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殲滅のマタドール   作者: ユリグルイ
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殲滅のマタドール:17話 狂乱舞踏

「……くっ……う、うぅぅぅぅぅぅあああああああああッ!!」


……私は、泣きながら吠えた。


そのあまりにも冷酷で、卑劣な罠に対して……そして、自分が取り返しの付かない事をしてしまった絶望に……。


以前までロックされていた感情というプログラムが、私に全身から絶望を吐き出させる。



「……アヴィ?……何が、起きたの?……」


「……私が、彼等を……殺しました!……」


「……えっ?……」


背後から、サシャの視線が突き刺さる。


振り向いて顔を見る事なんて出来ない。もし、私の事を……怖がっていたり、憎んでいたり……そう考えただけで、頭がどうにかなってしまいそうだったから。


だから、歯を食い縛りながら私は……その視線に背を向け続けていた。



「ほう、マスターの術を使った人形(ドール)を全て殺したか。昨日の甘さを捨てたようだな……」


突如聞こえたその声には、聞き覚えがあった。


小さく息を漏らしながら声のした方を睨み付けると、其処には闇と融け込む様に全身を黒で統一した衣装を着込む男達が居た。やせ型の口髭の男と、小太りの男……忘れもしない、昨日私とウィルを襲った暗殺ギルドの連中だ。


やはり彼等が……この悪夢の全ての元凶!。


「……これはあなた達の仕業なんですか?……」


「……先に村へと侵入したマスターがエルフ共に死霊を使った魔術を掛け操り人形にする。何度見ても惚れ惚れする手際の良さだ……」


「……ッ……動きを止めただけで皆死んでしまったのはどうしてですか!?……」


「いざという時の保険だよ。仮に術を打ち破り正気に戻った対象が我々の情報を敵に漏らさぬようにする為のな……指示以外の行動を取れば魂に取り憑いた死霊共が即座に心臓を食らい殺す様に術へ組み込まれている……」


交互に答える男達の顔は、あまりにも悍ましくあまりにも冷酷な事を話しているというのに……ひどく淡々としていた。まるで、普段の生活の一部を語るかのように……。



……許せない……絶対に、許せない!。


「さて、それではマスターを待たせているんだ。二人には此処で死んで頂こう……」


「ああ、マスターを待たせる訳にはいかん。手早く片付けるぞ……」


殺し屋達はコートの中からそれぞれの武器を取り出し、静かに足を進めた。


……もう、私は逃れられないのかもしれない……そう覚悟せざるを得なかった。


私は一生……敵の返り血を浴び続け、誰にも感謝される事なく殺し続ける戦闘機械……。


……冷たいボディの、殺戮人形……。



「……アヴィ……」


静かに歩み寄る二人へ虚ろな目を向けていると……急に私の背中に暖かな体温が伝わった。


……私の大切な人が、守りたい人が……私を抱き締めてくれた……。


そして……言ってくれた……。



「私を……私を助けて、アヴィ!……」


「ッ……はいっ!……」



……ああ……サシャ、貴女は……貴女は……。


貴女は、まだ私を必要としてくれるんだ。



---------


駆け出した二人は真っ先に以前までとは違うその女を殺すと決めた。奇妙な金色の光を纏い、明らかにそれまでとは異なる様子を見せるその女を二人掛かりで潰すべきだと判断した。


ナイフを手にする男が鷹の様な鋭い眼光のままに煌めくナイフを一閃する。幾度も熟して来た仕事の中で彼は剣とは違い幅も長さも劣るナイフで如何に効率よく人間を殺せるかを研究し、実践して来た。真っ先に狙うのは首筋、そして心臓、頸動脈からの大量出血と血液を循環させる心臓を破壊する事により瞬時に相手を行動不能にする術を彼は見出した。


