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「死にたい」って、そう思ったことはありますか。私は何度もあります。でも死ねなかった。
私は小さい頃から自分以外のいわゆる“心の傷”と呼ばれるものが見えました。人々はよく、悲しい時苦しい時に「心が傷付いた」と言いますよね。私はその傷付いた心が見えるのです。
心の傷は人それぞれ。傷一つない人なんて今まで一度も見た事はないです。小さな傷が沢山ある人、大きな針のようなものが刺さっている人、いろんな人達を見てきました。いろんな人達を見てきていつも思うのは、どんなに小さな傷でも一生痕は残り続けるんだなってこと…。
それと、彼女より酷く傷付いた心は見た事がないってこと。
───────────雛瀬羽月。彼女の心にはナイフよりは大きく、包丁よりは小さい刃物が奥深く刺さっていた。傷口が広がり続けて、一向に塞がりやしない…とめどなく中の何かが溢れ出てきて、今にも息絶えてしまいそうなそんな“心の傷”だった。
彼女を見たのは、電車が踏切を通る本当に直前でした。彼女は泣いていました。不謹慎かもしれませんが、その姿はすごく綺麗で、私は目を奪われました。
そして次の瞬間、雛瀬羽月は電車が近付いていた踏切の中に飛び込んだ。
ああ、たくさん我慢したんだね。私以外の誰にも見えていない致命傷は、貴方にこんな未来しか選ばせなかったのね。死ぬことよりも生きていることの方が辛かったんだね。
出来るのなら、あんな心の傷は私が生きている中ではもう見たくはないな…。