Side AM - 634(-1093) - 1 - しごとがおわらないぞ! -
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「大魔導師様、魔獣の討伐依頼が・・・」
「大魔導師殿、陛下との会合は・・・」
「大魔導師様、魔導士協会の・・・」
「えぇい!、いっぺんに喋るな!、そこの机に置いておけ!、後で対応する、私の身体は一つしかないのだぞ!」
コンコン・・・バタン!
「大変でございます!、大魔導士様!」
「やかましいわ!」
「ひぃっ・・・」
「いや・・・怒鳴ってすまない、用件を書いてそこに置いておいてくれ、後で対応する」
「今日の大魔導士様は相当機嫌が悪いな」
「仕方ないだろ、後から後から・・・あれほど仕事を持っておられるのだ、俺はあのお方が休んでいる所を見た事がない」
「そのうちぽっくり逝きそうだな」
「おい、不敬だぞ、身分こそ王族や上級貴族より低いが始祖王様と共にこのローゼリア王国を作ったお方だ、本人の希望であえて低い身分で居るらしい、狂信的な崇拝者も付いている、迂闊な事は言うな」
「悪い、気さくな方だからつい同僚のような気持ちで接していた」
「まぁ俺も大丈夫かな・・・とは思っているんだ、だが大魔導士様の仕事量に対応できる人間は居ないだろ」
「・・・」
「今でこそ穏やかな性格になられているが昔は恐ろしい方だったと聞いている」
「あ、それな、俺、最初に会う時緊張してさぁ、歴史の本に書かれてる大魔導士様はすげぇ恐ろしいからな」
「厄災の悪魔・・・か」
「おい、控えろ、本人の前でそれ言うんじゃないぞ」
「でもさぁ、今の大魔導士様なら「ははは、私も昔はやんちゃだったんだよ」って笑って済ませそうだぞ」
「それな」
「ふぅ・・・終わらない・・・仕事が終わらないぞ!、何故だ!、魔力を循環させて疲労を飛ばしながら10日、そういえば寝てないな、浄化の魔法を使っているから臭くはないが、いい加減家にも帰りたいし風呂にも入りたい・・・」
「・・・」
「そう言えば、20日前に着任した新しい私の助手はどうした」
「・・・体調を崩して休んでおります、心が折れている様子でしたのでおそらくそのまま退任されるのではないかと・・・」
「なん・・・だと・・・、これで何人目だ」
「83人目でございます」
「代わりの人員は、確保しているのだろうな」
「・・・」
「・・・いやそこで「はい」って言ってくれ、・・・言えよ!」
「・・・」
「君が助手になってくれれば助かるのだが・・・」
「私はこの国の宰相でございますので」
「そうだったな、優秀だから助手に誘おうと思っていたら陛下に取られたんだった・・・あのクソガキ・・・」
「ぐぬぬ・・・いよいよまずい、体力の限界だ・・・だが・・・だが!、来年の税率を決めねば属国へ指示ができぬではないか!、そういえば昨日の手紙に属国の一つから「いくら納めれば良いのだ」と書かれていたな・・・、向こうの王には貸しがある、少し待ってもらおうか・・・」
ぽん!
「ひぃっ!、大魔導士様!・・・そのお姿は・・・」
「(い・・・いかん!、油断したら幻惑の魔術が切れた!)、・・・ぬぅぅん!」
シュッ・・・
「私は疲れているのでしょうか・・・今、大魔導士様が白髪の女の子に見えたのですが・・・」
「は・・・ははは、疲れているのだろう宰相、少し休んだ方がいいぞ」
ぽん!
