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殲滅のマタドール   作者: ユリグルイ
殲滅のマタドール 4thOrder
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殲滅のマタドール:80話 塵は塵に

階段を駆け下りた私はその濃厚な死の臭いに思わず顔を歪めた。ゆっくりと踊り場から足を一歩一歩踏み進めて一階の廊下へ踏み出していく。


その廊下は、地獄絵図になっていた……。


人間の皮膚の下に内包されたカラフルな色を全てぶち撒けた様な、赤を主とした色々な“塗料”が撒き散らされ……そして、床には破壊された壁の瓦礫や中身の散らばる木箱に混ざり手足や胴、首が暴風雨の後の庭みたいにあちこちに散乱している。その一人一人がつい先程まで仲間を救おうと使命に燃えていたメイド達のだと思うと腸が煮えくり返ってくる。


仇は必ず取ってやる……。恐怖に凍り付いた瞳を見開く誰かの頭部に目を移しそう語り掛けると、私は身を低くして窓枠に隠れる様に足を素早く進めた。破壊された壁から静かに顔を覗かせ様子を伺うと、口から矢を引き抜き絶叫するバケモノを視界に捉えた。


あいつはどうやら上から攻撃してくる存在に気が付いたのか、腕を伸ばしながら雨の様に降り注ぐ矢から目や口を守ろうとしている。下からなら狙える……絶好のチャンスだ。


手にしたロングボウを握り込んだ瞬間、背後の少し開いた扉の方から物音が聞こえた。


誰か他に生存者が……?。


あの状況で取り残された者に気付かなかった可能性は充分にある。扉へと歩み寄ると私は素早く室内へと入った。



「ひ、ひっ!……」


入って来た私を見るなり、震えた声が上がりその血塗れの使用人服を着た短い髪の少女は涙と鼻水を垂れ流しながら後退りガタガタと震えた。


私は相手を落ち着かせようと笑顔を見せると、嗚咽を漏らすその頭を撫でながら言った。


「大丈夫?その血は怪我したの?」


「……い、、いえ……わ、私……この基地に、入ったばかりで……先輩たち、私を守ろうとして……この部屋に逃げなさいって!……言ってぇぇっ……」


膝を曲げて震えだした彼女のスカートからは、チョロチョロと溢れ出したおしっこが床に静かに広がっていった。


その恐怖と深い絶望に囚われた様がどうなったのかを予感させる。


彼女達はこの子を守ろうとして食われたのだ。


泣きじゃくるその体を抱き締めて背中をさすると、ひどくショックを受けている彼女は絶望しきった声色で呟いた。



「……私なんか死んじゃえば……良かったんだぁぁ……みんな、いい人達……ばっかりだったのにぃぃ……」


「……悲しい事言わないの、せっかく見つけたんだから生きてくれなきゃ困るわ?」


「で、でもっ……私のせいで……私のせいでぇぇ……」


仕方ない、こうなればショック療法しか手はない。


溜息を吐いた私は頭を抱える彼女の顎を持ち上げると、有無を有無を言わさず唇を重ねた。


大きく体が跳ね上がり、目を見開いた彼女の唇から動揺しきった声が漏れる。バケモノが暴れ回る廊下から薄い壁一枚だけを挟んだ場所でするキスは、頭が焼ける様なスリルと生存本能の高まりを刺激され……濡れてしまうぐらい興奮した。


唇を離すと、放心状態でボンヤリと私を見つめる垢抜けない雰囲気の少女の頬に手を添えると私は耳元で囁いた。



「ふふっ、無理やり奪っちゃった……これで私を一発殴るまで死ねなくなったわね?」


「……は……ひ……」


「……おもらししちゃった貴女の恥ずかしい姿まで見ちゃったし……これで絶対死ねないわよね?……」


悪戯っぽく笑いながら語り掛けると、彼女は驚きや怒りや恥ずかしさや、そして嬉しさの入り混じる奇妙な表情をして首を頷ける。


上手く行った、これで彼女は大丈夫だ。少なくとも今のところは……。


「……私が援護する、階段まで走って……」


「……で、でも……一人じゃ……」


「あら、私は元クリスティーヌ様の親衛隊の弓兵隊長よ?クリスティーヌ様に気に入られてた同期のカタリナにムカついて殺し合い寸前の決闘を何度もするぐらい腕には自信があるんだけど?」


