3人娘よ永遠に
人生で最も無駄な事 それはバカと関わる時間。 by隆志
何度目かの春が過ぎ、何度目かの冬が訪れ、また春が来る。
その日も変わらず仕事をして帰宅した。
「お帰り」
「……」
「今日、仕事どうだった?」
「……」
「……寛子さん。今頃どうしてるかな?」
「がっ……」
き、傷口を広げて塩をぬるような真似はよせ!
俺の後ろにいるヤツが楽しそうに大鎌をブンブン振ってるんだからっ!
この春大学を卒業した凛は就職した。
それに伴いアパートを引き払い実家に戻った。
なぜかは知らないが選んだ職種は不動産屋だった。しかも大手有名不動産会社。俺がその会社の社長に会ったらペコペコひれ伏すであろう、超有名企業だ。
……パパのコネ?
そこで懸命に仕事を覚えている最中である。
「お前の方はどうよ?」
「面白いわよ。色んな事を教えてくれるし勉強になるわ」
「そうか。それは良かったな」
そう言って風呂へ入った。
風呂から上がるとバスタオルと下着を用意してくれていて、
「じゃ、私もう寝るね」
そう言って隣へ帰っていった。
最近の凛は仕事を覚えることで精一杯で、あまり顔を出さなくなった。
まあ、始めの頃とういのは緊張と学びが多すぎて楽しむ余裕などない。現に俺がそうだった。
親方の元で修業していた頃は、毎日が戦いみたいなものだった。学ぶことが山ほどあり、周りを見る余裕すらなかった。1日1日が真剣勝負だった気がする。
彼女は彼女なりに頑張っているだから、俺が口を挟む隙間はどこにもない。
妹はこの間、無事男の子を出産した。
一番喜んだのは祖父で、毎日ひ孫の世話をしているらしい。
バカが移らなければいいのだが……。
あいつはあいつなりに苦難を乗り越え、ようやく掴んだ幸せ。もう手放しはしないだろうし、これから三井? 健太?……間男と共に何とかやっていくだろう。
姉はすでに2児の母親になっている。
第一子が長女で第二子が長男という心が動揺してしまう配列だ。
余計なことを言うと踵落としだと思うので、黙って見守ることにする。
ただ、弟よ。これから先、君にどんな困難が待ち受けていたとしても、俺はお前の味方だからな!
3人娘が俺を踏み台にして大きく羽ばたいた。
それぞれがそれぞれの道を歩き始めた。
色んなことが走馬灯のように蘇ってくるが、それも今となっては懐かしい思い出である。
もう彼女らに俺の手助けは必要ない。寄り添い助け合った時代は終わりを告げた。これからは自分の信じた道を突き進んでいくだろう。
俺はいつでも噛ませ犬。花を美しく見せる霞み草。
そう、これで俺の役目は終わったのだ! 明日から自由なのだ!
次の日。
目が覚めてリビングに行くと、テーブルの上に妹の出産祝いに持って行こうとしていたカニが散乱していた。
おい凛! テメー、腹減ってカニ食ったろ!
食べるのはいいが、食べカスはちゃんと始末しろ。
死臭がするんだよ、部屋全体がっ!
死神がワクワクしながらへその緒を狙ってるんだから!




