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殲滅のマタドール   作者: ユリグルイ
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殲滅のマタドール:18話 Believe In Me

……アヴィ……アンタ、何を……。


私の体を包んでいた黄金の光が輝きを増し、恐ろしい勢いで燃え盛る炎の嵐を防いでいく。


そして、掲げた手の先に丸い盾のような光を掲げるアヴィの体は……腕から順に、少しずつ融けていった……。


私は思わず息を飲む。


それは、明らかに……何か灰色の指の形をした、鉄だったり……白色をした筋肉だったり……色とりどりの、妙な線だったり……。


普通の生き物のそれとは違う中身をしていたから……。



「……はずか、しいです……みないで、ください……サシャ……」


「……ア、アヴィ……アンタ……」


「……わたしは……ヒトでも、エルフでもない……バケモノ、です……」


「……な、なに言ってんのよ!?アヴィ!早く逃げて!」


「だから!!……バケモノ、だから……へいき、なんです……」


なに……なに言ってんのよ!?もう腕が、溶け落ちちゃってるじゃない!。


顔も、溶け始めて……アンタ、このままじゃ……死んじゃうじゃない!。


逃げて……私なんていいから、逃げてよ!。



「……サシャ……」


やめて、やめてよ……もう、もうっ!……。



「……だいすき、サシャ……」



やめてぇぇぇぇぇえええええええええッ!!。



” ほんと……見てて飽きない子だねぇ、アンタはさ……全ての力を貸してやったってお釣りが来るぐらい……飽きない子だよ! ”


その時、手に刻まれたルーンが激しく痛みだし……右手から何かが首筋に向けて駆け巡っていくのを感じた。



--------


その洪水のような大量の水はこの惑星に住まう生物が恐れた原初の恐怖だった。その惑星の原生生物である精霊と呼ばれる存在が過去に惑星のバランスを保つべく引き起こした自然の脅威。


水は生命の源であると同時に、あらゆる物を押し流し破壊する原始の恐怖。


その恐ろしい力を、ウンディーネという水の精霊に見染められたサシャは理解し……そして、その凄まじい力を行使する。


洪水、津波、大雨が齎す土砂崩れ……あらゆる生物を苦しめたその自然の力をサシャは大切な人を守る為に行使する。


強大な力を借り受け、まるで大地に木の根が張るように伸びた青い刻印を首筋にまで巡らせ、毅然とした表情を浮かべたままに水の全てを支配するにまで至った魔導士は絶叫する。


この世全ての生物が本能的に恐れる、その水が齎す滅びの言葉を。



「 リヴァイアサン・ゼロ!! 」


片手を掲げた彼女が絶叫したその言葉は、水の精霊ウンディーネが破壊と滅びを齎す死の洪水を遠く離れた巨人へぶつける合図となった。


突如顔面の半分融けたアヴィの目の前の地面が罅割れ、まるで間欠泉の様に水が噴き出していく。それは巨大な壁の様に、愛する人を守る壁の様に透明な障壁となって業火を防ぐ。


壁はやがて業火に包まれた村の家屋と森の木々を薙ぎ倒しながら押し流すべく災厄へと、人類が悪意のままに生み出した巨人へと向かう。


50メートルの巨人すら飲み込む様な津波はその周囲のあらゆる物を破壊しながらその巨体を押し流す。両手を組みその暴力的な力に抗い、巨大な足を地面に突き立てるように耐えていた巨人は……やがて、その力に負けて仰向けに転倒した。


