さよならエメラルダス
電たんぽの威力は凄まじい。
あれ以来、俺のベッドに忍び込むことはなくなった。
まあ、互いに中2と小5になったこともあり、薄々は感じていたと思う。
別に電たんぽが無くても自然に離れていったと思うし、いつまでも一緒に寝てられないことは双方よく知っていた。
何だか少し寂しいような切ないような……。
そんなセンチメンタルに浸ってる場合じゃない。
電たんぽを作ったもう一つの目的を達成せねば!
妹の部屋から帰ってきた俺は押し入れの天井から例のブツを取り出し、ベッドに体を放り投げておもむろにソレを広げた。
友人から借りたエロ本である。
なんだかんだ理由をつけているが、本来の目的は、
「誰にも邪魔されず好きなだけエロ本を堪能すること」
これに尽きる。
インターネットどころか、ビデオデッキすら普及していない時代、エロ本は俺ら健康的な中高生のマストアイテムであった。
繁華街から少し外れた場所にあるエロ本自動販売機へ、夜中に友人と自転車をすっ飛ばして買いに行ったものだ。
なけなしの大枚をはたいて買ったエロ本は、修正がキツく、すべてが真っ黒だった。
肌色より黒の方が多すぎて「なんにも見えねぇじゃねぇか!」と、エロ本を地面に叩きつけた。
本屋で購入する時は、帽子とマスクで変装し、ドキドキしながらレジへ向かう。なるべくオヤジ店員がいる所を狙って並ぶのだが、たまに運悪く若いお姉さんに当たる時がある。
その場合はクルッと回って一旦本を戻し、オヤジ店員になるまでひたすら店内をウロつくはめになる。
ちなみに友人は、雑誌と雑誌の間に挟む「エロ本ミルフィーユ」を実践していたが、一体いくらかかるのよ。おこづかいの殆どをエロに捧げてるのか?
特に中学生にとっては入手自体が難しく、購入には度胸と根性と運が試される。
どのくらい難しいかを分かりやすく説明すると、ダークドレアムを倒したあと「はぐれのさとり」をドロップさせるくらいの難易度である。
うまく入手した奴は英雄として崇め奉られた。
そんな汗と涙の超レアアイテムをじっくり堪能したい。これは健全な男子なら理解できるだろう。
ところが……。
兄貴のたゆまぬ努力を見事に蹴散らし、勝手にやってくる俺妹。
毎日毎日押しかけて来ては学校がどうだの友達こうだのと、くだらないピロートークを聞かされ辟易する。
1ページも開かず返した本が何冊あることか!
たまに油断して読んでいる最中にドアを開けられたこともある。
「うわ~、いやらしい。スケベ、変態!」
そう言いながらベッドに潜り込んでくる。
なあ、変態はどっちだよ!
これからそういう事はない。
自由な時間を自由に使え、俺は天国への階段を駆け上るのだぁぁぁ。
断っておくが愛読書はプチトマトではない。
これは俺の名誉のために言っておく!
水と凍りに囲まれた惑星に一筋の光と、そしてすべてを照らし出す太陽が差し込んだ。
「ああっ隆志、さようなら。私はあなたと共に生きることができて幸せでした。これからも私はあなたの傍にいます。忘れないで……」
氷の涙を一滴こぼし、エメラルダスは彼方へ消えていった。
ごめん、エメラルダス。またいつか会おうな!