それでも彼女と言うことには
それでも彼女が言うことには
夏の終わり秋の始まり、僕はちょっとした病気で寝ていた。そんなときにはたいてい――僕は思うのだが――何かメールがきたりするモノだ。とりあえず友人が帰省したので、遊ばねばならない。寝ているほどでもなかったし、出かけた方が気分がよい。そう思って車で待ち合わせ場所に行った。友人と知っている女の子と知らない女の子がいた。僕らは展望台になっている喫茶店には入り、コーヒーを注文した。
友人の山田が言った。「谷口は知ってるでしょ。隣は岬和子さん」
初めましてとぎこちなく挨拶した。
それから僕は彼女らと話し、メールアドレスを交換した。山田や矢口さんのおかげでまったく疲れなかった。僕らは気持ちよく別れた。
僕は出張ついでに、すすきのでさんざん遊んだあげく、岬さんのことを思い出しして白々しくメールをした。「こんにちは、お久しぶりですね。今出張で札幌に来ています。もし良かったらお土産を買っていきたいんですけど、何かお好きなモノはありますか?」彼女ははじめは遠慮していたが、「ある有名な和菓子」の名前を挙げた。僕の記憶の中にはそれはない。闇の中でフクロウがただ見つめて答えてくれない。まあだいたいそんな感じだ。
僕は「ある有名な和菓子」を買ってそれを口実に岬さんとデートをした。市が財政難なのに作ってしまった「どでかい公園」で、ちょっと寒い中、僕らは和菓子を食べいろいろな話をした。それから僕らはつきあうことになった。たわいもないデートやメール、そんな日々が楽しかった。でもある日、僕は自分の病名を告げねばならないと思った。職場の連中と話していたときに結婚の話になったからだ。
僕は彼女を呼び出して,病名を告げた.彼女はテーブルに突っ伏して,何も言わなかった。
帰り道僕たちは無言で初めてキスをした。それからつきあいはどんどん深くなり、いろいろな場所に夜に車で行っていちゃいちゃするのが僕らの作法だった。
たまにはホテルも使った。コトが終わると彼女は裸で僕に反対になるようにいい背中から抱きついた。彼女の乳房を背中に感じながら、「フフ、これいいでしょ」と言われた.そのとき初めて彼女の昔の男に嫉妬した――がやめた。そいつらと僕は決定的にちがうのだ――僕はその違いについて考える。もうすぐあいつらが僕を呼びにくるだろう。
で、それは映画館で始まった。映画は五分で僕は気分が悪くなり、彼女に出ようと行った。次の取り返しのデートの時、夕食時に僕は倒れた.あとのことは覚えていないが、彼女は料理を折り詰めにして持って帰ったそうだ.思わず僕は笑ってしまった。でも次のデートで気もち悪そうにしていたら、それは決定打だったのだ。結局は別れることになった。彼女から切り出された。結婚ということも考えれば、仕方のない年齢だった。
僕は黙って彼女の言うことを聞いていた。
汝、健やかなるときも病めるときも、伴侶を愛しますか? いいえ。
夏の終わり、秋の始まり、また僕は考える.あのようなことはまたないのかと。でも僕は思うのだ。こうなることははじめから決まっていたと。そしてそれを教訓にも何にもできない人生の無駄だったと。何もなくてもいい糞の固まりだと。それでも彼女の言うことには、つきあっていて非常に楽しかったと、いや、それだけは言いたかったんだと。