凄まじい轟音を立てながら崩れ落ちた巨人が轟かす地鳴りの音を聞くと、サシャは荒く息を漏らしながら膝を突いた。


全ての力を使い果たした彼女の体から青く輝くルーンが消え、そして強大な敵を押し倒した水は地面へと沁み込んで行った。


金色に光るナノマシンが修復を行う中、アヴィは呆然と口を半開きにして新たに能力を開花させたパートナーを見つめ立ち尽くす事しか出来なかった。



-------


私は力を使い果たした様に膝を突き荒く息を漏らすサシャへ駆け寄ると、その肩を握り声を掛ける。



「サ、サシャ!サシャ!大丈夫ですか!?サシャ!」


体中に汗を滴らせ、高い熱を持った彼女の体が相当な無茶をしたのだと理解させる。


私の……為に……私なんかの……為に……!。



「……悲しくなる事……言わないでよ……」


「……えっ?……」


「……アンタはバケモノなんかじゃ……ない!……。危なっかしくて……放っておけない……私にとって一番大切な人よ!……」


「……サシャ……サシャァァァァァァァッ!!……」


胸から込み上げてくるその感情を、私ははっきりと自覚した。


もう抑えようもない、頭の中が……その寂しそうでもあり嬉しそうでもある泣き腫らした顔でいっぱいになる。


涙を流しながら彼女を抱き締めると、私は自身の想いを伝えようと理解する。


彼女の手を取り、頬に当て……そして泣きながら微笑むと私は言った。



「……サシャ……私は、貴女を−−−−」



その時、凄まじい轟音を立てながら森の中に倒れ込んだ巨人がヨロヨロと身を起こした。



−−−−−−


「クソッ!!クソッ!!クソォォォォォォッ!!……舐めた真似してくれやがって!!ちくしょうっ!!」


激怒した少年は叩き付ける様に制御ユニットに手を付けると、激しく動揺した精神のままその巨人の足を前へと進めていく。


混乱と苛立ちの滲む声色で少年は言った。


「どうしてこんな田舎町のエルフがリヴァイアサン・ゼロなんていう超上級魔術を扱えるんだ!?あれを使えるのはメルキオの軍属魔導師の中でも二人と居ないはずだ!!……あの火炙りババア、僕達を騙したな!!」


「アヒム……落ち着いて、不安定な今の状況では術が扱えない……」


「うるさいっ!!僕が君と協力してインフェルノ・ゼロを使えるようにする為にこの膿だらけの体でどれだけ無茶したと思ってるんだ!!体の中に炎の魔石であるレッドサ・ファイアを埋め込んで、毎晩の様に焼ける痛みに耐えてきたって言うのに!!……クソォォォォォッ!!」


彼の怒りを表す様に全長50メートルの巨人は駆け出した。


例え強力な魔術が扱えなくとも、その巨体自体が相手を踏み潰す恐ろしい武器になる。自身に屈辱を与えた忌々しい虫を踏み潰そうと少年は狂気のままに絶叫する。



「死ィねぇぇぇぇぇぇえええっ!!無様に潰れて僕の前から消えろぉぉぉぉっ!!」


−−−−−−


相手はそのまま私達を潰すつもりだ!……。


まだ敵は諦めていない、その狂気じみた執念と殺意の炎を消してはいない!。



だけど、今の私ならもう大丈夫……私はまだ、戦える。



大切な人を守る為に迷いなく敵を滅ぼせる。



「……サシャ、待っていて下さい……今度こそアイツを沈めます……」


「……アヴィ……」


「……私はバケモノなんかじゃない……貴女が大好きで、貴女を心から愛する……一人の女の子です!」


「……ええ、知ってたわよ……そんな事ぐらい……」


私の向ける気持ちを受け入れてくれた彼女は微笑みながらそう言った。


この人を私は守る……どんな奴が相手だろうと、どんな困難が立ち塞がろうと!。


表情を引き締めコチラへ突進してくる巨人を睨み付けると私は鋭い声で言い放つ。



「対重装甲機体装備展開!“テカムセ”発射準備、対艦用弾頭“バンデリラ”装填!全武装、オールフリー!」   


< イエス・サー。多目的汎用ランチャー“テカムセ”セット開始、対艦用弾頭“バンデリラ”装填準備。ウェポンズ・フリーまで残り5秒 >


その巨人は既に目の前にまで迫っている。巨大な右腕を大きく掲げ、私達を羽虫の様に叩き潰そうと殺意を滾らせる。


しかし、彼等は知らない……そうやって捻り潰そうとしている相手がどんな存在なのか、知る由もない。



私は、たった一機で全長300メートルの重武装空域戦闘艦を撃沈させ数え切れない程の敵艦艇を蹂躙してきた戦略兵器……愚かな歴史の中で生まれた史上最強の戦闘アンドロイド。


その私が、今から全力でお前を食ってやる……全力で食い殺してやる!。


サシャを守るために……全力で殺してやる!!。



< ウェポンズ・フリー、テカムセ発射可能。>


「フルオート機構開放!!10発全てを対象へ叩き込め!!」  


背後に取り付けられたナノマシン格納コンテナから黄金の粒子が舞い、その武器を瞬く間に形作っていく。それは人の背丈程もある巨大な大砲、宇宙にまで戦争の舞台を移した人類が作り上げた戦闘兵器。


テカムセは本来であれば艦艇に搭載にされ機械制御の砲座から敵艦に向けて装填されたエネルギー弾や対艦用弾頭を発射する目的で作られた砲だ。それを直接構えて対象に撃つなど通常の人間では考えられないだろう。


しかし、私にならそれが出来る……この全長190センチの戦艦に搭載されるような砲を一人で撃てる。


サシャの為なら……どんな事だって私は出来る!!。



「うぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


アンドロイド用に改良されたトリガーを私は目一杯の力で引いた。


砲身の横に伸びるアシストグリップを握り潰す勢いで軋む程に握り、その肩が吹き飛ぶのではないかという衝撃に耐えた。


口径180ミリの砲塔から早いサイクルで撃ち出された重装甲艦艇攻撃用のミサイル弾頭“バンデリラ”が巨人の胴、肩、頭部に着弾し、強烈な熱エネルギーにより溶解させた装甲の内部へセットされた爆薬の熱風と破片を散らし内部を凌辱する。


