揺れる想いと、甘く蕩ける魔力〜僕、頑張ったんですよ?だから、ご褒美ください〜
本日二話話目の更新です。
先に『突然の襲撃と恋心〜大丈夫です、大好きな先輩が無事なら〜』からお読みください。
襲撃者たちを退けた後、二人は寮のアリシアの部屋に移動した。
部屋に入るや否や、リアムはアリシアを強く抱きしめた。
「……本当に、無事でよかった」
耳元で囁かれたその声、抱きしめるリアムの腕の力強さ、鼓動の速さ――すべてが、アリシアの心を揺さぶった。
「そんなに心配してくれてたの?」
彼女が思わずそう問いかけると、リアムは僅かに眉を寄せて私を見つめた。
「……当たり前じゃないですか。僕にとって、先輩は……」
言葉の続きを、彼は飲み込んだ。その代わり、抱き寄せる腕の力を少しだけ強めた。
その温もりが、アリシアの心の奥にじんわりと染み込んでいく。
ーーどうして、こんなにドキドキするの?
リアムはただの後輩。少し馴れ馴れしくて、お調子者で、甘えん坊で……それだけだったはずなのに。
「先輩?」
「……な、何?」
「顔、赤いですね」
「そ、そんなことない!」
アリシアはリアムの腕の中から慌てて抜け出し、彼に背を向けた。心臓がうるさいくらいに鳴っている。
「ふふ、可愛い」
「なっ……!」
彼の笑い声が、耳に心地よく響く。悔しいけれど、胸の奥がくすぐったくなった。
(なんなのよ、これ……!)
「先輩、逃げないでくださいよ」
背後から囁かれる声に、肩がピクリと跳ねた。
「べ、別に逃げてなんか……!」
振り返った瞬間、リアムの手が彼女の頬に触れた。そのままふわりと指先が動き、そっと髪を耳にかける。
「……やっぱり、赤いですね」
「っ、だから、それは……」
言い訳しようとするのに、思考がうまくまとまらない。
襲撃の緊張が解けたせいなのか、それとも――リアムが、いつもよりも近いせいなのか。
「先輩、怖かったですか?」
不意に、彼の声が優しくなる。
その瞬間、アリシアの心の奥にしまい込んでいた感情が揺らいだ。
確かに、あのときは無我夢中だった。けれど、今になって――リアムが傷を負ったときの、胸が締め付けられるような感覚が蘇る。
「……怖くなんか、ない」
そう言いながら、アリシアは無意識にリアムの服をぎゅっと掴んでいた。
リアムはそんな彼女の手元を見つめ、それから穏やかに微笑む。
「でも、震えてますよ」
「……!」
自覚した途端、ますます動揺してしまう。
リアムは静かにアリシアの手を取ると、優しく包み込むように握った。
「大丈夫です。もう終わったんですから」
その言葉に、張り詰めていた何かが緩んでいく。
心臓の音がうるさい。
リアムの手から伝わる体温が心地よすぎて、逃げたくないと思ってしまう自分がいる。
――どうして?
普段の自分なら、こんな甘えたことはしないのに。
リアムが自分を庇った瞬間、絶望に包まれた。
もし彼を失ってしまったらーーもう、耐えられない。
(私――リアムのことが好きなんだ)
アリシアは自分の気持ちに気づいてしまった。
それはとても素直にストンと落ちてきてーー心の中心が温かく、くすぐったいような不思議な感じだった。
「……先輩……もう一回、抱き締めてもいいですか?」
囁くように言ったリアムの腕が、彼女の背に回る。
拒む理由が見つからなくて――アリシアは、そのまま身を委ねてしまった。
リアムの腕の中にいると、不思議と落ち着くのに、それ以上に胸が高鳴る。
(こんなの、いつもの私じゃない。なのに……)
「先輩、力抜いてください」
耳元で囁かれる声に、びくっと身体が震えた。
「べ、別に力なんて……!」
「ふふ、そんなに警戒しなくてもいいのに」
リアムは苦笑しながら、アリシアの頬に指先を滑らせる。くすぐったいような、でも心地よくてゾクッとするような感触が、全身に広がった。
「ねえ、先輩?」
「……な、なに?」
「今、僕のことだけ考えてます?」
唐突な問いかけに、言葉を失う。
リアムの顔が近い。いつもの軽口を叩くときとは違う、どこかじっとりとした視線に捉えられて、逃げられない。
「え、えっと……」
「いいですよ、そのままで」
アリシアの答えを待つことなく、リアムはさらりと彼女の髪を指に絡める。
「先輩、やっぱり可愛いですね」
「なっ……!?」
耳元で囁かれる低い声に、背筋が震える。
リアムの指先が髪をなぞり、頬に触れ、そっと顎を持ち上げる。
「先輩って、意外と素直ですよね」
「ち、違っ……」
「違わないですよ」
微笑むリアムの顔が、ますます近づいてくる。
「今日くらい、僕に甘えてください」
優しく紡がれた言葉に、思考が真っ白になった。
リアムの指がアリシアの手を包み込み、指を絡めるように握られる。
