【こぼれ話】キスの続きを、夜が知る
本編からはみ出たこぼれ話です。
「揺れる想いと、甘く蕩ける魔力 〜僕、頑張ったんですよ?だから、ご褒美ください〜(side.Alicia)」「天使で悪魔 〜運命の罠に堕ちて〜(side.Liam)」の後、それぞれの部屋で悶々とする二人です。
似たもの同士です。
《部屋に取り残されたアリシア》
「……っ、ばか」
リアムが部屋を出て行った後、アリシアは崩れるようにベッドに倒れ込んだ。
頬に残る熱が、まだ引かない。唇に残る感触も、肌に残る彼の温もりも、まるで焼き付いてしまったかのように離れない。
彼の腕の中にいた時間――ただ温かくて、心地よくて、でも、心臓が壊れそうなくらいに激しく鳴っていた。
「……もっと、一緒にいたかった……」
ぽつりと呟いて、アリシアは自分の言葉に驚く。
まるで彼に依存するようなその響きに、耳まで熱くなった。
(だって、あんなふうに抱きしめられて、あんなふうに囁かれて……拒めるわけがないじゃない)
もっとキスしたかった。もっと触れていたかった。
だけど、これ以上一緒にいたら、もう止まれなくなってしまいそうで。
リアムの目が、危うく揺らいでいたのを思い出す。自分だって、彼に溶かされてしまいそうだった。
「……っ、だめ、考えない!」
枕に顔を埋めて、足をばたつかせる。
彼の囁く声、優しく絡められた指先、唇が重なる瞬間……どれを思い出しても、頭が沸騰しそうだった。
「ばか、リアムのばか……!」
こんなにも、彼のことで頭がいっぱいになってしまうなんて。
今すぐもう一度会いに行って、抱きしめてもらいたい。
けれど、それが叶わないからこそ、どうしようもなく切なくなる。
――離れたことに、ほっとしている自分もいるくせに。
もっと一緒にいたかったのに、でも、一緒にいなくてよかった。
彼の腕の中で、あのまま流されていたら、本当に戻れなくなっていたかもしれない。
「……でも、やっぱり足りない」
指先でそっと、自分の唇をなぞる。ほんの少しだけ、名残惜しくて。
また、リアムに触れたい。彼に触れられたい。
それが、今はどうしようもなく、苦しかった。
◆
《自室に戻ったリアム》
「……はぁ」
リアムは自室の扉を閉めるなり、壁に背を預けた。
心臓がまだ、異常なほどに高鳴っている。
「やばい……やばいな、これ……」
両手で顔を覆い、ゆっくりと息を吐く。
アリシアの温もりが、まだ腕の中に残っている気がした。
もっと抱きしめたかった。もっとキスしたかった。
いや、それ以上に、あのままじゃ絶対に止まれなかった。
彼女の震える肩、掠れた声、抗いながらも縋るように指を絡めてきた手。その一つ一つが、たまらなく愛おしくて、そして、危険だった。
「……っ、もう少しで、本当に……」
思い出しただけで、喉が渇く。
アリシアが唇をそっと差し出した瞬間、自分の中の何かが決壊しそうになったのを、今でもはっきりと覚えている。
あれ以上いたら、絶対に引き返せなくなっていた。
だから、途中で止めて正解だった。
でも、それが今になって、どうしようもなく悔しくなる。
「もっと触れたかった……」
ベッドに倒れ込み、無造作に髪をかき乱す。
彼女の頬を撫でた感触、細い指の震え、そっと求めるように開かれた唇。全部、全部、たまらなくて――
「……くそっ」
こんなにも彼女を求めてしまう自分が、怖い。
愛おしさが募りすぎて、もうどうしたらいいのかわからない。
今すぐ彼女の部屋に戻って、もう一度抱きしめて、甘い声を聞きたくなる。
でも、それをしてしまったら――きっともう、戻れなくなる。
自分のこの激情は、彼女を雁字搦めにして、逃げられないように閉じ込めて、愛し尽くしてしまうだろう。
たとえ彼女の意思を無視してでもーーそれが怖い。
「……これでよかったんだ」
言い聞かせるように呟く。でも、納得なんてできるはずもない。
彼女を離したことに、ほっとしているくせに。
けれど、彼女の熱が離れていくほどに、ますます欲しくなる。
(次は、どうやってアリシアに触れようか……)
次に触れたら、今度こそ、止まれないかもしれない。でも、アリシアに近づくことは、やめられない。
そんな危うい予感を抱えながら、リアムはゆっくりと目を閉じた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
あと一話こぼれ話を投稿し、その後、番外編を三話予定しています。




