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殲滅のマタドール   作者: ユリグルイ
殲滅のマタドール 4thOrder
90/121

殲滅のマタドール:89話 TheViper

「ナスターシャ!後ろに下がれ!」


「ま、まだ……やれるわ!」


脇腹を押さえながら立ち上がったナスターシャを突き飛ばす様にイングリットが駆け寄ると床へと倒れ込む。その背中を掠め、タオの放つ変化自在に収縮し、あらゆる角度から獲物を狙う一突きが殺気を纏い突撃する。


背中に生暖かい液体が垂れるのを感じながら素早く身を起こすと、急激な速度で近付く殺意に勘付きナイフを振るう。


火花を散らし激しい衝突音を奏でながら刃先をズラされた凶刃は目標の部位から外れながらも、その執念を示す様にイングリットのローブ越しに肩を抉った。


「あぐぅっ!……ク、ソ!……」


「ヒャハハハハハッ!いいわぁ、苦痛に顔を歪めるアンタ……素敵、素敵、素敵ぃぃぃぃぃっ!!濡れちゃう♡感じちゃう♡イッちゃいそうぅぅぅぅぅぅぅ!!♡」


狂気を滲ませる絶叫を上げながら異常者は再び蛇の様に伸びる剣を振るった。相手が傷付き、血を流す度に背筋を震わせる快楽が足をガクガクと揺らし、唇から熱い吐息と唾液を零させた。


肩を押さえる相手を見ながら喉が裂けんばかりの声を上げて笑うフェイの死角を突くように、中腰で素早く間合いを詰めたナスターシャは無言のまま冷たい殺気に満ちた目を開きサーベルで相手の胴を突こうと手を伸ばす。



「ダメよぅ?私のお楽しみを邪魔したらぁ……」


「なっ……」


「私の目標はあくまでイングリット一人だけ……アンタはどうでもいいんだからぁ……」


もう片方の手で腰の鞘から青龍刀を引き抜いた女は片手の動きのみで渾身の突きを弾き飛ばす。そして、バランスを崩すナスターシャの血の滲む脇腹に硬い膝を叩きつけ、その半身を大きく突き上げた。


「がはぁっ!お、えッ……」


「お前等どうでもいい……私達の邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」


「あがっ!……」


握り込んだ刀の柄を後頭部に叩き付けると、小さく声を漏らしながらナスターシャは気を失った。肩で息をしながらダークエルフの暗殺者は改めて相手に向き直ると、激しい怒りを即座に沈め再び歪み切った笑みを浮かべた。


床に崩れ落ち小刻みに体を震わせるパートナーを見てイングリットは表情を歪めると、小さく声を漏らしながら素早くローブの裾に手を入れ暗殺用の投擲武器を相手に向け投げつける。


鋭く尖った先端を持つその杭は相手の顔面目掛けて飛翔し……そして、斜め下から伸びて来た魔剣の剣先により迎撃された。


しかし、それは彼女の目論見通りだ。その隙に駆け出したイングリットは相手に向かって絶叫を上げながらナイフを振り下ろす。しかし、その一撃は唇の端を吊り上げながらもう片方の武器を持ち上げた相手に防がれる。ナイフによる一撃をいなしながらも、フェイの目は間近の相手を見てはいなかった……見ていたのは、彼女の背後から迫る蠍の尾針の様な魔剣の剣先だった。


「アヒャヒャヒャヒャ!!心臓を貫いてやるぅぅぅぅぅぅぅッ!!」


狂気に満ちた絶叫を女が上げた瞬間、イングリットは第三撃を冷静に……だが、怒りと殺意を滾らせる雄叫びを上げて放った。腕を持ち上げると、握り込んだ拳を相手の頬目掛けて全力で叩きつけた。


「うぅぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


拳骨が硬い相手の頬に食い込み、そして頭蓋骨に守られた脳を激しく揺さぶる。


「おぶぅっ!!……」


唇から大量の血液を散らしながら、その軽い体は大きくよろめくと部屋の端に置かれた人間の骨格を何体か巻込みながら大きな音を立てて地面へと崩れ落ちる。


そんな相手を見ようともせず呻き声を漏らすナスターシャの体を抱き起こすと、イングリットは焦りを感じさせる声と表情で叫んだ。


「ナ、ナスターシャ!大丈夫か!?しっかりしろ!……」


「……イ、イングリット……」


「平気か!?怪我は!?……」


「……大丈夫、これぐらい……」


汗を滲ませつつ笑みを浮かべる相手の頬に手を添えると、血液を滴らせる痛々しい傷口を晒しつつも気丈にそう答える相手を見て安堵した様に小さく息を吐いた。


「……あの、剣は……何なの?……」


「……恐らくグエンが作り上げた物だろう。奴は魔導兵器の開発にも力を注いでいる、自分の意志で自在に長さや動きをコントロールできる魔剣を作り上げていたとしても不思議ではない……」


「……まったく、本当にアンタの国の人間は芸達者な奴ばかりなんだから……」


痛みに顔を歪めつつ、皮肉を語る彼女を見て微笑むとイングリットは表情を引き締め視線を倒れ込む相手へと向けた。


既にダメージから立ち直っていたのか身を起こしたその女は床にへたり込んだまま両手に何かを抱え目を見開いていた。それは倒れる際に体がぶつかり、床へと崩れ落ちた人間の骨だった。フェイは両手に抱えた頭蓋骨を見て小さく声を漏らすと、突如それを胸元で抱き締めながら不安定な感情を爆発させた。彼女の抱える頭蓋骨は半分砕け、ポッカリと空いた穴を覗かせていた。



「う、う、うぅぅああああああああああああああああああっ!!よくも、よくも、よくもぉぉぉぉぉぉぉっ!!私の、お姉ちゃんを!!……」


−−−−−−−−  


フェイと名付けられる事になるダークエルフは血と腐敗臭の中で育った。彼女のようなダークエルフはそんな社会の中で差別の対象として蔑まれてきた。不満や欲望をぶつけられ、なおかつエルフ族の特徴でもある美しい顔立ちと扇情的な肉体を持っていた彼女達は男女問わず欲望の捌け口として利用されていた。


彼女の姉もそうやって体を売りながら懸命に妹の世話をしていた心優しい女性だった。


しかし、ある日の晩に彼女は殺された。酒に酔った悪漢達に一晩中凌辱された後、彼女はゴミの様に胸にナイフを突き立てられ路地裏に放置されていた。家など持たないその少女は姉の亡骸に寄り添いながら懸命に厳しい世界を生きる為に姉と同じように身を売りながら命を繋いでいく事となる。


そんな彼女の中で変化が起きたのはそれから暫く経ってからの事だ。


路上で愛する人の亡骸と共に暮らして来た彼女が仕事を終え、毛布を掛けた姉の顔を見ようとした瞬間……彼女はそこで奇妙な感覚を齎す光景を見た。虫に食われたその肉体は腐敗から次の段階へと移り、骨があちこち剥き出しになっていた。


あの美しく愛おしかった大切な人が悪臭を放ちながら白骨化していくその光景は彼女の心を破壊し、ドス黒い何かで心を塗り潰していった。


倒錯した想いを刻み込まれた彼女は姉の白骨死体を大切に保管しながら、やがて女性のみをつけ狙う快楽殺人鬼へと墜ちた。殺した相手の体から骨を取り出すという異様な手口による犯行はラゴウ全土を震撼させた。


そして、その異常者としての素質に注目していたある男の手により彼女は拘束された。グエン・フー・ミンという野心に燃える男の手により精鋭部隊である毒蛇(ヴァイパー)に配属された彼女はそこで彼の開発した試作品の魔剣を手に存分にその欲望を満たす事になる。不安定な魔剣を完全にコントロールするのに必要な執着心を維持するには快楽殺人鬼のような存在が相応しい、そんなグエンの予測は的中した。


試作品の魔剣、凶鱗の使い手として殺戮欲求と人骨への執着を爆発させた少女は数え切れない程の人間を殺しその願望を叶えていった。



−−−−−−−−


「うぅぅぅぅああああああああああっ!!お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、オネエチャアアアアアアアアン!!」