しかし、ナイフを振るった彼は目の前で起きた光景に目を見開き硬直した。


首筋に向けて振るった凶刃は、その肉を切り裂く事なくまるで煙に吸い込まれるように実体を持たない幻影を引き裂いた。


光学技術の結晶である攪乱用ナノマシン、ムレータの見せる幻影が暗殺者を翻弄した。



「こ、これは……どういう事だ!?」


ナイフを持つ男の背後から追撃しようと愛用している手斧を握る小太りの男はその光景を見て絶句した。


二人を取り囲む様に漂う黄金のカーテンの中ではあちこちにその少女の姿が浮かんでは消え、そして浮かび上がっては消えていく。人工筋肉と人工関節を駆使し高速で移動するアンドロイドの残影をナノマシンがプログラム化し投影する。


「これは……魔術なのか!?」


「わ、分からん!いったい何が---」


その瞬間、混乱した様子で左右に目を向けていた小太りの男の胸に丸い穴が空いた。


対人出力に調整されたアンドロイドの持つ白兵戦用兵器の一撃が、男の心臓を高熱を放つ刃により溶解させた。赤黒い穴から煙を上げて崩れ落ちる相棒の姿を見て、男は覚悟を決めた。


恐らくこれから自分は死ぬ事になるだろうと。


しかし男はナイフを捨てる事は無い。長年仕事を熟して来た暗殺者のプライドがそうさせたし、何より敬愛する主を裏切る訳にはいかなかったからだ。



「マスター……私は、あなたに拾われ幸せでした。行き場を失った軍人である私を迎え入れ、必要としてくれた……。その恩義、此処で命を捨てて果たしましょう!……」


男は覚悟を決める。この黄金のカーテンの向こう側に居るもう一人の少女へ狙いを変え、せめて主の望む結果を少しでも叶えようと決意する。


夜の奇襲を想定し、最も多く人を殺して来たシチュエーションの中で神々しい黄金の輝きに包まれた男は尚も夜に紛れて行動する殺し屋としての矜持を保ち続けた。


薄汚いの路地の中、使い捨て同然の作戦から生き残り社会に居場所を失い絶望していた際に手を差し伸べてくれた少年への忠義を貫き続けた。


彼は、人工的に作られた肉体が生み出す驚異的なパワーにより地面を蹴った戦闘機械による一閃が頭部を切断するその瞬間まで……幸福に満たされていた。


真っ黒な衣服を噴水の様に噴き出す鮮血に染め崩れ落ちる男に背を向けたまま、アヴィは振り返る事なく手にした対艦兵装の赤く燃える刃を納めた。収縮し、柄のみになったエストックを腰のホルスターに仕舞うと彼女は顔を上げ守るべき人を見た。



「……サシャ……怪我は、ありませんか?……」


「……平気、貴女のおかげ……」


本来、すぐにでも泣き出してしまいそうなのに……泣き叫びたい筈なのに……。それでもサシャは、必死に笑顔を作り相手を安心させようと微笑んだ。


きっと、自分が泣いたらアヴィはもっと泣いてしまうと思ったから……。


涙を零しながら無理矢理微笑む大切な人を見た瞬間、アヴィは覚悟を胸に刻む。


彼女を守る為であれば、自分の命も他人の命も……諦めようと。


すぐにでも倒れてしまいそうなサシャを抱き締めようとアヴィが一歩足を進めた瞬間、突如その轟音は鳴り響いた。


地面を揺らすような騒音と共に、村を覆っていた森が全焼した。


「な、何なの!?……」


「サシャッ!私の傍へ!……」


駆け寄ってきたサシャの肩をアヴィが抱き寄せたその時、ゆっくりとその巨人は燃え盛る森から姿を覗かせた。



全長50メートル、全身を魔力を通しやすいグリーン・エメラルドの鉱石で覆い尽くした狂気の産物が赤く発光する1つ目で彼女達を睥睨する。



巨人の名はゴリアテ、メルキオ帝国西部方面司令官であるクリスティーヌ・バンゼッティが子飼いの暗殺ギルドに支給した要所防衛用ゴーレムが操舵者の意志を反映するように不気味な雄叫びを上げた。