「……ほら、もう逃げられません」
唇のすぐ近くに息がかかる距離。
彼の瞳が揺れるのを見つめるしかできないまま――アリシアは、訳もわからず、その場に縫いとめられてしまった。
リアムの指がそっとアリシアの頬をなぞる。
それだけで全身が熱くなって、心臓がうるさいくらいに跳ねた。
リアムの指先が、ゆっくりとアリシアの耳元に触れた。
「先輩、僕、頑張ったんですよ?本当に。だから……」
アリシアはその言葉に息を呑んだ。思わず目を見開くが、リアムの瞳は真剣そのものだ。
「ご褒美、ください」
アリシアはその言葉に動揺した。しかし、リアムの切実な眼差しに、何も言えなくなってしまう。
「こんな時に……?」
アリシアはなんとか冷静を保ちながら問い返すが、リアムは少し悲しげに微笑んで、さらにアリシアに近づいてきた。
「だって、一生懸命戦ったんです。ちゃんと認めてもらえたら、嬉しいなって……」
その言葉に胸が締め付けられるような感覚を覚え、アリシアは彼の真剣さに引き寄せられる。心の中でどうしても拒めない気持ちが湧いてきて、思わず口を開く。
「わ、わかったわよ……」
その言葉とともに、アリシアは目を閉じ、少しだけ唇を差し出す。
リアムは嬉しそうに微笑み、彼女の唇にそっと触れる。
優しく、触れるだけのキス。
リアムの唇がアリシアの唇に重なった瞬間、彼女の体が弾かれるように震えた。触れたその唇から、まるで魔力が交じり合うような感覚が二人の間を走った。
その魔力は温かく、そして強く、アリシアの体を包み込む。彼女の胸が締めつけられるような感覚に襲われ、思わず彼に引き寄せられた。魔力が絡み合い、心臓の鼓動が早くなる。
「これじゃ、足りない……もっと、もっと欲しいです」
リアムはそのままキスを深くし、アリシアをさらに引き寄せた。
「リアム……っ」
アリシアは息を呑みながら、彼の名前を呟いた。その声さえも魔力に飲み込まれていくように、ぼやけて聞こえる。
リアムはその声を聞いた瞬間、ますます彼女を強く引き寄せ、キスの深さを増していった。唇が重なり、舌が絡み合うたびに、二人の魔力が交じり合ってさらに強く、熱く感じられる。アリシアはその感覚に全身が震える。
アリシアは思わず彼を押し返しそうになったが、彼の手が彼女の背を引き寄せ、キスはますます深くなっていく。
リアムの強い腕の中で、アリシアはもう逃げられないことを理解していた。キスのたびに心が震え、息を呑む。彼の唇の熱さが、体全体に伝わってきて、アリシアはその感覚に圧倒されていた。
リアムの舌がアリシアの唇をすり抜けると、彼女はそのまま翻弄される。息が荒くなり、体の力が抜けていくのを感じながら、アリシアはそのまま彼に身を委ねるしかなかった。
彼の魔力が、アリシアの心を支配しようとする。気がつけば、彼女はその魔力に抗うこともできず、彼に全てを任せるような気持ちになっていた。
アリシアは理性を失いそうになる自分に驚き、ただ無意識にリアムの胸にしがみつく。
「先輩……もっと、僕に甘えてください」
リアムに普段より低い声で耳元で囁かれ、アリシアは思わず震えた。彼の手が優しく彼女の髪を撫でながら、再びキスが続いていく。
そのすべてが、アリシアの心を溶かすようだった。
リアムの瞳の中に宿る欲望が、アリシアを鋭く射抜いている。アリシアの魔力も、彼の魔力に絡みつくように反応し、二人はますます一つになっていった。
自分が理性を失いそうだと感じているのに、どこかでそれを許してしまいたいと思っている自分がいる。
アリシアはその感覚に身を任せるしかなかった。何もかもが絡み合い、魔力と共に溶けるような感覚に支配されていく――。
――もう無理。
何も考えられない。
「っ……」
言葉にならない声が喉の奥で震えた、そのときだった。
ふっと、リアムの唇が離れる。
「……あんまり追い詰めると、先輩が壊れちゃいそうですね」
いたずらっぽく微笑んで、リアムはすっと身を引いた。
――解放された。はずなのに、どうしてか心が締めつけられる。
「今日はこれくらいにしておいてあげますね」
リアムは余裕の笑みを浮かべながら、部屋の扉へと向かう。
「ゆっくり休んでください、先輩♪」
軽やかな足取りで去っていくリアムを、アリシアは呆然と見送ることしかできなかった。
そして、残された静寂の中で、一人になってようやく気づく。
――私、完全に翻弄されてた……!
熱のこもった顔を両手で覆いながら、ベッドへと崩れ落ちた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回、アリシア編完結です。
次話『未来の約束〜ずっと、傍にいてほしいんです〜』