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雪解け2


 次の日。積もった雪をそこそこ融かす春の陽気だ。いい天気だと気分も不思議と晴れる。

 ふと、昨日の会話を思い出してみる。いろいろと情報過多だったな。


 以前の『彼』は、最低な言動で私を突き放そうとしていた。しかし今はそうじゃないと判明。『必ず帰る』約束はついに果たされ、二ヶ月くらい前にかる〜く取り付けた『逃げない』の約束も快諾。

 やばいこれ本気の脈アリだ。と、内心飛び上がってた。

 今この瞬間もニヤニヤしてしまう。ほんとに、意地悪を言わず本音を吐く彼の破壊力ときたら。彼の前で泣いちゃわなくて良かった。久々にちゃんと話せたこと、少しでも本心を打ち明けてくれたこと、私を拒絶する気はもうないこと。嬉しすぎた。久々に食事をOKされたのも最高だった。


 まあ、あいつとの会話をしっかり記憶している私は異常かもしれない。就寝前の時間を使って、その日のうちに話した内容を必死に思い出して全部文字起こししてるなんて、知られたら絶対ドン引きされるだろう(流石に酩酊(めいてい)してる時や情報量が多くて処理しきれないときは無理だけど)。彼と言葉を()わすことがあまりにも幸せだから仕方ないでしょ。



 そうやって心を踊らせながら仕事をこなしていると、北方(きたかた)さんに遭遇した。あまり図書館には来ないが、私にわざわざ挨拶しに来てくれているらしい。


「この前食事行ってるの見たよ~~」

「目撃されてたとは……」

「目立つもんねえ」


 北方さんは元気いっぱいだ。私がついに泥酔(でいすい)した『彼』に出会えたという話をすれば、そのベイビーフェイスにみるみる満面の笑みが咲く。加えて今度もご飯に行くことを報告すると、「デートだ!!」と騒がれてしまった。


「立派なカップルだねぇ」

「まだ付き合ってないです。今後交際する予定ですかr……いや、ないですけど」

「そうだったの? もう付き合ってるのかと思ってたよ~」

「ちがいます! だって、まだこっ……」

「こ?」

「告白、してないから……」

「暁ちゃんが?」


 精一杯ためらってから、こくりと頷く。


「そんなの思いきっちゃえ。当たって砕けろだよ。あ、でも二人きりの食事の後とかのほうがいいと思うな。ムードが大事だし……」


 私の細い肩に両手を置かれてそう言われた。

 でもそれはなんか嫌だなと思って、北方さんへの相談内容を頭の隅に追いやった。なんかごめんなさい。


 ていうかそもそも、あいつが『好きで悪いか』といった大昔のあれはどうなったんだと思う。すぐに取り消された幻の告白だ。あれがあったから、私は彼に想いを伝えられないでいる。

 それを形ある言葉にしてしまえば、彼が私に向ける認識は必ず変わるだろう。私の胸の内の感情も、もしかしたら外へ発散されて消え失せるかもしれない。逆に強まるかもしれない。変化に対する、根拠のない恐怖がある。


 何より私が先にこの気持ちを伝えたなら、なにかの勝負に負けてしまうような気がした。


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