より一層狂気を深めた相手は涙を零す両目を見開くと、片手に頭蓋骨を抱えたままその魔剣をがむしゃらに奮った。まるで巨大な蛇の様にしなる剣先が室内の壁や床をズタズタに引き裂いていく。並んでいた哀れな犠牲者達の骨と化した亡骸を粉砕しながら殺意と狂気に満ちた凶刃は怒りのままに広大な室内に爪痕を残す。


呻くナスターシャの頭部へ迫るその剣先をナイフで弾き飛ばすと、私は彼女が手にしていたサーベルを拾い、しっかりと握り込む。

 

少しでも間合いがいる。相手の懐に飛び込み、この長い射程の武器で相手の胴を突き……そして片方の腕でナイフを奴の首に捻じ込む!。


しかし、狂気を爆発させた今のあの女に隙は無い。恐らく魔術も無駄だ、ほんの僅かに意識を逸らしただけでもバラバラにされる。


伸びていた剣先を納めると、狂人は片手に持っていた頭蓋骨を床に落とし……それを足で踏み潰した。その異様な行動に思わず息を飲むと、彼女は黒く濁り据わった両眼で私を捉えると唇の端を吊り上げ気味の悪い笑みを浮かべた。



「アンタのせいでお姉ちゃん、割れちゃった……お姉ちゃん、死んじゃったんだ……。だから、だからね……」


「っ……」


「アンタが私の新しいお姉ちゃんになってよ!!イングリットォォォォォォォオオオオオオオッ!!」


もう、この女は……救える存在ではない。過去に何があったかは知らないし興味はない、だが……言葉と行動の数々が何をしても抜け出せない狂気の世界の住人である事を知らしめてくる。


再び空を切る音と共に魔剣の剣先を向けられると、半身をズラした瞬間に頬を一撃が掠めていく。そして、相手はとうとう私との決着を付けるつもりになったのか片手に持った青龍刀の刀身を煌めかせながらこちらに向けて疾走した。


「ひひ、ひひひひひひひひひっ!!お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃああああああああんっ!!削ぎ落してあげる、解体してあげる、加工してあげる!!綺麗で美しくて、細いお姉ちゃんに!!真っ白になるまで磨き上げて、脂肪の跡も残さず輝いてええええっ!!」


振り下ろされた重い一撃をサーベルで受けとめると、私は身を捩りながら片手に持ったナイフで迫り来る殺気を弾く。後ろから心臓を突くべく迫ったその一撃は狙いがそれ、脇腹を焼ける痛みと共に抉り取った。


「ぐふっ!……っ……」


「いひひひひひっ!!大丈夫だよ、安心してお姉ちゃん!!お姉ちゃんの美しい骨は傷付けないから!!肋骨の隙間からでも眼球からでも、お姉ちゃんに好きに突っ込めるから!!♡それとも頸動脈を切って失血死がいい!?昨日殺した女みたいにハラワタを出されて汚物で窒息死がいい!?選んで、何でもするから選んでよォォォォォお姉ちゃあああああああああんッ!!♡」


……冗談じゃ、ないっ!!。


そんなのはどちらもごめんだ!!。


再び振り下ろされたその一撃を受け流した瞬間、腿に鋭い痛みが走り思わず声を上げた。


「ぐぅぅぅぅぅぅっ!!くっ、うっ……!」


マズい!……足に、剣が!……。


背筋に冷たい汗が伝うのを感じた瞬間、再び収縮するその魔剣が凄まじい力で私の足を引き込み……床へと体を倒れ込ませた。


「あーあ、本当はお姉ちゃんの綺麗な骨に傷なんて入れたくなかったのに……お姉ちゃんがいけないの、暴れて大人しくしないから……」


「……お前の様な、愛の重い妹に耐えられるほど……私は出来た人間ではない……」


「……それじゃあ私の愛で押し潰してあげる……お姉ちゃん……」


サーベルへ伸ばそうとした手が蹴り飛ばされ、掲げたナイフも手にした刀により弾き飛ばされた。


……これは、もう……ダメかもしれない……。


油断した、ヴァイパーの連中が一人ですらここまで手強いとは思わなかった……。


死の恐怖も、動揺も無い……私はただ、ボンヤリとした目で相手を見上げた。


甘く息を漏らした狂気の世界の住人は仰向けに倒れる私の腹部を股で挟み込みながら馬乗りになると、恍惚とした表情で手にした青龍刀の刃先を首筋に当てた。


「……やっと……やっと私のモノになるんだね……お姉ちゃん……」


「……どいつもこいつも……母親と、呼んだり……姉と呼んだり……私を、何だと思ってる……!」


「ひひっ、いひひひひっ!……これからは一緒に居ようね!寝る時もお風呂も、ずっと一緒!……。離さない、絶対に離さないからねぇぇ……おねえちゃあああああああああああああああんッ!!」


