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殲滅のマタドール   作者: ユリグルイ
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殲滅のマタドール:16話 悪夢の中で

ショッキングな展開が続きます、ご注意ください

鮮血が溢れ出す腹部を押さえながら、アヴィは凍り付いた表情で彼を止めようとした。


しかし、縋る様にして伸ばしたその腕は……黒々とした瞳で見下ろすウィルが声すら発さず振り下ろした斬撃によって切断される。


「う、あぁぁぁぁっ!!ぐっ、うぅぅぅぅっ!……なん、で……なんで……ウィルぅぅ!……」


涙を流し切り落とされた腕を押さえると、アヴィは必死に彼の名を呼んだ。そうすれば、彼が正気に戻ってくれると信じたからだ。


しかし、アヴィが必死にしがみついたそんな希望は無情にも砕かれた。言葉を発する事なく情のない操り人形と化した青年は無機質な表情でその剣先をアヴィの胸元へと突き立てた。


「お"っ!?がはぁっ!!……あ……あ……ぁ……」


ミシミシと音を立てて背中まで貫いた鉄塊は、アヴィに確かな死を予感させる。気道が溢れる血で詰まり、呼吸が止まる。大量出血により、体温が低くなっていく。


死ぬ事自体に恐怖心を感じはしなかった……しかし、兄の様に慕ってきた相手に訳も分からぬまま殺されるその状況は感情という機能を開放した少女の胸にヒビを入れた。



「……あ……あ"……あぁ……」


そんな声を血の口紅が引かれた唇から吐き出すと、自身の生命の終わりを覚悟したアヴィは生気を失った瞳を閉じようと力を抜く。


次に目が覚めたその時は……きっとこんな悪夢から抜け出していますようにと願いながら。


だが、悪夢はまだ彼女を手放そうとはしなかった。


ザクッ……。


再び鈍い刺突音が聞こえた。アヴィが再び目を開くと、そこには更なる悪夢が広がっていて……自分の中で軋みヒビ割れた何かが砕ける音を聞きながら目を見開いた。



「……なん、で……なんでなのよ……ウィルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」


視界の先では、恐怖や悲しみや絶望、そして怒りの混ざるグチャグチャな表情を浮かべたサシャが……その青年の背中から心臓へ肉を調理する際のナイフを突き立てていた。



−−−−−−−


……なん、で……なんで……どうして……?。


ねえ、ウィル……なんで、こんな事……するの?……。


私、貴方が好きだった……家族を全員失った私をとっても大切に想ってくれて……貴方の気持ちだって理解してた。


必死に私を支えようとしてくれる貴方に……感謝と罪悪感と、心からの愛を抱いて伝えた告白だって……優しいから断ったんだって……理解して……分かろうとした!。


なのに、何で……どうして私が好きになった子を……殺そうとするの?……。



「う、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!わかんない、わかんない、わかんないわよぉぉぉぉぉっ!!……なんで、なのよぉぉ……すき、だった……やさしい貴方が……好きだったのにぃぃぃぃぃぃっ!!……」



彼はもう……何も答えてくれない……。


分からない……分からない……なんで、なんで、なんで……。



なんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんで……。



「……アヴィィィ……おしえてよぉぉ……なんで、こんな……こんなぁぁっ……」


冷たくなった彼の体から……身を離し……フラフラと私は立ち上がると足を進めた。


……アヴィは……血の海の中で、悲しそうな目をして私を見てた……。


……私……もう、分かんない……何もかも……分かんない……。  


死んだほうが……いいのかな……。剣は、傍にある……首を切って……死のうかな……。


「……サ……シ……ア……」  


……アヴィ……。



「……ゴホッ……ザ……ァァ……」  


……ア……ヴィ……アヴィィィ……。


う……ア……ア………



うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!。



「だずげでぇぇぇっ!!だすげでよ"ぉぉぉぉっ!!……わがんない"ィィィィッ!!もう、わたじ……わがんないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」   



−−−−−


……なんのために、頑張ってきたんだろう……私……。


また、助けられなくて……悲しませて……苦しませて……。


誰かを、大切な誰かを守る為に生まれてきたのに……私……。



私は結局……役立たずの……バケモノだ……。



ワタシハ   ヤクタタズノ  




終戦後の廃棄物(コラテラル・ダメージ)




“ −−−いいえ、貴女は……必要な存在よ…… ”


もう、やめて……疲れた……眠りたいの……母さん……。



“ −−−貴女は眠れない……休む事を許されない……”


なんで?……もう、やだよ……このまま……寝かせて……。




“ −−−貴女はもう、人間としての感情を……知ってしまったんだもの……”