「(いかんまた切れた・・・ぬぅ!、もはやこれまでか)、・・・ふんっ!、ぬぅぅん!」
シュッ・・・
「大魔導士様・・・また女の子に」
「ははは、驚いたかね、建国前に一度魔族と戦った事があってな、死闘の末に倒したのだが、最後に油断をして不覚にも呪われてしまったのだよ、今のように疲れが限界になると少女になる呪いをかけられたのだ・・・おのれ、憎き魔族め!」
「そうだったのですか・・・」
「この事は秘密にしておいて欲しい、恥ずべき過去なのだ」
「はい・・・」
「(苦しいがうまく誤魔化せたか・・・)、少し隣の部屋で仮眠をとる事にしよう、起こさないでくれ、死ぬほど疲れてる」
「・・・かしこまりました」
「あれからかなり経つが、助手の代わりはまだ来ないのか?」
「はい、特に何も・・・」
「陛下に謁見の申込を頼む、用件は私の業務について話があると伝えてくれ」
「用件を聞くと逃げられるのでは?」
「そうだな・・・だが一応公式の謁見だ、嘘はまずいだろう・・・謁見できなければ私はしばらく失踪すると脅せ」
「かしこまりました」
私は城の騎士の後について陛下のいる部屋に向かっている、今こうしている間にも私の執務室には書類が積み上がっているのだろう。
「謁見の間ではなく王族が使うプライベートな部屋、そして公式な「謁見」ではなく「雑談」か・・・あのガキ・・・」
「どうぞお入りください」
「ありがとう」
ギィ・・・バタン
「お時間をとって頂き感謝します、陛下」
「そのような言葉遣いは不要です、アベル様、ここは宰相と影と私専属のメイド以外人払いをしています」
「分かった、では遠慮なく・・・」
「あぁ、そんな所に立っていないでお座り下さい」
「レミ坊・・・いやレミントン君、君もそんなよそよそしい言葉遣いはするな、気持ち悪いぞ」
「では昔のように・・・アベルおじさま、話って何?」
「レミ坊、君はエルヴィス・ディアマンテ・ローゼリア・・・何世だったかな?」
「えと、7世?」
「何故疑問系なんだよ、そうだった、始祖王より数えて君で7代目だ、歴代の王には散々言ってきた事だが、人手不足を何とかしろ、私は今日で23日まともに寝ていない」
「それで死なないの凄いなぁ」
「いや、死にそうだからここに来た、私の本業は魔導士であり、魔法騎士だ、何故私が200年以上文官や大臣の真似事をしなければならないのだ、しかも普通通り魔法騎士の仕事もあるのだぞ、後継を育てろ、誰でもいい・・・事はないが・・・誰か優秀な奴を寄越せ」
「それは昔おじさまが、大規模な汚職や国家反逆罪って名目で大臣や高官を皆殺しにしちゃったんだから仕方ないんじゃない?」
「人聞きの悪いことを言うな、そこのメイドの娘が怯えているではないか、私は摘発しただけで・・・最近は直接殺してはいない、処刑を許可したのは歴代の王だ」
「人の募集はしてるんだけどね、貴族の多くは金に汚い、賄賂を受け取ったり身内を優遇したり・・・問題が多いの、それと平民で優秀な人は汚職や失敗をすると大魔導士様に殺されるって噂が広まってるから怖がって誰も来てくれない」
「私は失敗したくらいでは殺さないぞ!」
「それにね、おじさまって朝から夜中まで猛烈に仕事してるでしょ」
「やらないと国が大変な事になるからな」
「新しい子が入ってもその姿を見て、この仕事は自分には無理だって思うわけ、で、みんな辞めちゃう」
「・・・だが何とかしないと私が居なくなったらどうするのだ!」
「そう思ってるんだけどね、おじさまの仕事をみんなで分けるなら70人くらい文官が必要なの、それを管理する大臣も各部署に必要でしょ、そうなると・・・ね」
「何が「ね」なのだ」
「いや、今うまく回ってるから自分の代は今のままでいいかなって・・・父上も言ってたしお祖父様も言ってた」
「なん・・・だと・・・」
「でも大臣や文官、魔法騎士、お給料人数分総取りでしょ、小国の国家予算くらい毎年おじさま稼いでるんじゃないかな」
「金があっても使う暇がなければ意味がないぞ、美味そうな料理を食う金はあるが食いに行く暇がない、私だって王都の美味い店やスイーツを食べ歩きたいのだ、何とかしろ」
「うーん、どうしようかなぁ」
「私には始祖王がくれた王命の拒否権がある、これはローゼリア王国が存在する限り有効だ、私が今まで黙って国のために働いて来たのは王命ではないのだぞ、初代ローゼリア国王・・・エルヴィスが死に際に「国を頼む」と言ったからだ、ただの友人との口約束だ、国王が替わって私に依存するのはいいが度が過ぎているぞ」
「それは分かってるんだけど、少し待ってほしい、お願いおじさま!」
「少しとはどれくらいだ、100年って言うんじゃないだろうな・・・おい目を逸らすなよ!」
「じゃぁ、人をすぐに増やそう、素行に問題があれば僕に言って、処分するから、・・・それから引き継ぎはできる?」
「あぁ、150年前からいつでもできる状態にしてあるぞ」
「わぁ・・・」
「それから宰相・・・キャサリン嬢もできれば欲しい・・」
「あー、キャサリンちゃん、おじさまの後ろで思いっきり首を横に振ってるよ、それに彼女はダメだよ、宰相の仕事がある、これ以上仕事を増やすと泣いちゃいそうだ」
「私も魔法騎士団の仕事があるのだが・・・それに私だって泣くぞ」
「おっさんの涙と可愛い女の子の涙、価値が違うでしょ」
「こいつ・・・、まぁいい、人の手配をすぐにやってくれ」
「わかりました、おじさま」
※大魔導士様の外見はザ・ポリスで歌っていた頃のスティングさんっぽい感じです。
アメリア・セーメインさん(634歳)
読んでいただきありがとうございます。
諸事情により恋愛要素はほとんどありません、女性は平たい胸の人しか出てきません、男性は筋肉モリモリマッチョマン多いです、パロディ要素あり、苦手な人は注意してくださいね。
趣味で空いた時間に書いている小説につき不定期投稿です、本編のリーゼロッテさんのお話とは違い、まったり更新です。
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