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イタコノイド終

 斬罪山の麓でバスを待つ。二日前に電話した時にはこの時間に着くよう頼んだはずだが、民営バスは時間にルーズだ。


「暑い……」


 隣で暑さに負けているのは垂出祥子弁護士。いや、此木芽衣。俺の詐欺仲間で、バス会社に電話した後、彼女にも連絡を入れて今回の件に協力してもらった。本来来るはずだった衝立弁護士がどうなったのかは彼女のみぞ知る。


「あの天候を変える人に頼んで曇りにして貰えれば良かった……」


 道陸たちは怒って出て行った時にはすでに帰ってしまったらしく、何人もいた道陸衆、玄関先で倒れたあの男もいつのまにかいなくなっていた。


「つーかカタルさぁ、弁護士が偽物とはいえ書類は正式のものだからあの家の所有権はカタルにあるわけじゃん。放ったらかしていいわけ?」


 まあ今あそこは危険だけどと此木。実際、今家中をあの白髪と錯乱の偽扇たちが血相を変えて探り回っていることだろう。目当てのお宝どこにもないことに気づくまで。


「ああ、重要なものは既に白山家のワゴンに運んである。それ以外の現金だったり証券だったり高価なものは全部この中だ」


 そう言って背負うリュックを指差す。よくコンゲームの終わりは札束を撒き散らし高笑いする所だが、いかんせん場所が悪い。


「ふーん。それでその岩が電話で言ってたお宝ってわけ?」

「ああ。だが、これは俺たちの物じゃない」


 手に持った丸い岩に目を落としそう言う俺に此木は目を丸くして驚く。


「あんたがそんなことを言うなんてね」

「心外だな、俺は約束を守る男なんだが」


 どの口が言うかと悪態つけられる。


「あーてか、もう! 暑い!」

「あ、おい辞めろよ借り物なんだぞ」


 ブカブカのスーツを地面に叩きつけられそうになり慌てて止める。リュックにはもう入らないから此木には帰るまで着ていてもらいたいのだ。それに、手に持ってシワでもついたらアイロンをかける必要が出てくる。


「あらあら元気ですね」


 そんな俺たちのやり取りを事解は笑って見守る。彼女が腕に抱える人形の目は、覗いてみても何も起こらない。


「梓月たちとはもういいのか?」

「ええ。扇ちゃんは話さなくてもいいのですか?」

「あいつらが此処に来ればいつでも話せるからな」


 嘘つきと此木に呟かれ、詐欺師だからなと返す。そうして事解の後ろから白のワゴンと続いて赤いアウディが降りてくる。二つの車は俺たちの前に止まり、窓が開閉される。


「扇、やっぱりお前が本物だって信じてたぜ! 今度、梓月のこと取材してやってくれよ! あいつ雑誌のインタビューすっぽかして来たらしいんだわ」

「ああ、そのうちな」

「扇君、いつでも家に遊びに来ていいからね」

「垂出弁護士も本日はありがとうございました」

「いえいえ此方こそですぅ」


 猫被りと此木に呟けば、黙れと返される。ワゴンの後、今度は梓月のアウディが俺たちの前に止まる。窓が開き長い沈黙。梓月は精一杯の笑顔を作って言った。


「扇……またね!」


 ただその一言。走り去るアウディに俺は手を振った。


「ああ、またなー!」


 見えなくなるまで手を振って、さてとと事解に向き直る。


「ほらよ」


 俺は霊宝を渡そうとするが、それを意外に思ったのか事解は戸惑った様子を見せた。


「いいのですか?」

「何が? ……もしかして俺が約束破りの最低野郎だと思ってる?」

「いえ、そうではありませんが……」


 歯切れの悪い事解の手に霊宝を握らせる。拳大の岩だが、彼女の手にはやや大きい。それからとポケットにしまっていたもう一つの青い霊宝を鎹ちゃんの目に嵌める。事解のゴスロリ喪服には飾りポケットしかなく霊宝を入れれば膨らみでバレるリスクがあったため俺が持っていた。そしてもともと嵌めていた宝石は此木に持ってきて貰った模造品。


「にしてもバス来ねぇな」


 約束破りのクソ野郎であるバスの運転手は指定の時間より三十分ほど遅れているが、道の先を見ても一向に来る気配がない。早く来ないと伊賦夜坂たちが下山してくるかもしれない。逃走経路を自分の手で用意してなかったのは失態だったか。


「あの……! 聞かなくていいんですか? 扇ちゃんのお母様のこと」


 俺は事解を見ずに答えた。


「扇ちゃん? 誰かと勘違いしてないか?」


 それは別れを意味する名乗り。二度と菊理扇に戻らないという意思表示。


「俺は名尾騙。これまでもこれからも、何処にでもいる普通の詐欺師だぜ?」

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