−−−−−−


MatadorSystem、スタンバイ。




各部損傷チェック開始。




ボディの80パーセントを負傷。偽装用ボディ活動不能、直ちに修復用ナノマシンを起動しモードチェンジを行います。




修復率85パーセント、人工筋肉再構築開始。




修復率96パーセント、各部人工関節再構築開始。




修復率100パーセント、モードチェンジ開始。




モードのオーダーを確認、“ピカドール”モードにて作戦行動へ移行します。




武装確認。




対重装甲機体攻撃用武装、“エストック”起動。 


汎用目標攻撃用ランチャー“テカムセ“チャージ完了。


武装・対人制圧用ナノマシン格納コンテナ“ラフレシア“装着完了。


対重装甲機体攻撃用弾頭“バンデリラ”装填準備完了。 



防御用ナノマシン展開。




撹乱用光学ナノマシン“ムレータ”放出開始。




戦闘準備完了。






---ようこそ、アヴィ。良き戦争を。



−−−−−−−


周囲のエルフ達を殺し尽くした“操り人形”達はフラフラと剣や鍬を手に持ったまま彼女を取り囲んでいた。泣き腫らした目でそれをボンヤリと見つめるサシャには恐怖も何も、感情を抱く事が出来なかった。


ただ、これでようやく悪夢が終わる事に感謝した。


前に進み出たエルフ族の青年の一人が濁った目のまま長剣を振り下ろし、その顔を真っ二つに両断しようと冷たい殺意を向ける。


その時、突然彼の体が糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちる……。



「……貴女一人に……絶望を背負わせない……!」


「……ア……ヴィ……?」


「……ごめんなさい、サシャ……これが……本当の私なんです!」


振り向いたサシャの視線の先には、片手を前に掲げ瞳を赤色に光らせる彼女が居た。


多目的戦闘用アンドロイド、アヴェンタドールが金色のナノマシンによる衣を光らせ立っていた。


< 目標視認。剣、及び農機具で武装した人員が二十名。オーダーを確認。 >


「……マーキングしたターゲット以外、全ての対象に対し……暴徒鎮圧用ナノマシンを使用……」


< イエス・サー、対象マーキング完了。これより暴徒鎮圧用ナノマシンを散布し目標の行動を強制的に停止させます。>


アヴィの背後に取り付けられた四角い小箱から一本の板が突き出した。それはナノマシン放出用のブレードで、黄金の粒子を放ち設定された暴徒鎮圧用ナノマシンを送り込む。発光しながら漂う極小サイズの科学技術の結晶はブレードから放たれる微風に乗って対象へと飛来し、鼻孔を通して体内に入り込むと筋肉へ電流を放出しその動きを強制的に停止させる。


金色のカーテンがサシャの体を避けながら雪崩込み、意志を持たない人形と化した彼等を2秒足らずで制圧した。


次々と崩れ落ちる彼等を目にすると、安堵した様にアヴィは小さく息を漏らす。


どうなってしまったのかは分からない……しかし、これで目が覚めるまで彼等が大人しくしてくれれば……アヴィはそう思い足を進めようとした。



< 警告、制圧対象が全員死亡しました。原因不明、現在解析中……。>


「……えっ?……」


< 解析完了。対象者は何らかの技術により心肺停止状態で活動し、指定された以外の行動を取ると自動的に死ぬようにプログラムされていた様です。>


「……あ……あ……あぁぁっ!?……」


その無慈悲な結果を知り、心優しい戦闘機械の精神が再び軋んだ。


そして、自覚する。


自分は、優しかったこの村の住人達を殺してしまったのだと……。



−−−−−−


「随分と静かになったね……お祭りはもう終わったかな?」


少年は静まり返った村へ目を向けると唇を吊り上げた。


彼の使用した魔術により操り人形と化した男達は武器を手にして思った通りに行動を始めた。素人の人間でもまるで冷酷な殺し屋の様に人を殺し、恐れを知らず誰にでも向かっていく。死霊に魂を食らわれた人間を意のままに操る術は才能を開花させた彼がベアルゴと呼ばれる国に居た時代、軍に重宝された技術だった。


更には仮に術を掛けられた人間が何らかの方法で魔術を打ち破ったとしても強制的に心臓を停止させ死に至らしめるという悪意に満ちた“安全装置”まで兼ね備えていた。


アヒム・ハインリヒは天使の様な顔をした悪魔だった。故にその悍ましい術を扱う事に何の躊躇いもないし、迷いもない。  


静かになった村へと視線を向けながらアヒムは両脇に立つ男達に行った。



「それじゃあ大詰めだ、残党狩りと行こう……君達は村をお願い。僕等はこの“玩具”で森へ逃げた連中を狩るから……」  


「はっ、マスター……」  


二人は深々と敬愛する主へ頭を下げると、夜の暗闇と一体化する様な黒いコートを靡かせ駆け出していった。    


踵を返したアヒムはゆっくりと視線を下から上へと上げながら、クリスティーヌから受け取ったソレを眺めた。


そして、その“足元”で立ち尽くす彼女へと声を掛ける。  


「始めようか、シェリー……僕達の戦争を……」  





 





      


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