不敵に笑う私の言葉を聞き彼女は再び唖然とした。


この基地に配属された者ならクリスティーヌの親衛隊の噂は知っているだろう。剣も弓も王都の守備隊に引けを取らない猛者揃い……そんな中でも副官のカタリナの戦闘能力は別格だった。私はそんな彼女と何度も本気でぶつかり合ってきた仲だ、あのいけ好かない女と私は互いに女を愛する女であり、そして相手にイジワルしたがる似通った部分がある。だから同族嫌悪も含め彼女が嫌いだった、惚れ込んでいたクリスティーヌ様の豊満な肉体を独り占めしていると思うと殺意すら湧いた。


そんな風に訓練という名の潰し合いを何度も経験してきたからこそ私はまた自分の弓の腕を更に磨く事が出来たのだ。


彼女の手を握り立ち上がらせると、フラ付く少女の腰に手を添え支えながら私は静かに扉から様子を伺った。外ではあの怪物が浴びせられる弓や炸裂魔術から身を守っている姿が見える。タイミングは今しかない……。


「走って!……」


弓を構えながら鋭く叫ぶと、彼女は小さく息を飲み込み廊下を駆け出した。極力下を見ない事を祈りつつ音を立ててその巨大なロングボウを引いた瞬間、あのバケモノがこちらを見た。破壊された壁から走る彼女の姿を捉えた怪物は片手で顔を防御しながらゆっくりとこちらへ近付いてくる。


……マズい、あの怖がりな子が自分がまた狙われていると気付けばどうなるか……。


舌打ちをした私は真っ先に彼女へ狙いを付けた相手がやはり自分を女として認識していない事実を思い知らされ怒りを覚えた。肩のハーネスを外し胸を抑えつけるプレートを脱ぎ捨てると、弓を背中に背負い走り出した私は自分が狙われている事に気付き再びへたり込んでしまった彼女のその軽い体を素早く抱きかかえ廊下を駆けた。立て続けに壁をぶち破って伸ばされた腕が文字通り間一髪で掠め、最悪の事態を回避する事が出来た。


彼女を駆け上がった階段の踊り場へ下ろすと、ガタガタと再び震えだす少女へ私は言った。


「さぁ、行きなさい!今度は私が食べちゃうわよ?」


「で、でも……!」


「私に食べられる方をお望みなの?それなら後でたっぷり朝まで可愛がってあげるから!」


「……も、もうっ!……」


私の軽口で再び気力を取り戻したのか、彼女は怒った風に声を漏らすと階段を駆けて行った。


良かった、これで良い……これで心置きなくこのブサイク面をぶちのめす事が出来る。


唇の端を吊り上げた私は胸から溢れ出るドス黒い感情と脳を焼くような加虐心に恍惚としながら壁を破壊し顔を覗かせた相手へ言い放つ。


「お前は許されない事をした、分かる?……私を女として認識しなかった……。よく男に間違われて言い寄られたけどそういう子は特に激しく抱いて失神するまでイジワルしちゃうのよ?……。やっぱりこんなナリでも傷付くもの……」


やはり私とカタリナは似た者同士なんだと改めて感じた。あのクソムカつく眼鏡女と一緒で、私も胸の内には強烈な破壊衝動と相手を嬲る事に快楽を感じる生まれ持っての性的嗜好を懐いている。