唇の両端を不気味に歪め、血走った瞳を見開きながら相手が刀の柄に力を込めるのを見て……私は硬く目を瞑った。



やがて、私の顔に温かい液体が噴きかかった。それが生臭い血液だと理解すると、いよいよ私は覚悟を決める。


心残りはある、共に戦ってくれた大切な仲間を救えなかった……。遠のく意識の中、私は無意識の内に唇を開いていた。



「……ナスターシャ……すまん……」


「……それはどうも……どういたしまして……!」


……えっ?……。


その言葉を聞いた私が静かに目を開くと、そこには予想もしなかった光景が広がっていた。


私の顔面めがけて真っ赤な血が降り注いでいる。それは、目を見開いたまま顔を震わせるフェイの唇から漏れだすもので……彼女の背後では片手で相手の腹部を押さえ込んだナスターシャが鬼気迫る表情で首筋にナイフを突き立てているのが見えた。


「ゴボッ!お”っ、ごっ……ぁ……」


「……この子に、アンタみたいな……妹なんて必要ない!……。私の気持ちのが、もっと重いんだから!……」


ナイフが引き抜かれた瞬間、噴水の様な血液が水音と共に吹き出し壁や床を汚した。


相手の後ろ髪を掴み引き摺り倒すと、ナスターシャは荒く息を吐きながら私の顔を覗き込んだ。


「……っ……大丈夫?……イングリット?……」


「……そ、それはこっちの台詞だ……お前は脇腹を貫かれたんだぞ?」


「……私を舐めないでよ、前にはオークとの戦闘で内臓出しながら戦った事だって……あるんだから!……」


私の腕を掴むと、苦痛に顔を歪めながら彼女は力を入れて体を起こさせてくれた。ドクドクと血が溢れる膝が震え、気を抜くと倒れそうになる。


それでも、まだ私は倒れる訳にはいかない……。



「ゴホォッ……お"、ね"ぇ"……ぢゃ……あん"……」


「……お前……」


首からピューピューと噴き上がる鮮血で上手く声を出す事が出来ず、血の海の中で倒れている彼女は倒錯した感情も歪みきった愛情も……全てが消え去り、ただただ寂しそうな瞳を私に向けていた。


