真名の囁き〜運命に導かれし誓い〜
リアム編、最終話です。
前話から少し時間が経ち、リアムの卒業直前の物語です。
アリシアが僕と一緒にエルフの国へ行くと決めてくれてから、僕の心はずっと浮かれっぱなしだった。
でも、それを表に出すのは少し悔しくて、あくまで冷静に『可愛い後輩』を演じ続けている。
でも、後輩でいるのも残りわずかな時間だ。
もうすぐ僕は学園を卒業し、アリシアと一緒にフィルヴェルデに帰る。
卒業に向けて寮の部屋の片付けをアリシアに手伝ってもらいながら、冗談めかして言った。
「ねぇ、先輩」
「なによ」
「僕のこと、ちゃんと最後まで責任取ってくださいね?」
「何を言ってるのよ。責任取る、取らないというものでもないでしょう?」
「えー、じゃあ、僕、卒業したらポイ捨てされちゃうんですか?」
「するわけないでしょ!」
ぷくっと頬を膨らませるアリシアが可愛くて、つい笑いそうになる。僕がちょっとした冗談を言うたび、こうして素直に反応してくれるのが楽しくて仕方がない。
ーーでも、本当はもう、『可愛い後輩』を演じるのも限界だった。
それを決定的にしたのは、アリシアの何気ない一言だった。
「……ねぇ、リアム」
「ん?」
「もう、『先輩』って呼ぶのも、敬語もやめてもいいんじゃない?」
僕は一瞬、言葉を失った。
「……え?」
「だって、私は去年卒業して、もう学園の生徒じゃないし……リアムももうすぐ卒業でしょう? それに……私も、リアムに名前で呼んでほしいから……」
可愛い後輩を演じていた僕の理性が、バキバキと音を立てて崩れるのが分かった。
「……アリシア」
「っ!」
彼女の名を呼んだ瞬間、アリシアの表情が一変した。
驚き、戸惑い、そして――羞恥。
ーーああ、もうダメだ。これ以上、演じ続けるのは無理。
「アリシア、もう一回言って?」
「え、な、なにを?」
「『リアムに名前で呼んでほしい』ってやつ」
「そ、それをもう一回言えっていうの……?」
「うん」
「……バカ」
「照れてる?」
「て、照れてない!」
「そっか。じゃあ、これからはアリシアって呼ぶね」
「っ……もう、勝手にしなさいよ……!」
照れているアリシアが可愛すぎる。
永遠に閉じ込めて誰の目にも触れさせたくないくらいに。
「アリシア」
「なに……?」
「僕、今までずっと遠慮してたんだよ?」
「遠慮?……あれで?」
「だって、アリシアは『先輩』だったし、あんまり調子に乗ると怒られるかなって思って」
「そんな、私、別に怒ったりしないわよ。というか、あれで調子に乗っていなかったの!?」
「うん。すっごく我慢していた!だから、もう遠慮しない」
「……え?」
「これからは、いっぱい口説くから」
「……っ!」
アリシアが硬直するのが分かった。
僕は彼女の顎を軽く持ち上げ、耳元で囁く。
「アリシア」
「……な、なに……?」
「僕のものになってくれるよね?」
「~~っ!?」
「可愛い」
「か、からかわないで!」
「からかってないよ?」
「絶対嘘!」
「嘘じゃない。僕、ずっとアリシアを好きだったし、これからもずっと好きだから」
「……っ」
「アリシアは?」
「そ、それは……」
アリシアが小さく震えているのが分かる。
僕は彼女の頬に手を添え、そっと唇を重ねた。
「んっ……」
アリシアの魔力と僕の魔力が溶け合い、心の奥から甘い痺れが広がる。
「……リアム……」
「うん、何?アリシア」
「ずるい……」
「何が?」
「こんな……こんなの、知らなかったわよ……」
「何を?」
「リアムが……こんなふうに私を……っ」
「好きにさせるのが上手いって?」
「~~っ!!」
僕はアリシアの耳元に唇を寄せ、甘く囁いた。
「もっといっぱい、アリシアに僕を好きにさせるよ」
「っ……ばか……!」
「ねぇ、キスして?」
「は……?」
「今までほとんど僕からばっかりだったから。アリシアからも欲しい」
「っ……そ、そんなの……」
「僕、卒業までいっぱい頑張ったんだけどなぁ……」
「な、なにそれ……」
「ご褒美、ほしいな」
「~~っ!!?」
アリシアは顔を真っ赤にして、しばらく葛藤したあと、小さく息を吸い込んだ。
そして、ぎゅっと目を閉じて――
「……っ!」
小さく触れるだけの、控えめなキス。
でも、それがどれだけ愛おしいものか、僕は痛いほど分かっていた。
「ありがとう、アリシア」
「っ……もう、ほんとに……バカ……!」
アリシアがそう言った瞬間、僕は彼女の手をそっと握った。
「……じゃあ、もう一つ、いい?」
「……なによ」
「アリシアには、僕の『真名』を教えるね」
「真名……?」
「エルフにはね、生涯の伴侶にしか教えない、本当の名前があるんだ」