ムカつく相手がヒィヒィ喘ぐ様は、こんなにもゾクゾクするんだもの……。


あの子が見たら再び漏らしてしまいそうな笑みを浮かべた私は引いた矢を打ち放つ。  


その大きく開いた眼球に再び矢が突き刺さり、両目を潰された怪物は絶叫しながら崩れ落ちた。


このタイミングならいける!……あの甘ちゃんに本当の気迫があれば一撃を加えられる!。


その時、視界を奪われた相手ががむしゃらに腕を振るい周囲を破壊した。天井が崩れ、咄嗟に身を引こうとした私は後ろへと倒れ込んだ。


見ると、予想以上に最悪な状況に陥ってしまったのが分かる。両足を瓦礫が覆い、身動きが取れない!。


感覚はまだある、幸いにも潰されてはいないらしい……しかし……。


「……クソっ!……」


倒れた際に弓が手から離れてしまった。拾おうと腕を伸ばすものの、届きそうで届かない。必死に藻掻いていると、その怒りと殺意に満ちた荒々しい息が聞こえた。


破壊され尽くした一階の階段前では、立ち上がった巨人がゆっくりと握り込んだ拳を掲げている様が見える。


やっぱり最後の最後まで女として認識されてないのね……このクソムカつくデカブツめ。


大きく溜息を吐き、目を閉じると私はその瞬間を覚悟した。今度こそダメかもしれない。


クリスティーヌ様とまた会えるのは嬉しいが、あのクソムカつく眼鏡女までオマケで付いてくるのは嫌だ。でも、今度こそあいつを叩きのめしてクリスティーヌ様の柔らかな素肌や弾力がありそうな胸や尻を独り占め出来るチャンスなのかも……。


命の危機が迫るそんな状況の中ですら欲望に塗れた自分に思わず笑ってしまう。


両目を失った怪物の拳が振り下ろされようとしたその瞬間、上からその絶叫は聞こえた。



−−−−−−−


「うおおぉぉぉぉぉぉおおおおおっ!!!」


雄叫びを上げながら30メートルの屋上から飛び降りた青年は吹き上げる風に髪を靡かせながら、両手に構えた魔剣を握り込む。


多くの仲間達を奪ってきたこのバケモノを打ち倒す為であれば、例え無謀な飛び降り自殺になろうとも構わない。


ヨハン・ガーランドの決意は躊躇う事なくその無茶な戦術を実行に移させる。風で体勢がブレそうになるのを必死に堪え、青年は開いた口から絶叫を上げ続けた。そして、その声に気付いた怪物が顔を上げた瞬間に、炎の魔剣アドレナスの残った魔力の全てを解放させた。魔石の周囲を包む魔力伝導用のグリーンエメラルドに罅が入り、やがて硬い物体に亀裂の入る小さな音が響き始める。


軋む筋肉に力を入れ、ヨハンは相手の顔面を両断する勢いで落下により破壊力の増した一閃を振り下ろす。


赤く染まった剣先が鈍い感触と共に岩の様に硬かった怪物の皮膚を引き裂き、高熱の刃がそのまま頭蓋骨を溶解させながら更に奥へと入り込む。その巨大な頭部に納まる脳を沸騰させ、爆ぜさせると更に鈍い破断を立てながら下へと切り裂いていく。顔面を中央にスライスし、沸騰した紫の血液をマグマの様に吹き出しながら魔剣は尚も胴を高熱により焼き切っていく。胸元まで達した瞬間に心臓が爆ぜ、ゴムが弾ける様な音を立てながら大量の液体が飛び散った。


力を使い果たしたアドレナスから悲鳴の様に響く罅だらけになった魔石が奏でるパリパリという音が聞こえたその瞬間、5メートル程下の地面へと青年は柄を離し飛び降りた。


叩き付けられる様に地面に転がったヨハンはフラフラと立ち上がると必死に足を動かして距離を取った。あの剣はもう限界だ……魔石が割れれば内包した火の魔術があのバケモノの周囲を焼き尽くす。