それを見たナスターシャは小さく息を吐くと、手にしたナイフを振るい血を払い……そしてゆっくりと彼女へ足を進めた。



「……ひどり"に……しない"でぇぇ……」 


血と共に吐き出されたそんな言葉を聞いた瞬間、私は無意識の内に彼女を介錯しようとしたナスターシャの肩を掴んでいた。


彼女は私の中の甘さを見透かしているのか、こちらへ振り向く事無く言った。



「……生かしておいたら、また殺しに来るわ……そして今度、あんな風に惨い殺され方をするのはアンジェラかもしれない……」


「……それは……分かってる……」


「だったら止めないで……こういうのには慣れてるから……」


「……し、しかし!……」


それが間違った判断である事ぐらい分かってる、それに私はこの女の危険性を身を以て味わっている……。


でも、それでも……出来れば助けたいと願ってしまった。


私だって、シャーリーもお父さんも失った今は……一人ぼっちになってしまったのだから……。


迷う様な私の手を静かに離すと、シャーリーは静かに相手の傍で膝を折ると片手に持ったナイフを掲げた。


その瞬間、突如大きな揺れと共に部屋の壁一面に黒い術式陣が浮かび上がる。


「マズい!!あいつら、この建物を潰す気だ!!」


「ど、どうなってんのよ!?」


「これは重力の術式陣……恐らくヴァイパーの連中は彼女が負けたらこの建物ごと私達を押し潰す気だったんだ!」


私が真っ先に手を伸ばしたのは、首から血を流し苦しそうに声を漏らす彼女だった。


「フェイ!!……」


その瞬間、天井が崩れ落ち……大きな瓦礫が床へと叩き付ける様に落下した。


それでも、私は……彼女を……。



「バカッ!!さっさと行くわよ!!」


「だ、だが彼女が!……」


「うるさいっ!!私だけ残されたらきっと同じになっちゃう!!私も一人ぼっちになっちゃう!!……」


その言葉を聞き、私は放心したまま彼女に連れ出され部屋を後にした。



”おねえちゃん……おいてかないで……”。


そんな声を、背後で聞いた気がした。



------


『ええ、計画は無事に進んでいます……やはりフェイ程度では止められませんでした、あの子はとても強い……』


「そうか、手筈通りに進んだのだな?……」


『はい、全ては次なる竜帝になられる……お父様の思惑のまま……』


「計画通りに頼むぞ、愛おしい毒蛇達よ……」


通信石による通話を切ると、その男はきらびやかな黄金のラインが散りばめられた深緑の生地が覆う衣類を纏い……そして、その王冠を頭に載せた。


猛々しい竜の紋様が刻まれたそれは、ラゴウ連邦国の最高権力者の証。竜の位を持つ者が嵌める事を許される権力者の証だった。


目の前の扉を開くと、男は大きく息を吸い込み宣言する。



「諸君!!たった今悲しい知らせがこの私の元に舞い込んだ!!……現在の竜の位を持っているリー・ガウロン殿がメルキオ帝国の首都にて暗殺された!!……」


開いた扉の先では、二階建ての部族会議を開く議場に座る誰もが動揺しきった様子で声を漏らしていた。


男は静かに中央から階段を降りつつ下に向けた頭を振ると、力強い声で叫ぶ。


「私は彼の意志を継ぐ、リー・ガウロンという若き王はこの蛇の位を持つ私へと信頼を託してくれた!!……これより、このラゴウの頂点に立つ竜の位は私が……グエン・フー・ミンが引き継ぐものとする!!」


その場に巻き起こったのは歓声ではなく怒号だった。誰もが権力の座を欲し、虎視眈々と狙ってきた中で突如決められたその政権交代劇は他の部族長達を激怒させる。



「ふざけるな!!この成り上がりが!!」


「貴様はあの若造を手籠めにして無理やりそうさせただけだろう!!ふざけた事を!!」


「この様な不公平があってたまるか!!奴を捕らえろ!!」


それらの罵倒を笑みを浮かべて受け流すと、グエンは再び声を上げる。


「私は誰よりも彼を見てきた、誰よりも彼を愛してきた……竜王殿は愛おしい我が子の様に考えてきた。私にとっては……狂うに値する愛らしい青年だ……」


そこで片手を上げると、グエン・フー・ミンは唇を吊り上げ宣誓する。邪魔者を何もかも抹殺し、あの嘆き苦しむ幼い竜を籠に生涯を繋けて閉じ込めるのだと。



「先ほど先代の竜王様へ侮辱的な発言をした人間を私が纏めて抹殺する掟をここに提出する……敬意を欠くものには死の厳罰を!私の可愛いリーを悪く言う奴は全員ブチ殺してやる!」


席から立ち上がり怒りの表情を向ける彼等の背後へ、音もなく忍び寄った兵士達が素早く剣を抜きその頭部を刎ねた。


悲鳴と怒号が湧き起こり、自身の主を守ろうとする部族の戦士と命令を忠実に実行する兵士達が巻き起こす血生臭い殺し合いを見て手を叩きながら大笑いすると、グエン・フー・ミンは瞳の端に涙を浮かべて笑いながら絶叫した。



「あははははははっ!!見ろ!!リー・ガウロン!!これがお前だ、これが今の幼い竜なのだ!!お前を通して権力を見据える者ばかりが居る中で、私はお前を見ている!!逃がすものか、何処にも行かせるものか!!お前を逃さないぞ、私の可愛い幼竜よ!!お前を籠に閉じ込め永遠に飼育してやるぞぉぉぉおおおおおっ!!」



































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