「っ……生涯の伴侶って……!」
アリシアの瞳が大きく揺れる。
「僕の真名は――【リアンディール】」
彼女の耳元でそっと囁いた瞬間、二人の魔力がふわりと溶け合い、熱を持ち始める。
「……っ、これ……」
「アリシアだけが、二人きりの時に呼んでいい名前」
「……【リアンディール】……」
彼女が恐る恐るその名を口にした瞬間、僕の体の奥がじんわりと甘く痺れ、心の芯が震えた。
「っ……!」
真名を呼ばれた感覚に、体が熱くなる。
そして、それは呼んだアリシアの方も。
「……ずるい」
「何が?」
「こんなの、呼びたくなるに決まってるじゃない……」
「……じゃあ、いっぱい呼んで?」
「っ……ばか……」
そう言いながらも、アリシアの頬は熱を帯び、魔力が僕に絡みつくように揺らめいていた。
その瞳は、揺れながらも真っ直ぐで――まるで僕の心の奥を覗き込むようだった。
「……リアンディール……」
彼女が真名を呼ぶだけで、体の奥が痺れる。
まるで魔力に直接触れられたような感覚に、身体が震えた。
堪らなくなり、アリシアにそっと、唇を寄せる。
柔らかな感触が重なり、何も考えられなくなる。
「アリシア……っ」
僕が自制を取り戻す前に、彼女の指が胸元をぎゅっと掴む。
拒まれるどころか、もっと求められているのだと、その仕草で悟る。
――もう、遠慮なんていらない。
僕はアリシアを抱き寄せ、遠慮なく唇を塞いだ。
何度も、深く。
アリシアの甘い吐息が混じり、彼女の魔力が蕩けるように絡みつく。
もう抑えられない。
「……リアンディール……もっと……」
アリシアのかすれた声が耳を打つ。
震える唇が僕の名を紡ぐ。
「……っ! アリシア、それ、反則……!」
理性が、一気に焼き尽くされる。
僕はアリシアを強く抱きしめ、さらに深く、何度も貪るように口づけた。
彼女もそれを拒まず、むしろ受け入れるように僕にしがみつく。
唇を重ねるたびに魔力が絡まり合い、溶け合い、二人の境界線が曖昧になっていく。
もう、離れられない。
「アリシアのすべてが欲しい……もう、絶対に手放せない」
熱に浮かされたように呟くと、アリシアは潤んだ瞳で僕を見つめ――そっと、また唇を寄せてきた。
アリシアの唇が再び触れた瞬間、僕はもう完全に抗えなくなっていた。
何度も、何度も重ねた唇は、最初の頃の遠慮がちだったものとはまるで違う。
アリシアも、戸惑いながらも僕にしがみつき、求めるように唇を寄せてくる。
「アリシア……っ」
彼女の頬を包み込むように手を添えると、潤んだ瞳がそっと瞬いた。
細く震えるまつげ、その奥に揺れる想い。
「……リアンディール……」
また、僕の真名を呼ぶ。
それだけで、体の奥が痺れて、甘い熱がこみ上げる。
「アリシア……もう、今日は呼ぶの、禁止……」
「やだ……もっと、呼びたい……」
ふわりと微笑みながら、彼女は腕を伸ばして僕の首に絡めた。
その仕草が、たまらなく愛おしくて――再び、深く口づける。
「……んっ……」
小さく甘い声が洩れる。
僕はアリシアの細い腰を抱き寄せながら、彼女の体温を確かめるように唇を這わせていく。
「……アリシア、ほんとに、ダメ……止まれなくなる……」
「……リアンディールのせいよ……こんなに……止めないで……」
彼女の言葉に、さらに理性が揺らぐ。
アリシアも僕と同じ気持ちで、僕を求めてくれている。
そのことが、たまらなく嬉しくて、愛おしくて――
もう、彼女を離す理由なんて、どこにもない。
僕はアリシアをそっと抱きしめ、何度も優しく、そして深く、口づけた。
彼女もそれを受け入れ、まるで魔力が溶け合うように、僕たちは絡み合っていく。
「アリシア……大好きだよ……」
その言葉に、アリシアは少し恥ずかしそうに笑いながら、そっと僕の胸に顔を埋めた。
彼女はしっかりと僕の手を握り、決して離さないようにしていた。
僕も同じだ。
もう、絶対に離さない。
「アリシア」
「なに……?」
「これから一生、ご褒美頂戴ね、アリシア」
「~~っ!! もう知らない!」
顔を真っ赤にして僕の胸に飛び込んでくるアリシアを、僕はしっかりと抱きしめた。
「愛してるよ、アリシア」
「……っ」
彼女の心臓の鼓動が、僕の胸に伝わってくる。
この先、どれだけ時が流れても、この瞬間の甘さを忘れることはない。
ーー僕の愛しい人、アリシア。
これからはずっと、一緒だ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
よろしければ、評価、リアクション、ブクマいただけると幸いです。
次回から、二人のアフターストーリーを投稿します。
次話『エルフの国フィルヴェルデ』




