交わされる約束〜運命は僕らの手に〜
アリシア編の最終話『未来の約束〜ずっと、傍にいてほしいんです〜』のリアム編です。
アリシア編はここまでですが、リアム編はあと一話あります。
アリシアとの特訓は、更に甘い時間になっていた。
気づけば一日に何度もキスをするのが当たり前になっていた。彼女は僕のキスを、もう嫌がっていない。むしろ、求めているようにも見える。
「え、もしかして、先輩……僕とのキス、嫌じゃなくなりました?」
「ち、ちがっ――」
「それとも、好きになっちゃいました?」
僕がからかうように顔を近づけると、アリシアは耳まで真っ赤に染めた。
――可愛い。
堪らなく愛おしくなり、もう一度唇を重ねる。
「……んっ……」
アリシアの唇が触れるたびに、僕の胸の奥が甘く痺れる。それは、魔力のせいだけじゃない。
彼女を抱き寄せ、こうして何度も触れるたびに、僕の中の何かが確実に変わっていく。
最初は、ただアリシアを僕に夢中にさせるつもりだった。
特訓という名目でキスをねだり、彼女の心と体に僕の存在を刻み込む。
そうやって、少しずつ、僕なしではいられないようにすればいい。
――そう思っていたはずなのに。
今、僕の心を支配しているのは、そんな計算なんかじゃない。
キスをするたびに、もっと触れたくなる。
彼女の名前を呼ぶたびに、もっと強く抱きしめたくなる。
離れたくない。ずっと、ずっと、彼女の隣にいたい。
そう願ってしまう自分に気づいたとき、僕はもう後戻りできなくなっていた。
アリシアのいない未来なんて、想像もできなくなってしまった。
「……ねぇ、リアム」
ふいに、アリシアが僕の名前を呼んだ。
僕の魔力に蕩けていたはずの瞳が、どこか真剣な色を帯びている。
「あなたは、卒業後はどうするの?」
心臓が、強く跳ねた。
この話題は、できれば避けたかった。
「どう、って?」
「学園を卒業したら、エルフの国に帰るんでしょう?」
彼女の言葉に、僕は言葉を失う。
アリシアは今年、卒業する。僕は来年。
卒業後、僕はアリシアのそばに残る理由を持てるだろうか。
いや、待てない。
僕はエルフの王族。いずれ祖国へ帰らなければならない。
「……はい」
絞り出すように答えた瞬間、胸が痛む。
僕が答えたことで、アリシアも何かを感じ取ったのだろう。
「そうよね」
小さく呟いたその声が、どこか寂しげだった。
その表情を見た瞬間、僕はどうしようもなく衝動に駆られた。
――言ってしまえ。
彼女を離すな。
「先輩」
声が震えそうになるのを、必死で抑える。
「……なに?」
アリシアがこちらを向く。
迷いが生まれる。
僕がこの言葉を口にすれば、彼女はきっと戸惑うだろう。
もしかしたら、悩ませてしまうかもしれない。
でも、それでも、伝えずにはいられなかった。
彼女の手を取りーー告げる。
「僕の国に、一緒に来ませんか?」
ーー言ってしまった。
アリシアの瞳が、驚きに揺れる。
「え?」
僕はもう、引き返せなかった。
「ずっと、傍にいてほしいんです」
掴んだ手に、力がこもる。
「僕はずっと先輩が好きでした。だから、一緒に来てほしい」
これは本音だった。僕は、アリシアがどうしようもなく欲しい。
でも同時に、無理に選択を迫るようなことはしたくなかった。僕の言葉が、アリシアの自由を奪うものになってはいけない。
彼女が何かを諦めて僕の国に来るのではなく、自ら望んで来てくれることを、僕は願っていた。
だから、この告白に迷いがないわけじゃなかった。
もし、彼女が「行けない」と言ったら――僕は、彼女の答えを受け入れなければならない。
それがどんなに辛くても。
けれど――
「……ずるいわよ、こんなの」
アリシアが、僕の手をぎゅっと握り返した。
「ずるくても、いいです」
次の瞬間、僕はもう彼女を抱きしめていた。
震える唇を重ね、想いを伝えるように優しく触れる。
魔力が溶け合い、心まで蕩けるようだった。
「……いいわ、リアム。私、あなたと一緒に行く」
その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた何かがほどけた。
「本当ですか?」
「ええ。でも、一つだけ条件があるわ」
僕は真剣に頷く。
「何でも言ってください」
「あなたの国で、ご褒美をねだるのは禁止」
「えー!? それは無理です!」
「無理じゃないわ!」
彼女の表情が柔らかく緩む。
僕も、堪えきれず笑ってしまった。
僕がアリシアを愛しているように、彼女も僕を想ってくれている。
お互いが望んで、手を取ることができた。
その事実が、何よりも嬉しかった。
「ふふ、冗談よ。……まあ、半分はね」
「ええっ、半分は本気なんですか!?」
「当然でしょ。あなた、甘えすぎなんだから」
アリシアがふっと微笑む。
僕はその笑顔を、一生守りたいと思った。
「でも……本当に、ずっと一緒にいてくれる?」
アリシアの瞳には、不安の色が浮かんでいる。
そんなの、当然だ。
「もちろんです」
僕は、彼女の手を強く握った。
「先輩が嫌だって言っても、ずっと隣にいますから」
アリシアは、少しの間じっと僕を見つめ――そして、ふっと微笑んだ。
「……ふふっ、それなら安心ね」
繋いだ手の温もりが、心の奥までじんわりと染み込んでいく。
彼女が、僕を選んでくれた。
それだけで、どんなものにも代えがたい幸福感が胸を満たしていく。
「……ありがとう……絶対に、幸せにします!」
ただその一言に、僕のすべての想いを込めた。
誓いのように囁くと、アリシアはふっと微笑んで、僕の手をぎゅっと握り返した。
「ええ、期待してるわ」
その仕草が、何よりも彼女の覚悟を示していた。
これから先、どんな未来が待っていても、この手を絶対に離さない。
ずっと、二人で一緒にーー。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回、リアム編最終話です。
次話『真名の囁き〜運命に導かれし誓い〜』