必死にヨロヨロと駆け出す彼の背後で、魔剣アドレナスに取り付けられた炎の魔石はその赤い表面に無数の罅を入れ、遂に砕け散った。


制御を失い暴走する灼熱の炎が怪物の肉体を焼き尽くし、そして体の内側の水分の全てを沸騰させ、膨張させる。まるで噴火の様に下から上へと炎を注入された怪物の肉体は下半身を残したまま巨大な火柱を上げ吹き飛んだ。


衝撃で突き飛ばされたヨハンがかろうじて力の入る片腕を持ち上げ身を起こして振り向くと、そこには轟音を立てて炭化した断面を覗かせながら地面に崩れ落ちるバケモノの半身が見えた。


それを見てようやく彼は理解する。


この無茶な作戦が上手くいったのだと……。


肉の焼ける悪臭が漂う中、仰向けに倒れ込んだ青年は大きく息を吐くと勝利の喜びも余韻も感じる前に厄介な雑務が増えた事を嘆いた。



「……貴重な魔導兵器を損失しちまった……こりゃ王都への報告が面倒だな……」


歓声が響き渡る中、彼は心地良い疲労感の中でゆっくりと目を閉じた。



−−−−−−−


「すまん、敵はとんでもない奴まで出してきて恐らく越境を許してしまった……」


『話は聞いてます……メイドにも相当に被害が出たと……』


「……本当に、すまん……」


ベッドの上で包帯だらけの体を起こしたヨハンは通信石を手に持ち硬く目を瞑った。相手からの誹りを覚悟した彼が眉間の皺を深め黙りこくると、小さな溜息と共に思った以上に明るい声が聞こえた。


『とにかく貴方の命が助かって良かったです!それならあの子達も浮かばれますから!……』


「だ、だが……俺がもっとしっかりしていれば……」


『貴方が死んでしまったらそれこそ私も悲しいです……死んだ者ではなく、今を生きる人達の為に戦う。それがクリスティーヌを越えると誓った貴方の覚悟なんじゃないんですか?』


「……ナスターシャ……」


目を開くと、後悔と自責の念が伸し掛かる肩がほんの少し楽になった気がした。


「それじゃあイングリットが風呂から戻り次第、例のトロールの件について聞いておいてくれ……」


『了解しました……ヨハン様、無理しないでくださいね?』


通信を終えると、ベッドの脇に立つ相手にそれを手渡し彼は立ち上がろうと体を動かした。しかし、目立った外傷こそないもののあの高さから飛び降りた彼の肉体は当然無事では済まなかった。


肩の脱臼、落下した際のあばら骨の骨折、その他多数の肉体的なダメージを負ったその体はすぐに悲鳴を上げて痛みで彼を押し留める。


「ぐっ、うっ……」


「はぁー、無茶しないでって言った傍からアンタはすぐに無茶したがるんだから……」


通信石を棚の上に置くと、彼に付き添っていた背の高い短髪の女性兵士は呆れ果てたような目で彼を見た。ヨハンに命を救われたミラはかつて微妙な関係を築いていたとはいえ借りの出来た相手へ礼を言おうと彼の部屋の戸を叩いたところ、扉を開けて目にしたのは激痛に呻きながら床に転げ落ちたこの基地の司令官の姿だった。慌てて駆け寄った彼女は事情を聞き抱いていた恩義すら忘れる程に呆れた。


他の負傷者の治療を優先させた彼は一切ヒーラーによる治癒を受けずにそのボロボロの体のままで司令官としての職務を全うしようとしていたのだ。彼を怒鳴り付けて無理やりベッドに座らせると、ミラは危なっかしい彼に対する過去の蟠りが急激に薄れていくのを感じながらその執務を手伝った。


ミラ・ベントレーは当初、彼に対する嫌悪感を隠そうともしなかった。この綺麗事が好きな青年は青臭い理想の為に最も魅力的で最も恩を感じていた女性を失脚に追いやり、そして彼女の死の原因を作った。


クリスティーヌ・バンゼッティは多くの女を抱いて来た彼女にとって心から愛した数少ない女性だ。一晩だけ顔の良い女を抱く時とは違う、いつか本気で生涯を通して傍に居たいと思わせてくれた女性だった。


