ご褒美付き魔法特訓〜特訓のたびにキスしないとダメですね〜
本日三話目の更新です。
先に『プロローグ 婚約破棄は新たな運命の幕開け』からお読みください。
「……あれ? もしかして、先輩とキスすると、魔力の暴走が抑えられる?」
リアムの呟きが、静かな演習場に響いた。
アリシアは固まったまま、ぽかんと口を開ける。
――何を言っているの、この後輩は。
「え、いや、え? ちょっと待って。何その意味不明な理論?」
「僕もわからないんですけど……でも、ほら!」
リアムは自分の体を確認しながら、驚くほどスッキリした顔をしていた。
「さっきまで暴走しかけてたのに、落ち着きました!」
「いや、だからって……」
アリシアは困惑した。
(魔力の暴走がキスで治まる?そんな話、聞いたことないわよ……!)
しかし、リアムは真剣な顔で言った。
「先輩……! これは重大な発見です!」
「いや、どこが……」
「つまり! これから特訓のたびにキスしないとダメですね!」
「はああ!?!?」
思わず叫ぶ。
なんでそうなるの!?
「いやいやいや、ちょっと待ちなさい! 普通に考えておかしいでしょ!? そんなこと、毎回できるわけ――」
「でも、しないと暴走しちゃいますし……」
リアムがしゅんと肩を落とし、上目遣いで見上げてくる。
(っ……!!)
翡翠色の瞳が、潤んでいた。
エルフ特有の整った顔立ちに、長いまつ毛。
肌は透き通るように白く、耳はほんのり赤い。
――この子、ずるい。
「先輩が拒否するなら、仕方ないです……」
リアムは悲しげに呟く。
「でも、その場合、僕は暴走して周囲を巻き込んでしまうかもしれません……。最悪、学園が燃えたり……ああ、それなら僕、もう退学して山奥で一人で暮らした方がいいのかな……」
「ちょ、待ちなさい!?」
アリシアは慌てて止めた。
「……しょうがないわね」
深いため息をつきながら、リアムの顔を覗き込む。
「でも、一つ条件があるわ」
「条件?」
「特訓がうまくいったら、ご褒美としてキス。それならいいわよ」
「……!」
リアムの顔がぱあっと輝く。
「それ、めちゃくちゃいいですね!」
「よくないわよ!! でもそれなら、少しは真面目に取り組むでしょ?」
「もちろんです! 先輩からのご褒美があるなら、僕、めちゃくちゃ頑張ります!!」
……本当にいいのか、これで。
――こうして、「ご褒美キス付き魔法特訓」が始まってしまったのだった。
◆
「さて、じゃあ今日は水の魔法をやってみましょうか」
「はい!」
リアムは目を輝かせながら、魔力を練る。
「まずは水を出す……っと!」
彼が魔法を発動すると、大量の水が溢れ出した。
「うわああ!?」
「ちょっ……多すぎよ!」
アリシアが防御壁を張ってなんとか抑える。
「うぅ……また制御できなかった……」
「落ち着いて。焦らないで、魔力の流れを意識するのよ」
アリシアはリアムの手を取った。
その瞬間――
「ひゃっ……」
「……?」
リアムがピクッと震えた。
(あれ……? なんか今、反応した?)
アリシアが不思議そうに見つめると、リアムは耳まで真っ赤になっていた。
「ちょ、ちょっと待ってください先輩……! いきなり手を握るのは……」
「は?」
「その……エルフは魔力に敏感で、いきなり先輩の魔力を流されると……」
「………………」
「あと、先輩、顔が近いですし……」
「………………」
――この子、今更何を言ってるの?
「キスはいいのに、手を握るのはダメなの?」
「いや、だって、キスは……えっと……」
リアムはしどろもどろになる。
どうやら、エルフにとって「手を握って魔力を流す」という行為はかなり躊躇するものらしい。
「じゃあ、これからは私はあなたに触れない方がいいのかしら?」
「そ、それは……だ、大丈夫です!さっきは、急に触られてびっくりしてしまっただけなので、もう一度お願いします!」
リアムは焦った顔をして、慌ててアリシアに手を差し出した。
アリシアは再度リアムの手を取り、彼を驚かさないように慎重に魔力の流れを調整する。今度はリアムも集中して魔力をコントロールできているようだ。
「こ、こうですか!?」
水の魔法が再び展開され、今度はきれいな水の流れが生み出された。
「いいわね。バランスが取れてきたわ」
「やった……!」
リアムは嬉しそうに笑う。
アリシアも思わず微笑んだ。
「じゃあ、ご褒美の時間ですね!」
「……!」
リアムは少し身を乗り出す。
(この子、ほんとにキスが目的になってない……?)
苦笑しつつ、アリシアはそっと目を瞑った。
――ちゅっ。
軽く触れるだけのキス。
だが、それだけでリアムは耳まで赤く染めて、ぽーっとした表情になった。
「……ふにゃぁ……」
「ちょ、ちょっと!? 変な声出さないでよ!」
「だ、だって、先輩のご褒美キス、破壊力すごくて……!」
「……もう、知らないわよ」
呆れつつも、アリシアはリアムの頭をポンと撫でた。
(……やっぱり可愛いわね、この子)
◆
「そういえば、リアムってなんで魔力の制御が苦手なの?」
「……それ、言うと驚くかもです」
リアムは少しだけ真剣な顔になった。
「実はエルフの王族は……精霊王の血を引いてるんです」
「精霊王の……?」
「はい。だから、魔力が普通のエルフよりもずっと多いんです。僕は先祖返りなのか、特に魔力が多くて。でも、それが原因で狙われることも多くて……」
リアムの表情が少し翳る。
「もしかして、それで学園に?」
「……はい。僕を狙ってる勢力がいるんです」
まさか、そんな陰謀があったとは。
だが、アリシアは迷いなく言った。
「大丈夫よ。私があなたを守るわ」
「……!」
リアムの瞳が揺れる。
「……先輩……」
「だから、もっと強くなりましょう。私がついてるから」
リアムは、ふっと笑った。
「はい……! 先輩、ほんとに大好きです……!」
――そして、この可愛い後輩は毎日真面目に特訓し、毎日ご褒美キスを要求するようになるのだった。
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次話『毎日のご褒美と揺れ始める心〜キスの後の先輩、すっごく可愛いです〜』