頭部が吹き飛び、右手は肩から先が損失し、左手の肘も吹き飛び、胴に穴を開けた巨人は黒煙を立てながらフラフラとヨロめいていく。


しかし、それだけのダメージを受けてなお……巨人は倒れようとはしなかった。


トドメを刺す必要がある……この巨人を操る奴こそがあの暗殺ギルドのリーダー、ウィルや村の皆を殺した……諸悪の根源!。



「エストック!最大出力で展開!敵を一気に両断する!」


< イエス・サー。エストック、ランク5へ出力増大…… >


腰のホルスターから抜いた白兵戦用武器を握り締め私は飛んだ。


これで、終わりだ……皆の仇をここで討つ!。



−−−−−−−


“ ……泣かないで、アヒム…… ”


“ ……ひっぐ……でも、だって……っく……施設のおじさん、いつも僕に……痛いこといっぱいするんだ……裸にされて、気持ちわるいこと……してくるんだもん!…… ”


“ ……私もいっぱいされてきた……それでも私は泣かない……何でか分かる?…… ”


“ ……僕が……弱虫だって言いたいの?…… ”


“ ……違うわ、アヒム……私はね…… ”



−−−あなたを守るために、もう泣かないって決めたのよ。



−−−−−−


目をゆっくりと開けると、あちこちで火花が散り破壊され尽くした操舵室の天井が見えた。


ああ、そっか……負けたんだな、僕……。


何故か先程まで脳裏を焦がしてきた怒りは消え、むしろ清々しさすら感じる心地良さがあった。


視界が霞む……きっと、もうダメなんだね。


僕、死ぬんだ……。



「……アヒム……」


「……君も、酷いザマだね……シェリー……」


「顔の半分と右手を失いました……でも、会話に支障はありません……」


……よかった……それじゃあ、最後にまだ……話せるんだね……。


起き上がろうとした瞬間、奇妙な事に気が付いた。


足の感覚が……ない……。きっと、足をやられたんだ……あはは、最悪……ただでさえ成長が止まってチビなのに……もっと小さくなっちゃった……。


「……ねえ……僕、どんな状態?……」


「……下半身が……無くなりました……」


「……そっか……君のボディ、もっと小さくしとけばよかった……」


はぁー……最後の最後まで……ツイてないな……。


ボンヤリと霞んだ視界の先で火花の散る天井を眺めていると、急に余計に身長の低くなった僕の体を残された左腕でシェリーが抱き締めた。



「……シェリー?……」


「……ありがとう、アヒム……あの時に死んだ私をもう一度蘇らせてくれて……人形の体とはいえ、また目が覚めてあなたの顔を見られた時は本当に嬉しかった……」


「……いいんだ……君は犯されそうになった僕を……助ける為に、大人達の前に……立ちはだかって……そして、僕が犯されている横で……命を落とした……。あの時に誓ったんだ……魔導師になって、死霊を操れる様になって……必ず君を蘇らせるって……」


「……でも、一つだけ……私、悲しかったの……」


「……何だい?……」


体を離した彼女は……僕には泣いているように見えた……。


きっと、死にかけの……僕の脳が見せた……幻なんだと思う……。


でも、しっかりと僕には見えた……泣きながら笑う、君の笑顔が……。



「あなたが笑っている時に、私は笑えない……あなたが悲しんでいる時に、私は悲しめない……人間にそっくりなこの体でも……あなたの心に寄り添えなかった……」



なんだ、そんな事か……そんなの……もういいじゃないか……。



「……此処で死ねば……今度は一緒に笑えるようになるよ……」


「……嬉しい……やっと、あなたと笑い合えるのね……」


「……うん……これからは、ずっと一緒だから……」


そこで静かに、僕の体を彼女は再び強く抱き締めた……。


人間そっくりに作り上げたその人形の体には体温も、胸の鼓動もある筈がないのに……僕には暖かな温もりとドクドクと脈打つ鼓動が聞こえた。


ああ……間違いなく僕達は地獄に行くっていうのに……こんなに幸せでいいのかな……。


……でも、最後ぐらいは……僕だって幸せになってもいいよね……。



最後に、僕は自分の胸から込み上げる言葉を口にして最愛の人へ気持ちを伝えた。




「 ……好きだ、シェリー……君を愛してる…… 」


「 ……私もよ……アヒム、地獄でだってあなたを離さない…… 」



互いの変わる事のない愛情を確認し合った瞬間、轟音と共に天井を突き破り現れた赤く焼けた鉄の刃が……僕達の体を液状化させ、二人で混ざり合っていくのを感じた……。


シェリー……今度は、もう……置いて行かないでね……。

 

 











 




 









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