そんな彼女が死んだという報告を聞いた時、首を生きたまま切り落とされた上に肛門に魔物除けの枝を突き立てられるという恥辱に満ちた姿で見つかった彼女の姿を想像し激しい憎悪に囚われた。


心から愛した人を凌辱された怒りは真っ先にヨハンへと向いた。


当時の心境を懐かしむ様に思い返した彼女は腕を組みながらわざと荒々しくベッドに腰掛けると、衝撃で体のあちこちが痛み顔を歪める彼へ笑みを向けながら言った。


「……私はアンタが憎かった。クリスティーヌ様をアンタが殺したと責めた時に、アンタは否定しなかったからさ……。本当にあの人が好きだったんだ、女癖の悪い私が愛した数少ない人だった……」


「……否定は出来ない。戦争を止める為とはいえ、彼女を失脚に追い込んだのは俺の意志だ……」


「……私はベアルゴとの戦争に参加してたんだ、当時は新兵だったけどね……。クソムカつく魔導師共に命を使い捨てにされて、私達を囮にして奴等は逃げようとした……」


当時の恐怖を思い出しているのか、ミラは静かに顔を俯かせ目を細めた。そして、彼女との出会いを語り始める。


「……皆、絶望してた……。敵の怒号と足音、雨のように降り注ぐ矢の後は魔術で嬲り殺しにされた……。生き残ってた私は戦う気力なんてなかったよ、ズボンの中に小便も大便も全部垂れ流して泣き叫びながら逃げ惑ってた……。死に物狂いで走ってたら、草原に佇むあの人と出会ったんだ……」


「……クリスティーヌは亡き想い人の為に魔導師を敵味方問わず殺して回っていた……。奴の行動は立派な反逆罪だ……」


「……分かってるよ、そんなのは……でも、優しく抱き締めてくれて……”もう大丈夫”って言ってくれて……。その後に敵ごとあのクソ魔導師共が逃げた森を丸ごと焼き払ってくれたのを見て、私は決めたんだ……この人の力になりたいって……」


そこで大きく溜息を吐くと、ミラは力の抜けた穏やかな笑みで黙りこくる青年を見つめる。


「私もカタリナも、クリスティーヌ様に命を救われて惚れ込んだんだ。だから私は今でもアンタが嫌い……あの人とは全然違うし、逆に危なっかしいし……」


「……可能な限り善処する……」


「だからさ、あんまり危ない事しないで?私がクリスティーヌ様に惚れたのと同じ様に、今じゃこの基地の男も女もアンタに夢中よ?心底惚れた人が居なくなってしまうとどうなるか、私は知ってるから……」


「……ミラ……」


かつて何度も意見の相違から衝突して来た彼女が胸の内を明かしてくれた事に、ヨハンの胸は大きく打ち震えた。彼女が心の底からクリスティーヌという偉大な存在に恋い焦がれていたのを知っていたからこそ、彼女がこうして自分の身を気遣ってくれた事に青年は溢れ出る感情を抑え切れなくなった。


目元を覆い、肩を震わせる彼を見るとミラは緩んだ笑みを向けて言った。


「あー、勘違いしないでね?私が抱くのは女だけだから、アンタは確かに面白いけどさ……」


「……っ……分かってる!分かってるよ!……だから、嬉しいんだ!……」


「はぁ?……」


「……そういうお前が、俺の事を認めてくれて……だからっ……嬉しいんだよ!……」


ミラは理解する。


彼は、つくづくクリスティーヌとは違う存在だ。嗚咽を漏らしながら涙を零すこの青年は、どこまでも生きている誰かの事を考えている。傷付いて、立ち上がろうとする誰かに寄り添おうとしている。


彼女とはまるで考え方が違う……それでも、ミラはそんな彼の考えを受け入れた。


ヨハン・ガーランドという男の生き様を受け入れた。
























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