぁまぁ気に入っていたし、いいだろ。あとはそっちだ。あのままじゃ男にも女にもほっとかれんだろう。貴族の肩書すら持っていかんというし」

「そうだねぇ、確かに月の小鳥はちょっとダメだね。さらに4年も歳月が経てば僅かに残った幼さすらも消え…」

「ん、どうした」


ふと言葉を切って考えるルシウスに、どさくさまぎれにそっと寄って口づける。こら、と緩く抵抗されるのにぞくりと嗜虐心が勝ってつい後ろ頭を抱き込んで悪戯なものから深いものへと変えてゆく。


「ん…、悪戯はおやめ…せっかく考え事をしていたのに」

「君が悪いんじゃないか、俺より子供達を優先させるなんて」


まるで身体の性別など意に介さないように『男らしく』甘やかすダフネの豊かな胸に顔を埋めて苦笑を漏らす青年を、優しく抱き込んだまま長い髪をよけるとあらわになった首筋へと口づける。


「まぁ、多分大丈夫だよ。月の小鳥の加護は私が授けることになるんだろう、太陽(アルフ)にも念を押されていることだしね」

「任せて構わんか」

「まだ4年も先の事だし、太陽の眼も育った事だしね。まぁ護れるだろう」

「……? 考えがあるならいいさ、じゃせっかくの2人の時間なんだ。可愛がらせてくれよ」

「君はほんとうに…、仕方のない人だな」


さわりと枝葉が二人を隠すように揺れて重なる。小さなリップ音が風に溶けて消されて、ほんの僅かな逢瀬を過ごす事にした。




❀❀❀




「キスはダメだ」


いざ加護を与えるとなって真っ先に威嚇された。


「…ダフネ、君どんな与え方したんだい」

(デコ)口づけ(ちゅー)しただけだぜ」

「…成る程、仕方ないね。おいで、私の月の小鳥」


今にも噛みつきそうなアッシュを宥めてゆっくりと差し出された手を取る。二人の加護は、大陸に出るための絶対条件だ。

身体だけで言えばアッシュはともかく自分は脆弱な18才の人間の子供でしかない。(カイダイ)(アイン)どころか、太陽(アルフ)(セリス)にまで絶対条件として約束させられている。


「色々考えたんだけどねぇ、君はちょっとこのままでは外に出せないなぁと言うことでね。身体的には太陽の眼に頼る事になるがこの方がマシだろうと言う結論になったんだよ」

「…? どういうことです」


コツ、と額をあわせて両の頬を手のひらに包むとゆっくりと目を閉じた。


「私が守るから、安心して遊んでおいで…」


ふわりと淡い光に包まれたかと思えば、誰の目にも美しく育ったシエルのしなやかな身体がゆっくりと小さくなり、誰がどう見ても可愛らしい人形のような少年の姿になった。


「……え、な…これは」

「うむ、流石は私の月の小鳥だ。愛らしいなぁ」

「おい、ルシウス!何をしたんだ」


ひょいと小さくなった身体を抱き上げて膝に乗せるとよしよしと数年前を懐かしむように頭を撫でた。


「流石にこの姿ならおかしな目で見られる事も減るだろ」


全部ではないから気をつけろよ、と念を押して膝から下ろしてやる。


「まぁ、身体的な危険は多少増えるがそこはおまえが護ればいい。四六時中全ての人間の視線から護らねばならんよりは何万倍もマシだろう、どうだ?」

「どうだもなにも…ッ」


引ったくるように小さな身体を抱き上げると、まだちゃんと自分の姿に理解が追いついていないらしいシエルがきょとんとした目で見上げてくる。

 …問題ないような気がしてきた。


「……マシだな」

「いいのかよ」


あはははッと思わず笑うダフネに成る程と感心するステラ。そしてなんでこんな姿にされなければならなかったのかがまだ理解できていないシエル。


「月の小鳥の意思で元の姿に戻るのは簡単ですが太陽の眼と同じく擬態の為です、人前で戻るのは控えなさいね」

「色々不便そうなんですけど…」

「可愛いですよ、なんだか懐かしいですねぇ」

「俺が不便はかけん。ただ多少伸び縮みのきく服は必要だな…」


ぶかぶかになった服に包まれているだけの身体を見て、逆に元に戻った時の姿を思うと普通の服では大変なことになりそうだ。


「とても恋人には見えませんね、兄弟?従者?…どうですかねぇ」

「……? 恋人以外ないが」


一応建前をと声を掛けるステラに、アッシュは何を言っているんだとばかりに首を傾げてみせた。










最初は包帯ぐるぐる巻き設定だったシエルが、今の姿になるまでの僕の脳内会議の様子。

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