たった1人のバージンロード
その後……。
なんやかんやで1年が経ち、二人は結婚した。
両家とも両親がいないため盛大なお披露目は行わず、身内だけの小さな結婚式をした。
身内といっても俺と祖父だけだが……。
バージンロードを1人で歩いている姿を見た時、彼女の人生とリンクして胸が張り裂けそうだった。
ここにたどり着くまでどれだけ苦労しただろう。
家庭が崩壊し、行き場を失い、己の命さえ安っぽいモノに感じた。それでも歯を食いしばり生きる事に命を懸けた。
もし俺と出会わなければ、この道を歩くことすら叶わぬ夢だったろう。
本来なら父親に手を引かれて歩くものだが、人生の半分を1人で生きてきた妹。
未来と希望のバージンロードを、堂々と、そして何の迷いもなく、たった1人で歩いている姿は眩しいくらい輝いていた。
おい、クソ親父。この姿を見れないお前は史上最高の不幸だ。今頃は刑務所で地獄を見ているだろう。ざまあみろ。人類のクズがっ!
式は淡々と進み、誓いのキス。そしてライスシャワー。
たった2人のシャワーだったが、俺には数千人、数万人が祝福のシャワーを投げかけているように見えた。
「寛子さん。おめでとう!」
凛が手を叩いて喜んで……なぜお前がいる?
披露宴とかそんなモノはやらない代わり、祖父、俺、妹、健太+1匹で食事会をした。
「野口君。これから寛子をよろしくね」
「はい。分かりました」
すると妹はケタケタ笑った。
「もう野口じゃないわよ」
「は? 何言ってんだお前!」
「彼はね、三井になったの」
「なっ……んですと!?」
祖父を見るとイヤらしい笑顔を浮かべながら上機嫌にワインを飲んでいた。
「おい、ヤブ医者。お前何か仕掛けたな」
「俺は何もしてないよ。健太君が家の息子になっただけだ」
「む、息子だとぉ~」
思わず大声をあげてしまった。
話は簡単だ。
跡継ぎが欲しかった祖父。そこへ現れた未来ある若者。そして娘の孫。病院を譲り渡すにはこれ以上ない最強の組み合わせだ。
妹は妹で自分と同じような境遇の人が現れ、仕事を通して話をしていくうち恋心が芽生えた。好きになったら止まらない。ドンドン距離が縮まり、みるみる心が触れ合い、離れがたい存在となった。
そしてそれを見た祖父が計画を企てた……。
俺は祖父を睨みつけ、
「もしかして、息子になったら病院をやる! とか言わなかったか?」
顎に手をあてた。ビンゴ!
「未来ある若者になんてことをするんだ。この老害!」
「ち、ちょっと待ってください」
俺の怒りをよそに、野口、いや三井……めんどくせー。間男でいい!
「僕から息子を申し出たんです」
「に、にゃにぃ!?」
「寛子と相談して、僕からお父さんにお願いしたんです」
お、お父さん?
愛娘を亡くし憔悴しきっていた祖父の気持ちを痛いほど理解する妹。病気の自分を懸命に面倒をみてくれ、大学まで出してくれた。仕事も一所懸命手助けしてくれた。増田家はすでに崩壊しており、囚われる必要などない。
以前から「おじーちゃんの娘になろうかな」と言っていた。俺が烈火の如く怒鳴り「それだけはやめろ!」と猛反対しまくった。
だが、結婚を機に一つの区切りとして、2人とも新たな道を歩むなら・・・。
祖父の息子になった間男。そこへ嫁に行った妹。息子夫婦を手に入れた祖父。
三者の思惑が見事に合体し、無敵超人ザンボット3 になった……という訳だ。
こんなの茶番だ、茶番!
それを傍らで聞いていた凛が、
「名前なんてどうでもいいじゃない。みんなが幸せなら。ねぇ、お姉さん?」
お、お姉さん? お前まで出しゃばって話をさらに複雑にするな! 登場人物の書き分けに苦労するのは俺なんだぞ!
もうさ、話がややこしくて書くのが面倒なんですけど。
まあ、何がどうであれ、祖父と妹夫婦がこれから仲良く楽しくやってくれればいい。俺が心から願うことはそれだけだ。
それにしても注文のビールが遅い。みんなのはもう来ているのに・・・。
おい、そこの店員! 雑談してるヒマがあったらサッサと運んで来いや!
それが今の願いだ!




