大丈夫、私が守ってあげる!〜運命が廻り始める時〜
リアム編、スタートです。
ーー大丈夫、わたしが守ってあげる!
それが、全ての始まりだった。
◆
幼い頃、僕――リアム・エルフィンハイトは、一人で森をさまよっていた。
エルフの国の第一王子として生まれた僕は、周囲から過度な期待をかけられ、厳しい教育の中でやさぐれていた。
そんなある日、ほんの出来心で城を抜け出し、迷い込んだ森の奥で魔獣に襲われそうになった。
そして、彼女が現れた。
「危ない!」
小さいながらも炎の魔法が魔獣の鼻先を焦がし、魔獣は逃げていった。
彼女はアリシアと名乗った。
透き通るような金の髪、サファイアのように輝く瞳。彼女が魔法を使った瞬間、ぼくの体の中を心地よい感覚が駆け抜けた。
(……何だ、この感覚……?)
その時はまだわからなかった。
ただ、彼女の魔力がぼくの魔力に触れた瞬間、理屈を超えた快感が全身を駆け巡ったのを、ぼくの体がはっきりと覚えていた。
「もう、大丈夫?」
「う、うん……ありがとう」
ぼくはぎこちなく頷いた。
「よかった!じゃあ、一緒に森を出ましょう!」
アリシアは屈託のない笑顔を見せると、僕の手を引いて森の出口に向かっていった。
彼女はこの森を治める子爵家の令嬢で、僕の一つ上らしい。魔法が大好きで、こうやってこっそり抜け出して森で魔法の練習をしているのだとか。
途中、魔物の声が聞こえると、先ほどの魔獣を思い出して体がビクッとなる。
「大丈夫、私が守ってあげる!」
アリシアの力強い声はとても頼もしかったが、繋いだ手は僅かに震えていた。
恐怖を押し殺して僕を守ると言ってくれた彼女の背中は、一つ上といえどほぼ僕と変わらない大きさで、僕は彼女を守りたくなった。
「ここまでくれば安全だね!こんどは気をつけてね!」
無事に森を抜けると、彼女はあっという間にと去っていった。
――その瞬間、僕は決めた。
(……彼女と、結婚しよう)
僕の運命は、もう決まったのだ。
◆
エルフには、魔力の相性という概念がある。そう知ったのは、それから少ししてからだった。
相性が良ければ良いほど、互いの魔力を近づけた時に心地よさを感じる。その相手と魔力を交わし合えば、脳が蕩けるほどの快感を覚え、二度と離れられなくなる。
――アリシアの魔力は、僕にとって完璧だった。
ならば、どうすれば彼女を僕のものにできるのか。
彼女はこの土地を治める子爵令嬢だ。しかも、魔法の才覚がある。
だとすると、十五歳になったら貴族が学ぶ学園に入学するだろう。
元々精霊王の血を引く自分にとって、学園レベルの魔法を習得するのは容易いことだ。王である父を説得し、学園への入学許可を取るのも簡単だった。少しばかり『脅し』を交えて交渉したけれど。
アリシアから一年遅れで入学すると、彼女には既に婚約者がいた。二人で並ぶ姿を見ると、全てを焼き尽くしてしまいたい衝動に駆られる。彼がアリシアと結婚する未来など、絶対に許さない。
そこで、彼の好みに合う侯爵令嬢を誘導し、無事にアリシアとの婚約破棄へと導いた。
(ここまでは順調……あとは、どうやってアリシアに僕を意識させるか、だな)
最初は、運命の再会を演出し、昔のお礼を言って、普通に仲良くなるつもりだった。
だが、学園の中ですれ違ったアリシアが僕を全く覚えていないことに気づいた瞬間、ショックを受けた。
あんなにも素晴らしい思い出を、アリシアが全く覚えていないなんて!
(まあ、いい。これからじっくり思い出させてあげるからね、先輩)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次話『偶然と必然〜運命は自らの手で掴み取る〜』