毎日のご褒美と揺れ始める心〜キスの後の先輩、すっごく可愛いです〜
「先輩、今日は特訓の前に……お願いします♪」
「……はぁ?」
「僕、今日は魔力が不安定で……キスしないで始めると暴走しちゃうかも……」
ため息をつきながらも、アリシアは目を瞑り、リアムに顔を差し出した。
もう、この流れにも慣れた。
「さっさと終わらせるわよ」
――ちゅっ
軽く触れるだけのキス。
けれど、それだけでリアムの顔は蕩けたようになり、ほんのりと耳まで赤くなる。
「ん……やっぱり、先輩のキスは最高です……」
「……別に大したことないでしょ」
「いえ、僕にとっては世界一ですよ?」
「……っ!」
何気ないリアムの言葉に、アリシアは思わず頬を染める。
(こいつ……本当にさらっと恥ずかしいことを言うわよね……)
「さ、さっさと特訓するわよ!」
「はい♪ でも、先輩」
「な、なに?」
「僕、最近気づいたんですけど……キスの後の先輩、すっごく可愛いです」
「……っ!!」
もう、何なのこの後輩!
アリシアは顔を真っ赤にしながら、リアムを魔法で吹っ飛ばした。
◆
「先輩、次の魔法はもっと高度な制御が必要なんですよね?」
「ええ、慎重にね。まずはお手本を見せるわね」
アリシアは魔法陣を展開し、繊細な炎の精霊を召喚する。
その隣で、リアムは彼女の手元をじっと見つめていた。
「……先輩の魔法って、ほんとに綺麗ですね」
「え?」
「炎なのに、まるで宝石みたいに輝いてる……」
「……そ、そんなことないわよ」
「ありますよ?」
リアムはにっこり微笑む。
「僕、先輩の魔法、すごく好きです」
「……っ!」
不意に真っ直ぐな言葉を向けられて、心臓が跳ねた。
それはただの後輩としての言葉なのか、それとも……
(いやいや、何考えてるの私!)
「ほ、褒めても何も出ないわよ!」
「えー、じゃあ、キスのご褒美でお願いします♪」
「調子に乗るなぁぁぁぁ!!」
アリシアは容赦なく魔法を放った。
◆
ある夜、アリシアは学園寮の自室のベッドで寝返りを打った。
リアムのことを考えてしまう時間が増えた。
「……何なのよ、ほんとに」
あの後輩は、いつも軽口を叩いてはキスを要求してくる。
最初はただの魔力制御のためだった。
だけど――
(……最近、なんかおかしい)
リアムの顔が近づくたびに、心臓がドキドキする。
キスをするたびに、唇が熱くなる。
魔力の制御のため――ただそれだけのはずなのに。
「……私は、リアムのことを……?」
考えかけて、慌てて首を振った。
いやいや、それはない。
彼は後輩で、しかもただの『特訓相手』。
それ以上の関係になるはずが――
――コンコン。
「……ん?」
扉を叩く音。
「先輩、まだ起きてます?」
聞き慣れた声に、心臓が跳ねた。
「り、リアム? こんな時間に何よ……」
「少し、顔が見たくなって」
「……は?」
アリシアは呆然とした。
「顔が……見たくなって?」
「はい♪」
「……こ、こいつ……」
夜中にそんなことを言いにくる男の子がどこにいるの!?
「ダメですよね、夜遅くに。でも……」
リアムの声が少し寂しげになった。
「先輩がいないと、僕……なんだか落ち着かなくて」
「……」
それは、ずるい。
こんな甘い言葉を囁かれたら、意識するに決まってるじゃない……!
「わ、わかったわよ。少しだけ、話しましょうか」
「ほんとですか?」
扉の向こうから、嬉しそうな声が聞こえた。
(……もう、ほんとにずるい)
扉を開けた瞬間、リアムが微笑んだ。
その笑顔が、ひどく眩しく見えた――。
◆
それからというもの、アリシアはますますリアムを意識するようになった。
特訓中も、日常でも、ふとした瞬間にリアムのことを考えてしまう。
(……なんなのよ、これ……)
まるで、本当に恋をしているみたいだ。
だけど、それを認めるのは怖かった。
「先輩?」
「えっ、な、なに!?」
気づけば、リアムが目の前にいた。
「今日のキス、まだですよ?」
「……っ!」
「先輩?」
「な、なんでもないわよ! ほら、さっさと終わらせるわよ!」
「……ふふ♪」
リアムは楽しそうに微笑んだ。
アリシアが自分を意識し始めているのを、ちゃんと分かっているみたいに。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次話『突然の襲撃と恋心〜大丈夫です、大好きな先輩が無事なら〜』