突然の襲撃と恋心〜大丈夫です、大好きな先輩が無事なら〜
ある日のことだった。
いつものように、放課後にリアムと演習場で特訓をしていると、突然、演習場の空気が変わった。
魔力を練る手を止め、アリシアは眉をひそめる。
いつもなら涼やかな風が吹き抜けるはずの場所に、じっとりとした不吉な気配が漂っていた。
――何かがおかしい。
視線を巡らせると、演習場を囲むように薄闇が揺らめいているのに気がついた。異様な魔力の膜に覆われ、まるでこの場所が学園の他の空間から切り離されているかのようだった。
そしてーー
「――ついに見つけたぞ、精霊王の血を引く者よ!」
低く響く声とともに、演習場の奥から黒装束の男たちが現れた。
アリシアは即座に魔力を練り上げた。
(狙いは……リアム?)
視線を向けると、目の前にいるリアムが、静かに敵を見据えていた。
「リアム、下がってて!」
「そんなこと、できません!」
敵の魔法が放たれる。
打ち消そうと、反射的にこちらも魔法を繰り出したが、敵の数が多い。焦りで魔力が分散し、全てが防げない。
(ーー避けられない……リアムに当たる!)
アリシアはリアムの前に出て、一か八か防御結界を構築しようとする。
しかし、次の瞬間。
「先輩っ!!」
制止する間もなく、リアムがアリシアの前へと飛び出した。
「リアム!?」
――リアムが攻撃をまともに受けた。
(……嘘)
アリシアの思考が一瞬停止する。
――なんで?
彼はアリシアを庇うように攻撃を受けた。
「リアム……!?」
胸が締めつけられるような感覚に襲われる。
(私のせいで、リアムが……?)
血の気が引くのを感じたその瞬間――
「……許さない!」
熱が、爆ぜた。
心に灯った怒りが、魔力となって溢れ出す。
アリシアは手をかざし、敵へと極大の炎を解き放った。
灼熱の奔流が黒装束の男たちを包み込み、一瞬で焼き尽くす。
「くっ……!」
中心にいた男の手元が光った。
その瞬間ーー黒装束の男たちは跡形もなく消え去った。
焼け焦げた空間に立ちながら、アリシアは大きく息を吐いた。
(……終わった?)
「リアム!」
倒れかけたリアムに駆け寄る。
肩を支えながら、必死にその顔を覗き込んだ。
「っ……馬鹿! なんで庇ったのよ!」
怒鳴る声が震えているのが自分でもわかる。
リアムは薄く微笑みながら、弱々しい声を漏らした。
「大丈夫……です、大好きな先輩が無事なら……」
(こんな時まで、そんなこと……)
胸の奥が締めつけられた。
「……動かないで。今、治癒するから」
リアムの手を握り、治癒魔法を施す。
魔力を流し込んだ瞬間、体の奥が震えた。
ゾクッ……と、甘い感覚が駆け抜ける。
(え……?)
違和感に思わず息を呑む。
リアムの魔力と自分の魔力が触れ合った瞬間、奇妙な心地よさが全身に広がった。
まるで、リアムとキスした時の感覚を凝縮したようなーー
(何……これ……?)
リアムの瞳を覗き込むと、彼も同じように微かに息を呑んでいた。
(まさか……リアムも?)
疑問が浮かんだ瞬間、リアムがそっと微笑んだ。
その笑みが、ひどく甘く感じられた。
(……この感覚は、一体……)
心の奥に、まだ言葉にできない感情と感覚が生まれ始めていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日もう一話投稿します。
次話『揺れる想いと、甘く蕩ける魔力〜僕、頑張ったんですよ?だから、ご褒美ください〜』