−−−−−−



「アハハハハハハッ!やるじゃないかァ!あの二人を倒すなんて見直しちゃったよ!」


二人の操舵者はその巨大なゴーレムの内部に作られた“操舵室”の中に居た。魔力を通しやすい鉱石で作られた制御ユニットに手を当てながらアヒム・ハインリヒは狂気に満ちた声を上げる。


先程の一撃で逃げ出した逃走者は全て、焼き尽くした。愚かにも森へと逃げ込んだ逃走者は全て死んだ。


だから、残るターゲットは村に居る二人だけだ。


球体の制御ユニットに手を当てると、彼は隣で同じように球体に触れる少女へ声を掛けた。


「……やろうか、シェリー……これが最後の仕上げだ……」


「……はい、アヒム……やり遂げましょう……最後まで!……」


隣に並んだ二人は制御ユニットに片手を当てたまま、空いた手の指を絡め合い硬く握り締めた。


そして、目的を達成する為に目を閉じてその最大規模の災厄を引き起こす準備を整える。


世界に初めて火災という災厄が舞い降りた時の恐怖を、絶望を……その全てをイメージし巨大な魔石へと念じた。


全てを焼き尽くせと。




「「 インフェルノ・ゼロ!! 」」




二人の叫びと共に、地獄の業火は村へと突き進んだ。



−−−−−−


「サシャ!隠れて!」


その巨人が地面を叩き付けた瞬間、私は無意識の内に彼女わを庇うように前に立ってシールドを展開させていた。


地面を突き破る様に上がる火柱が、私達を包み込む。



< 警告、シールド外部7000度の高熱を感知。耐熱ナノマシン、展開開始 >


「ぐっ、うっ、あああああああああああああああっ!!」


展開した金色のシールドが炎を跳ね除ける。


その灼熱の地獄に私は耐えた。 


その、狂気とも言える熱に……耐えた。


このままやり過ごせれば、きっと奴の攻撃を凌げる!。そう確信して、私はシールドを展開し続けた。


その時、絶望的なシークエンスが私の耳に届く。


< 警告、マーキング対象保護用ナノマシンが想定外の熱損傷を受け展開不能。一分でナノマシンを再構築します >


……ちょっと……待って!……。


ナノマシンの構築には、最低でも30秒は必要になる!……30秒……この7000度の灼熱の炎の中にサシャを晒せと……そう言うの!?。


ま、待って……待って!。


サシャが……死んじゃう!!。


< ナノマシン再構築まで、残り50秒 >


出来ない!そんな事、出来ない!……でも、どうすれば……。


< ナノマシン再構築まで、残り40秒 >


やだ、やだ、いやだっ!!サシャッ、サシャッ、サシャァァァァァァァァッ!!。


< ナノマシン再構築まで、残り30秒 >


嫌だから……死んでほしくないから……そうだ、方法がある……一つだけ……。



「……サシャ……」


< ナノマシン再構築まで、残り20秒 >


「ア、アヴィ?……」


「……大好き、サシャ……」


私は……貴女の事を……愛してる……。



サシャ……それじゃあ……。



< ナノマシン再構築まで、残り10秒 >


……お元気で……サシャ……!。



「防御用ナノマシン解除、10パーセントを残し90パーセントを背後のマーキング対象へと振り分けろ!やれっ!」


< 警告、敵の攻撃は想定熱量攻撃範囲を大きく超えています。ボディに深刻な損傷を負う可能性があります >



……ごめんなさい、サシャ……一人にしてしまって……本当に……。



ごめんなさい!!。



「防御用ナノマシン解除!!90パーセントをマーキング対象へと付与しろ!!やれぇぇぇぇぇぇぇええええええええッ!!」



< イエス・サー。防御用ナノマシン解除、マーキング対象へ10パーセントを残し展開開始 >



生きて……サシャ……。


貴女は生きないと……幸せにならないと……いけない……。



さようなら、大好きなサシャ。



































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